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Vol.22146 医療崩壊目前! 発熱した従業員を一律受診させる企業に、方針転換を求めます

医療ガバナンス学会 (2022年7月25日 06:00)


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ナビタスクリニック理事長・内科医
久住英二

2022年7月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

新型コロナ第7波が、過去最大の勢いで日本を飲み込もうとしている。オミクロン株の派生系統「BA.5」の仕業だ。

ナビタスクリニックでも陽性率は連日7割超だ。PCR検査の感度がそもそも8~9割なので、実際には9割以上がコロナだと考えている。他院が閉まっている土日祝日は、発熱や検査希望の患者さんがさらに殺到する。

時間内に対応しきれない状況の中で、立川院では抗原検査キットや市中の検査スポットなどで既に陽性判定された方は、来院をお断わりしてオンライン診療とさせていただいた。立川院、新宿院とも予約外の受付は停止せざるを得ず、また川崎院も枠を縮小している。

検査と発熱患者さんの診療とで疲弊する中、少しでも油断すれば医師やスタッフ内にも感染が広がり診療がストップしてしまうという緊張感もある。新型コロナ診療を行っている医療機関は、おそらくどこも似たような、ギリギリの状況で闘っているに違いない。

このままでは医療崩壊は時間の問題だ。新型コロナ診療現場の問題意識から、各企業の経営陣の方々に、以下のように方針転換を求めたい。
【意見】
企業および各種法人は、コロナ疑いの社員・職員に対し一律に対面受診の指示を行うことを控え、検査キットによる自宅での陽性判定等をもってコロナ休養を認めるものとする。休養期間については、インフルエンザと同様の原則を適用されたい。
今、コロナ診療を行う医療機関に人が殺到している理由の一つは、職場や保育所からPCR検査の結果提示を求められるから、というものだ。

ナビタスクリニックでも、熱はあるし、陽性は出たけれど、普段この程度なら風邪薬を飲んで家で寝ている、というような患者さんが大多数を占める。話を聞けば、勤め先の企業に発熱を報告したら「ただちに医療機関を受診してPCR検査を受け、結果を提出してください」と指示を受けたので来ました、という。

会社勤めをされているのだから、年齢は20~40代が中心で、たしかに感染者としてはボリュームゾーンだ。厚労省の感染者年代別データ( https://covid19.mhlw.go.jp/ )を見ても、多いのは10代~40代で、50代以降は年齢が高いほど感染者は少ない。一方で、彼らは基本的には重症化リスクの低い世代だ。

要するに、重症化リスクの低い感染者が大量に、会社の指示で医療機関に押し掛けている。

その分、重症化リスクの高い高齢者が発熱して医療機関を探しても、検査さえ速やかに受けられない状況が生じている。それこそ重症者の増加と病床利用率の逼迫に直結する。

企業の側から一律に、つまり客観的に重症化リスクに該当しない社員に対してまで、医療機関でのPCR 検査を指示することは控えていただきたい。

発熱している社員・職員に関しては、新型コロナであろうとなかろうと、仕事を休んで療養させるべきは変わらない。

また、濃厚接触者の特定も、これだけ市中感染が増えてどこで感染者と接触しているかもわからない中で、どれだけの意味があるだろう。実際、千葉県知事は7月21日、いち早く幼稚園や保育園などでは濃厚接触者の特定をしない方針を示した。東京都知事も翌日の会見で、小学校、保育所、幼稚園について同様の方針を明らかにした。

企業側にはインフルエンザ等と同等の対応をお願いしたい。

インフルエンザ同様と言っても、特に就業規則に定められているわけではいだろう。学校なら、「学校保健安全法施行規則」によって、インフルエンザ発症後5日・解熱後2日を経過すると隔離解除となる。本来はこれに倣うことが、感染拡大防止の観点から望ましい。なお、インフルエンザでも職場復帰にあたって「職場が従業員に対して、治癒証明書や陰性証明書の提出を求めることは望ましくありません」(厚労省 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html#q18 )とされている。

現在、国内における新型コロナ感染者の療養・待機期間は、発症後10日・症状軽快後72時間(無症状者は7日)を経過となっている。しかし米国CDCは昨年末の時点で、感染者の自主隔離期間を5日(有症状者は解熱後24時間経過)、その後も人前では5日間のマスク着用を推奨することとした( https://www.cdc.gov/media/releases/2021/s1227-isolation-quarantine-guidance.html )。

医療崩壊を回避して人命を守りつつ、なおかつ経済社会の回復を目指す「withコロナ」に本気で取り組むのであれば、それくらいの思い切った転換がなければ回らない。すでにその状況を、私たちは目の前に突きつけられている。
【補足意見】

新型コロナに関しては、感染症法上の分類をインフルエンザと同じ「5類」に早急に引き下げるべきである。
感染した社員・職員への対応は、感染症法上の分類に関わらず、当然ながら企業(法人)の裁量だ。だが、現行の「2類」相当であることが、企業が社員・職員に対し受診や陰性証明の提示を指示する背景となっている。

2類相当だと、罹患した場合や濃厚接触者になった場合の自宅待機要請や入院勧告・措置が行われるが、かわりに医療費は全額が公費負担だ。企業としてはごく軽症でも「タダですから一応受診してきてください」ということになる。

5類相当とすれば、医療費は通常通り3割負担となる。ごく軽症の人なら普通の風邪と同じく、自宅療養だけで回復を待つ人も出てくるだろう。実際、ナビタスクリニックを受診される患者さんのほとんどは、重症化リスクはなく、すでに症状はピークアウトしている。

にもかかわらず、会社から「検査してこい」と言われて来ている方ばかりなのだ。

なお、本来なら感染症法上の指定の議論は感染者数が落ち着いている間に終わらせ、さっさと5類相当にしておくべきだった。ひとえに政府の怠慢だ。

医療者の側にも問題はある。インターネットでの抗原検査キット販売を止めさせた日本医師会や、コロナ診療をしない「自称かかりつけ医」たち。保身しか頭にない身勝手な都合で、合理的な医療提供体制の構築を阻んでいる。新型コロナが5類相当にされ、一般の医療機関でも診療が行えるようになったところで、「自称かかりつけ医」たちが発熱患者を受け入れるかどうかは非常に怪しいものだ。

ただ、国や医師会に先進的で合理的なアクションが期待できないのは今に始まったことではない。だからこそあえて私は今回、企業の方々に呼びかけた。もちろん私も他力本願と後ろ指刺されぬよう、引き続き新型コロナ診療に全力を尽くすつもりだ。

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