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Vol.22184 記録的な高温に「暑熱順化」できてない体にマスク、インフルエンザ流行…この夏の女医の懸念

医療ガバナンス学会 (2022年9月5日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(6月29日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2022062800019.html?page=1

ナビタスクリニック(立川)内科医
山本佳奈

2022年9月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

急に猛烈な暑さがやってきましたね。6月25日には、群馬県伊勢崎市で最高気温が40.2度を記録しました。6月に40度を超えたのは、観測史上初めてだそうです。

6月27日には、気象庁より関東甲信地方、東海地方、九州南部で梅雨明けしたとみられることが発表されました。関東甲信地方の今年の梅雨明けは、1951年の観測開始以降、最速だそうです。今年(2022年)は、昨年より8日早い6月6日に関東甲信地方で梅雨入りしたものの、梅雨らしさのない中での、昨年より3週間ほど早い梅雨明けですから、今年の夏は水不足が深刻になりそうです。

さて、記録的な高温に見舞われているのは、日本だけではないようです。北アフリカから到来した熱波の影響を受け、フランスでも6月18日には、南西部のビアリッツでは42.9度、ボルドー近郊のカップフェレでは41.9度といずれも観測史上最高を記録し、パリでは37度だったことが報じられています。

私たちは、春から夏にかけて次第に暑さに体をならしていくことで、暑さに順応しています。夏になると、たくさん汗をかくようになります。外来でも、「今日は暑いですね……」と額に汗を浮かべながら診察室に入ってくる方が、ここ最近急に増えていますが、これは体内の熱を体の外に逃がして体温の上昇を防ぐための大切な調節機能です。また、発汗の他にも、暑さに対する慣れとして現れてくる体の反応として、血液量の増加や心拍数の減少、汗に含まれる塩分濃度の低下などがあります。こうした体の変化を「暑熱順化」と呼んでいます。

しかしながら、今年は、梅雨入り前も梅雨入り後も、肌寒く感じる日が比較的多かったように思います。雨が降り続かない今年の梅雨は、頭痛持ちの私としては大変過ごしやすかったのですが、梅雨明けと急激な気温の上昇では「暑熱順化」できているとは言えず、身体への負担は大きいと言わざるを得ないでしょう。

消防庁の報告によると、すでに東京都内では6月最後の週末の2日間(25日と26日)で200人以上が熱中症で病院に救急搬送されています。両日ともに50代以上の搬送が多く、埼玉県と三重県では90代の男性2名が死亡し、熱中症が原因と思われると報じられています。

実は、熱中症による救急搬送者数は、梅雨明け前よりも梅雨明け後の方が多くなることが「熱中症による救急搬送者数に関するデータ」より報告されています。2019年の梅雨明け前後の1週間での救急搬送者数を比較したところ、関東甲信地方では約4.4倍、東海地方では約4.3倍、近畿地方では約3.4倍も救急搬送者数が増えていたというのです。

6月末から7月初めにかけての天気予報を見ると、東京ではしばらく最高気温が35度前後の、晴れや曇りの天気が続きそうです。そんな環境下での、コロナ対策としてのマスクの着用は、身体への負担を大きくし、熱中症のリスクを高める要因の一つとなるでしょう。厚生労働省も、高温多湿の環境下でのマスクの着用は熱中症のリスクを高めるとして、特に屋外での活動においては「マスクを外す」ことを呼びかけているものの、依然としてほとんどの方がマスクを着用しているように見受けられます。

「暑熱順化」できていない中での、炎天下でのマスクの着用をし、用事を済ませて出歩いてしまった梅雨明け直前の週末、夕方には吐き気が出現し、帰宅するなり寝込んでしまいました。人混みでないところや、外ではなるべくマスクを外してはいたものの、マスク着用時は息苦しく熱が体内にこもる感じがしたので、こんな暑さの中でもルールだといい、マスクを強要されるのであれば、外出はなるべく避けようと個人的には感じてしまう出来事になりました。

最後に、外来現場で気になるのが「インフルエンザ」の流行です。立川市内の小学校で、インフルエンザによる学年閉鎖になったことが6月22日に発表され、ニュースなどでも大きく報じられたので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

実は6月に入り、勤務先の立川のクリニックで「インフルエンザ陽性」が確認される日が連日続いたことがありました。「夏にインフルエンザが出始めるなんて……」と驚いていたら、6月中旬に私も「インフルエンザA型」を診断しました。

その方は、38度を超える発熱と強い倦怠感を自覚して受診された50代の男性。額には汗を浮かべており、倦怠感がとても強そうで、オミクロン株のコロナというよりは、デルタ株のコロナ感染のような、そんな印象だったことを覚えています。「息子の学校で、コロナではなかったけれども8人ほど発熱がでて、学級閉鎖になっています……」とおっしゃったので、「インフルエンザかもしれない」と思い迅速検査を行ったところ、「インフルエンザA型」で陽性が出たのでした。

コロナパンデミック以降、すっかり流行しなくなったインフルエンザですが、日本とは正反対の南半球に位置し、日本が夏の間に冬を迎えるオーストラリアでは、今年の3月以降、インフルエンザが増加傾向にあります 。

2022年6月19日までの2週間で5万5,101件のインフルエンザが報告されており、2022年の報告数の37.4%を、この2週間の報告数が占めているといいます。私も先日、インフルエンザA型陽性を確認したのですが、オーストラリアでも、確認されているインフルエンザのうち83.4%をA型が占め、B型は0.1%であるようです。

冬のオーストラリアでインフルエンザが流行っていること、次第に国を超えた往来が元に戻りつつあることなどから、今年の冬は北半球にある日本でもインフルエンザが流行する可能性が高いと考えられます。

インフルエンザウイルスには多くの亜型が存在しており、ウイルスの構造は常に少しずつ変化しています。そのため、世界保健機関(WHO)は毎年世界中からデータを集め、専門家の意見を元に、最も一般的に流行すると示唆される3~4種類の型をインフルエンザの予防接種として使用することを推奨します。日本でも、WHOのデータをもとに国内の流行状況や世界各国におけるインフルエンザの流行状況などを考慮し、ワクチンの型を決めています。

コロナパンデミック以降、インフルエンザが流行しなかったこともあり、インフルエンザの予防接種をしなかったという方もいらっしゃると思います。コロナワクチン同様、インフルエンワクチンも接種したからといって、インフルエンザに絶対かからない、というワクチンではありません。

インフルエンザの発症を予防することや、発症後の重症化や死亡を予防することに関して一定の効果があると報告されており、インフルエンザの予防接種は重症化を予防する点で有効であるとされています。今年は、インフルエンザの予防接種が重要になるのではないかと、私は考えています。

 

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