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Vol.22185 全町民の水道代無料や六本木ヒルズでのポイント還元まで/全国ワースト100事業 関東編 (シリーズ「虚構の地方創生」第2回)

医療ガバナンス学会 (2022年9月7日 06:00)


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リポーター 辻麻梨子

2022年9月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

東京都港区や千代田区など、全国で最も財政が豊かな都心部にも「地方創生」の交付金は潤沢に渡っていた。

地方創生臨時交付金が充てられた無駄遣い100事業の中から、今回は関東編を報じる。

Tansaは、2020年度の第1次と第2次の補正予算で計上された地方創生臨時交付金の事業をデータベース化した。都道府県と市町村が内閣府に提出した事業計画に基づいている。事業の数は約6万5000件、金額は計3兆円に上る。

データベース上の全事業に目を通し、納税者の視点から無駄遣い100事業を選んだ。

表中の事業費は、自治体によって交付金の額を示している場合と、交付金以外の予算も含む総事業費を記している場合とがある。さらに表中から一部の事業を選んで、その取材結果を報じる。

●関東
茨城県:著名人を活用した動画作成やプロモーションの委託料(9130万円)
栃木県市貝町:小中学校の卒業生が思い出に残る活動をする補助金を交付(205万円)
栃木県那珂川町:地域の情報を発信し、移住定住の促進を図るためのプロモーションを委託(560万円)
群馬県草津町:バス会社を広告ラッピング事業で応援し、草津町もPR (2273万円)
群馬県神流町:ARや映像、音声などで恐竜化石展示のガイドを行うアプリを制作(1787万円)
群馬県沼田市:withコロナのロゴなどを取り入れたオリジナル風呂敷を作成し、市民に販売(419万円)
埼玉県上尾市:花き生産直売所で使用できるクーポン券2,000円分を婚姻提出者に贈呈(410万円)
千葉県君津市:Go To Travel事業に併せ、利用した旅行者に市の特産品を送付する(1808万円)
東京都板橋区:表現の場を失うアーティストの動画配信を補助(1500万円)
東京都千代田区:全区民に一律12万円の給付金を支給(81億5340万円)
東京都八丈町:全町民の2020年5月から2022年1月までの水道料金を全額補助(3億5000万円)
東京都清瀬市:市内全戸にごみの指定収集袋を配布(6988万円)
東京都港区:六本木ヒルズなど、区内観光施設や店舗を利用した半額をポイントを還元(1億5500万円)

●群馬県神流町「恐竜アプリ」ダウンロード数把握せず

群馬県神流町(かんなまち)は、日本で初めて恐竜の足跡が見つかった町だ。

町には神流町恐竜センターがあり、町役場が直営している。展示を見たり化石発掘体験ができたりと親子連れや恐竜ファンにも人気で、町内外から年間約30,000〜35,000人が訪れる。

町は地方創生臨時交付金約1,700万円を使って、ARを活用した恐竜アプリを制作した。ARとは実在する情景に、CGなどを重ね合わせる技術だ。アプリ内で使われるCGは、映画ドラえもんやナショナルジオグラフィック日本版のCG制作者が請け負った。

作ったアプリは二つだ。
一つ目は神流町恐竜センターの公式アプリ。

アプリでは、恐竜を街中や家に出現させて楽しむことができる。恐竜を選び画面をタップすると、画面内に等身大に近い恐竜が現れる。恐竜と写真を撮ることもできる。

二つ目は展示ガイドのアプリ。

センター内で端末を1時間1,000円で借りてアプリを起動させ、ARのマークがある展示に端末をかざすと、展示されている恐竜が画面の中で動き出す仕組みだ。

なぜ地方創生臨時交付金を使って、アプリを制作したのか。プロジェクトを担当した神流町の職員に聞くと、以下のような回答が返ってきた。

「そもそも私が恐竜センターへ異動になった7年前、自分自身も恐竜についてあまり詳しくなく、今回リリースした2つのようなアプリが欲しいと異動当初から思っていました」

「でも当時は予算的に厳しく、計画は見送りになりました。そんな中、地方創生臨時交付金が給付されアプリ開発の計画書を提出したところ、承認され計画の実行に踏み切ることができました」

アプリのダウンロード数を、恐竜センターは把握していない。

●群馬県沼田市「風呂敷プロジェクト」風呂敷2600枚、店は「販売促進効果ない」

群馬県沼田市では、2020年10月〜12月にかけて「沼田市withコロナ風呂敷プロジェクト」が実施された。

市が想定したプロジェクトの流れは次の通りだ。

(1)大小2種類の風呂敷1200枚と1400枚を、地方創生臨時交付金419万円を充てて作る。デザインは「ふろしき王子」と呼ばれ、全国で風呂敷の使い方をレクチャーしている横山功氏がアドバイス。

(2)風呂敷は、公募の市内36店舗が購入する。風呂敷の購入費は、市が半額を負担する。

(3)買い物用のエコバッグを持っていない上、コロナ禍で衛生面を気にする市民が、バッグより洗濯がしやすい風呂敷を目当てに店舗を訪れる。その際に他の商品も購入し、コロナで売り上げが減った店舗に販売促進効果をもたらす。

だが市は、(3)の想定を検証していない。そこでTansaは実際に風呂敷を扱った11店舗を取材した。

風呂敷が半分以上余っている店舗がほとんど。こんな声が挙がった。

「コロナを理由に予算を引っ張って、こんなくだらない風呂敷に使わなかった方が良かったんじゃないの?公務員の趣味で企画をやっちゃいましたという感じがする」

「最初に盛り上がりを見せて風呂敷は少し売れたが、店舗自体の販売促進には繋がっていない」

「購入した風呂敷を使っている人を見たことがない。」

●東京都八丈町「水道料金無料」好評につき再び交付金で延長

人口7100人の東京都八丈町。2020年6月から2022年1月まで水道料金を全額補助して無料にした。財源は地方創生臨時交付金3億5000万円だ。

町の企画財政課によると、水道料金を無料にすることにしたのは「一般住民も企業も畑に散水する農家も、均等に助けてあげたい」と考えたからだ。「全町民に恩恵がある手段」として、水道料金全額補助したという。

無料になる期間は当初、2021年の3月までだった。だが全額補助を始めると、住民からの評判がよかった。議会からも継続の要望があったため、2022年1月まで無料期間を延長した。

延長分の財源にも、地方創生臨時交付金を充てた。交付金の申請を受けた内閣府は何も言わなかったのだろうか。企画財政課の担当者は言った。

「あー、全く何も言われてないです。そのまま通りました」

●東京都清瀬市「ごみ袋の無料配布」交付金で一時無料にした後に値上げ

東京都清瀬市は、ごみの指定収集袋を無料で配布する事業を実施した。地方創生臨時交付金6988万円を使っている。コロナ禍での経済の停滞や収入減への対策が名目だ。

清瀬市では2020年6月からごみ袋の料金を値上げするはずだった。だが、同年4月に地方創生臨時交付金を使えることが決まった。値上げは10月に延期され、それまでの半年間は交付金を使ってごみ袋を無料で配布することになった。

2020年4月から半年間ごみ袋を無料にしても、10月から値上げするのなら、疲弊した経済への効果は薄れてしまう。それならば、料金を据え置いて、値上げの時期を10月以降にさらに延期する方がいいのではないか。

清瀬市環境課の弁。

「本来は6月にやる値上げを、激変緩和措置として、10月に延ばしただだけです」

無料から一気に値上げした料金を適用する方が「激変」ではないのか。

●東京都港区「LINE Payでポイント還元」蓄えがあっても国のお金を使うのは「当然の事象」

港区は2020年10月から2021年3月にかけて、地方創生臨時交付金1億1000万円を使い、「VISIT MINATO 応援キャンペーン」を実施した。港区内の観光施設を利用した際に、LINE Payで支払った額の50%を利用者にポイントとして還元する。1人あたりのポイントの上限は5000円分だ。

ポイント還元の対象となる観光施設には、六本木ヒルズや東京ミッドタウンも含まれている。なぜ、こうした都会の繁栄の象徴とも言える施設に、地方創生臨時交付金を使うのだろうか。

港区産業振興課の担当者が言う。

「国が補償金(休業補償金)を出しているから区の方で何もしなくてもいいということではないのかな、ということで区としてできる支援を検討した」

ならば、区の予算を使えばいい。港区は500億円を超える財政調整基金を積み立てている。財政調整基金とは、自治体が災害など非常事態のために積み立てておく貯金だ。コロナ対策にも利用できる。

これには財政課の担当者が答えた。

「地方自治体の立場としては、コロナ対策も含め国で必要な財源措置がされるのであれば、それを活用するのは当然の事象。今回は国からコロナ対策で『地方創生のために活用してほしい』という形で出された交付金なので、港区も国からの通知に基づいて活用した」

次回は中部、近畿編を報じる。

※この記事の内容は、2022年3月23日時点のものです。

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公式ウェブサイト:https://tansajp.org/

●シリーズ「虚構の地方創生」:https://tansajp.org/investigativejournal_category/region/

●取材費を寄付する:https://syncable.biz/campaign/2449

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着ぐるみ・花火に消えた交付金16兆円【探査報道最前線 地方創生 NO,1】
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