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Vol. 296 東京医科大学の第三者委員会(その2/2)

医療ガバナンス学会 (2010年9月17日 14:00)


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東京医科大学の第三者委員会(その2/2)

弁護士・名城大学教授 郷原信郎
2010年9月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


■9月3日開催コンプライアンス研究センター第98回定例記者レクから抜粋

7月13日に第三者委員会の報告書を公表し、その際、理事長、学長と私の3人が出席して記者会見を行ないました。その際も理事長の方から、「郷原先生に は、まだ8月まで契約もあるので、引き続き、第三者委員会の報告書の提言の実行に関して、いろいろアドバイスをしてもらいたい」というようなことが理事長 からも言われていました。
ですから、私が第三者委員会の報告書を作成した、公表したということで終わりではなくて、引き続き東京医大との契約関係を持って、この問題に関わってい くということは、東京医大の側からもすでに表に出されていることですから、その契約関係について重要な事実はコメントをしておくべきだろうと思います。

東京医大との契約にもとづいて、医療のコンプライアンスという観点からアドバイスとか、サポートを行なうということを目的とする東京医大との契約の期間 は4月~8月まで、8月31日までということになっていたわけですが、諸般の事情により私は8月30日でその契約を終了すると、解消するということを東京 医大の側に通知をしました。
その事情とか、具体的な中身、その契約にもとづく業務がどういう状況であって、最終的にどういうようなことになったのかというような点については、弁護士としての業務委託契約にもとづいてやってきたことで守秘義務がありますので、申し上げられません。

ただ、一般的にどういう考え方で今回のこの第三者委員会の報告書が出され、そしてどういう考え方でこのコンプライアンスが東京医大のコンプライアンスの 改革を、そして組織の抜本改革を進めようとしようとしてきたのかということについては、これまでも記者会見の場などでも、そしてそのフォローとして、ここ の記者レクの場などでも再三にわたってお話してきたところですので、説明しておくべきだろうと思います。また、このような契約にもとづくコンプライアンス に関する業務の一般的性格についても説明しておきます。

要するに、第三者委員会の報告書が提言した、本当に患者中心の医療を実現できるようにするための組織の抜本改革が行えるように、コンプライアンスという 観点からさまざまな努力を行なう、さまざまな業務を行なうということを契約の内容にしていたわけです。こういった契約というのは、これまでにもいろんな企 業などの組織について行なってきていますが、まずコンプライアンスにどういう基本的な視点で取り組むべきなのかという点を理解してもらうことが必要です。
その一般的な考え方を理解してもらった上で、今回の第三者委員会の報告書が、東京医大の問題について、どういう調査結果にもとづき、どのようにとらえ、そしてどのような改革の方向性を示しているのかという点をしっかり理解し認識してもらう必要があります。
せっかく第三者委員会の報告書を作成し、そして世の中にも公表したわけですから、提言の内容になっている再生委員会の立上げや再生プロジェクトチームの 編成について助言し、再生委員会のメンバーには、第三者委員会報告書の考え方をしっかり理解してもらうことが重要な業務内容になりますが、それと同時に、 報告書の内容とそのベースとなっている考え方をまず東京医科大学の中で理解をしてもらう。そのためにできるだけ多くの教職員の方々に集まってもらってお話 をする場を作るとか、個別に研修・教育をする、そしていろんな部署の方々とディスカッションする。いろんなことを通じてこの考え方を浸透させていくこと、 それらの業務を通じて、第三者委員会の報告書の提言がしっかり実行されるようにするための様々な活動を行うことが、当初予定していた業務契約の内容でし た。

そういう業務を行って、8月末までに第三者委員会報告書の提言が実行され、東京医大において実態に即した抜本改革が行われるための道筋をつけることが私 の役割でして、そういう面で私なりに東京医大に対して貢献ができることを前提に、業務契約を締結していました。それを1日早く終了せざるを得なかったとい うことは、前提とされていたところと違う状況になったということですが、それが具体的にどういうことなのかは、私の方からは申し上げられません。私の考え 方は東京医大の理事長に文書で伝えてありますので、その点について詳しくお知りになりたければ、当事者である東京医大の方にお尋ねになってください。

そもそも東京医大の方で第三者委員会を立ち上げた目的がどういうことだったのか、どういう考え方であったのか、ということに関しては、5月に立上げた際 の理事長で、6月に辞任された伊東前理事長の「東京医大に第三者委員会を設置した理由」と題するインタビュー記事が、日経メディカルのオンラインサイトに 掲載されています。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/opinion/orgnl/201008/516440.html

「第三者委員会でしかエゴの集団は変えられない」と、東京医大の現状と改革が容易ではないことについて率直に話をされています。そういう前理事長の期待に 最後まで応えられなかったことは心苦しい限りですが、逆に、全理事長の話から、契約の目的が達せられないと私が判断した事情も推測して頂けると思います。

また、第三者委員会の提言の実行、コンプライアンスの再構築に関して、再生委員会の委員長以下の人選が極めて重要だということは、この記者レクの場で も、お話ししました。これまで相次いだ不祥事で信頼を失墜した東京医大が抜本改革によって社会の信頼を回復するためには、その姿勢を理解してもらうために は、それ相当の期待ができるような人選をしないといけないということは強く言ってきました。
その人選がどうのように行われ、どのような問題があるかは、業務の内容に関わることですので私の口からは申し上げられません。ただ、再生委員会の委員の 就任依頼を受けた癌研顧問の土屋了介氏が就任を辞退され、就任を辞退したこととその理由についてご自分で文科省と厚労省の記者クラブにペーパーをファック ス送付されたということで、記者の方から入手しました。
「依頼の後に田中慶司 東京医大理事長より示された指示、条件は、第三者委員会報告書の趣旨を没却するものであり、およそ誠意のみられないもの」などと明 確に書かれています。この土屋氏ペーパーも、再生委員会の人選がどうなっているのか、どういう問題があるのかを推測する手掛かりとなると思います。そのあ たりからも推測してもらえたらと思います。

それから、先程も申し上げたように、一日早く契約を終了させたことは、業務契約に基づく報酬請求にも関係しています。この報酬の件について、若干、学内 の方々の中に誤解が生じているような話を聞いていますし、それが世の中にも誤解を与えかねないように思いますので、本来は、個別の契約に係る報酬のことに まで言及すべきではないと思いますが、誤解を解消するために、敢えて報酬の件について若干触れておきます。

組織の不祥事等に関して弁護士チームを編成して調査を実行する場合には、かなりの費用がかかります。その調査チームの関係の報酬は、第三者委員会の調査 担当委員として調査を総括した赤松弁護士の側から、他の弁護士分も含めて請求するもので、私が、第三者委員会の委員長として、そして、先程お話しした業務 契約に基づいて頂く報酬とはまったく別個のものです。その報酬は私の方にはまったく入りません。
調査の費用というのは、弁護士が通常一時間当たりいくらというタイムチャージで報酬を計算する場合が多いことから、一般的な感覚からすると、かなり高いと思われるかも知れません。
私が入札監視委員会に関わっている沖縄科学技術基盤振興機構の一職員のパワハラの問題に関して大手法律事務所に調査を委託したら5500万円という費用 がかかったということが公表されていて、国会でも問題にされたようですが、そういう事例と、東京医大での調査とは調査の中身がまったく異なります。
八王子医療センターの生体肝移植問題をはじめとして、多くの不祥事について、内部調査の報告書等を精査して、不祥事の中身を把握し、それらに対する大学 当局の対応状況について、理事会議事録等の関係書類によって把握した上で、延べ30人近く東京医大関係者のヒアリングを行い、その結果を成果物にまとめた もので、その調査結果が、私が委員長として中心になって作成した第三者委員会報告書でも使われています。こうした調査を2ヵ月近く、8人の弁護士が関わっ て調査を行うのには、それ相当の費用がかかるのは当然だと思います。

また、今回の第三者委員会の立上げの記者会見の際に併せて公表しましたが、相次ぐ不祥事で大学執行部の対応が混乱を極めていたことから、大学の執行体制 の強化のために、元福岡高検検事長の坂井一郎弁護士に特別顧問に就任して頂き、特別顧問の下に特別顧問室というのを作って、弁護士とか公認会計士がそこに 加わって、理事会の運営、業務の遂行などをサポートしてきました。その関係でも然るべき費用がかかるのも当然です。

これらの費用が、すべて第三者委員会関係費用ということで、東京医大の予算上一緒に扱われた場合、先程の伊東前理事長のインタビューの中でも言われてい る、「変わってほしくない」「自分のいう通りになってほしい」と思って第三者委員会報告書が求めている医大組織の抜本改革に反発している学内の一部の方々 が、費用とか報酬の総額を、第三者委員会の委員長の私に対する攻撃材料に使おうとすることも考えられないわけではありません。そこで、その点について誤解 のないように報酬の内訳について、大まかに説明しておこうと思ったわけです。

私自身の報酬に関して言えば、委員長として責任を持って第三者委員会を企画し、委員会の運営を行ない、議論をとりまとめ、最終的に報告書を作成し、公表 することに関する報酬は、これまで企業等の第三者委員会の場合でも、ほとんど同じ定額の月額報酬で頂いています。それに加えて、先ほど申し上げたコンプラ イアンスについての業務契約というのがあるわけですが、それは4月から8月までの5ヶ月の間に、これまで発生した問題、マスコミから批判されている状況 や、大学の実情を把握した上で対策を検討し、コンプライアンスに関する体制作りや研修教育などを行うことを内容とするもので、それについて別途報酬を取り 決めています。
その業務は、主として第三者委員会の公表の後に集中して行なうことになるということで、7月末と8月末に半額ずつ報酬を請求することになっていたのです が、先ほど申しましたように30日付で1日早く終了させたということの意味は、その8月末日請求予定の分、要するに半額分の請求を私の方から放棄したとい うことです。

契約で定められた報酬を放棄するというのは、私にとっても初めての経験ですが、要するに、契約の前提が異なってきて、私が契約の目的にしたがって、業務 を行うことができない状態になったために、私自身の判断で、請求しないことにしたということです。そんな状況で報酬だけ全額頂くことは、私自身のポリシー に反するということで、そういう決断をせざるを得なかったということです。

東京医大の執行部側からは私の報酬について何も言われていませんし、支払うのが当然ということで振込の手続もされたようですが、私の側からそれを固くお断りしました。
東京医大の問題に関わって以降、私としても膨大な時間を費やしてきましたので、私自身が受け取った最終的な報酬金額はそれに見合うものではありませんが、当初の契約の目的が実現できなかったわけですから、致し方ないと思っています。

今回の東京医大の問題には、私なりに思い入れを持って取り組んできましたし、第三者委員会の報告書も、私なりに心を込めて作成したつもりです。やはり東 京でも有数の伝統のある医科大学であるのに、最近、これだけ不祥事が多発し、社会からの信頼が大きく損なわれかねない状況になっているというのは、その組 織の中に何か根本的な問題があるのではないかという観点から、短期間でしたが、できる限りの調査・検討を行ないました。医大改革の経験も有する医療の専門 家にも入ってもらった第三者委員会の場で、真剣な議論を行い、その結果を報告書というかたちでまとめました。私としては、なんとかその方向で東京医大が抜 本的改革を実行してもらいたい、そして、相次ぐ不祥事でいろいろな批判を受けたてきた東京医大が、この機会に再生を遂げ、逆に医療の世界の改革をリードす る、先進的な医科大学として、社会から信頼される存在になってもらいたいと願っていましたし、第三者委員会報告書の最後にもそういう趣旨のことを書いたわ けです。

そういう思いで始めたにもかかわらず、抜本改革の道筋を付けるまでお世話ができなかったというのは、非常に残念ですし、大変申訳なく思っています。た だ、この問題は、前にもこの場でも言いましたように、複雑多様な社会の要請を受けている医療という分野において、教育、研究、診療という3つの柱で活動し ていく医科大学という組織をどうしていくのか、は非常に難しい要素が多々ある。企業のコンプライアンスなどとは違う難しい問題があるということは確かでし て、なかなか簡単に前に進められるような問題ではないことも確かです。

東京医大の中堅若手の医師の方々からは、徹底的に改革してほしい、という声をかけてもらっていましたし、報告書公表以降は、東京医大の患者や遺族の方々 からも、私のところにいろいろな話が寄せられました。第三者委員会委員長として東京医大の抜本改革に関わりながら、こうして、途中でその仕事から離れてし まうことは、本当に心苦しい限りですが、今後、状況が変わり、私の力が改めて求められる時が来たら、いつでもお手伝いするつもりです。

今後、社会が、そして、皆さんのようなマスコミの方々が、東京医科大学の問題にもっともっとこれまで以上に注目して、関心を持ってもらって、東京医大が 抜本改革にどう取り組むのか、第三者委員会の報告書をどう実行していくのか、しっかり見守っていってもらいたいと思います。私も、東京医大との契約関係は なくなりましたけれども、今後の東京医大がどうなっていくのか、重大な関心を持って見守っていきたいと思っています。

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