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Vol.22196 「自民党改憲案をぶっ壊せ」;守り(護憲)から攻めへ

医療ガバナンス学会 (2022年9月22日 06:00)


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元・血液内科医
平岡諦

2022年9月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●自民党は、その改憲案成立時のために、法律を準備してきた。

自民党改憲案、『日本国憲法改正草案』(2012.4.27)は、海外派兵も可能な国防軍を持ち「徴兵制」も準備している(1)。戦闘地域への医療団の派遣がなければ兵士の士気は落ちるだろう。そのために、2014年の医療法改定で「(一部)徴医制」を準備した(2)。さらに「(完全)徴医制」を準備するため、「全員加盟の医師会制」と「医師会からの日本医学会の分離独立」の動きがあった。しかし、それぞれ金澤一郎、高久史麿両氏の英断により実行は何とか押し止められた。なお、法人・日本医学会連合の「アスクレピオスの杖」を象ったロゴは高久氏の置き土産だろう、日本医師会の今後の改革方向を示したことになる。

自民党改憲案は第65条改訂で内閣の行政権を拡大している。現行憲法・第65条:行政権は、内閣に属する。自民党改憲案・第65条:行政権は、この憲法に特別の定めのある場合を除き、内閣に属する。「この憲法に特別の定めのある場合を除き」の意味は、「立法権を持つ議会で決めていない場合は」と言うことである。そして準備したのが内閣府設置法だ。今問題になっている安倍元首相の国葬(国葬儀)について述べると次のようになる。改憲後は閣議決定で実施できるということだ。しかし改憲前、すなわち現行憲法下では閣議決定だけで国葬儀は行えない、行えば憲法違反だ。

●安倍元首相の国葬儀は岸田首相の勘違いによる、完全なる憲法違反だ。

岸田首相は記者会見(2022.7.14)で次のように述べている。「平成13年1月6日施行の内閣府設置法において、内閣府の所掌事務として、国の儀式に関する事務に関すること、これが明記されています。よって、国の儀式としての国葬儀については、閣議決定を根拠として、行政が国を代表して行い得るものであると考えます」。

国の儀式に国葬儀を含めるのかどうか、どういう条件で国葬儀をするのか、それらを決めるのは「

」である。それらを決めておかなければ、時の内閣によって「恣意的」になるからだ。内閣府設置法は自民党改憲案が「改憲済み」になった時のために自民党が準備しているものだ。いうならば内閣府設置法は容器である、まず容器を準備したのだ。何を入れるかは「改憲済み」になってからの話である。会見内容から判断すると、岸田首相の頭の中はすでに「改憲済み」になっているようだ。自民党のこの動きを理解していないのだろう。

準備のための内部文書が、平成12年4月に政府の中央省庁等改革推進本部事務局内閣班が作成した「内閣府設置法コメンタール(逐条解説)」のようだ。そこには「閣議決定で国の儀式に位置付けられた儀式」の具体例として「故吉田茂元首相の国葬儀」が挙げられている。しかし繰り返すが「立法権を持つ議会で決めていない場合」は内閣が行政権を使えない、議会は未だ国葬儀を「国の儀式」に位置付けていないし、どのような人物を国葬儀の対象にするのかを決めていないのだ。したがって、内閣は閣議決定だけで国葬儀を行えない。行えば三権分立を犯すことになり完全な憲法違反だ。

ちなみに、英国では「国王以外を国葬にする場合は議会の同意を必要とする」としているようだ(2022.9.17.日本テレビ「ウェ-クアップ」での、金子恵美・元衆議院議員の発言)。「民主主義国家の決定プロセスとしては、やはり議会にかけるプロセスを経ていた方が、国民の皆さんに理解を得られたのではないかというのが今回の反省材料」(同)だろう。だから国民の反対が根強いのだ、単に経費が嵩むからだけではない。

●日本社会を衰退に導いているのは自民党改憲案だ。

前稿(3)で次のように述べた。「結党以来、自主憲法制定を党是とし、改憲案を発表してきた自民党政治のダブルスタンダードをまとめると次のようになる。すなわち、現行憲法に基づく建前(例えば「一億総活躍社会」)に対して、自民党改憲案に基づく本音(「女性は家庭で家事・育児」)が見え隠れする施策ということだ」。「男女共同参画局のHpに「ジェンダー・ギャップ指数 GGI」が載っている。スイスの非営利財団「世界経済フォーラム」が教育・健康・経済・政治の各分野ごとに算出し、ジェンダー・ギャップの「見える化」を図っているのだ。ゼロが完全不平等、1が完全平等を示す。2022年、日本のGGIは教育;1.000、健康;0.973、経済参画;0.564、政治参画;0.061、総合146か国中の116位だ。教育を等しく受け、十分健康な女性が、経済、政治の分野で活躍できていないのだ。これほどに人的資源の無駄をする社会が、持続可能(susutainable)とは思えない。日本を「衰退途上国」と呼ぶようになっているのも当然だ」。

「男女共同参画推進本部」「すべての女性が輝く社会づくり本部」の設置が閣議決定されたのが、それぞれ1994年(自社さ連立・村山内閣)、2014年(自公連立・安倍内閣)だ。まもなく30年になる。2022年6月3日付けで「女性活躍・男女共同参画の重点方針 2022(女性版骨太の方針 2022)」も発表されている。タイトル(「建前」)は立派だ、内容(「施策」)はどうか。施策を決めるのはその構成員だ。「本部の構成は、次のとおりとする。本部長;内閣総理大臣、副本部長;内閣官房長官・内閣府特命担当大臣(男女共同参画)、本部員;他の全ての国務大臣」(後者では、内閣府特命担当大臣(男女共同参画)が女性活躍担当大臣)となっている。もちろん、「本部長は、必要があると認めるときは、構成員を追加すること(後者では、関係者の出席を求めること)ができる」とされている。「施策」決定者がこれでは、「施策」の内容が自民党改憲案に基づくのは当たり前だろう。政治のダブルスタンダードが30年近く続いてきたということだ。「失われた30年」の実体、実態がこれだろう、まさに「官製不況」である。岸田首相は「新しい資本主義」で何を変えようと言うのだろうか?

●小泉旋風が吹き荒れたが・・・。

第2次森内閣(改造)は、森喜朗(自民党総裁)の数々の失言や(最近でも、東京五輪組織委員長辞任につながる女性蔑視発言があった)、えひめ丸事故への対応の不手際から国民の支持を失う。閉塞した政治・経済に国民の不満が高まるなか、「古い自民党をぶっ壊して、政治経済の構造改革をおこなう」と言って、2001年自民党総裁選に勝利したのが小泉純一郎だ。2001年の参議院選挙でも「小泉総理が日本を変えてくれるかもしれない」という漠然とした国民の期待を背景に大勝利した。

小泉内閣の「改革」の揺り返しとして「保守・反動」に向かったのが安倍内閣だ。結党以来の党是である自主憲法制定(改憲)をスローガンに、旧・統一教会をも取り込んで、最長の政権運営をしてきた。その自主憲法の内容が 2012年に決定された『日本国憲法改正草案』だ。これまで述べてきたように、「失われた30年」の実体、実態をもたらしたのがこの自民党改憲案だ。小泉流に言えば「自民党改憲案をぶっ壊せ」となる。それが「衰退途上国」日本を救う唯一の道だろう。
(1)平岡諦『憲法改正 自民党への三つの質問 三つの提案』ウインかもがわ 2017, p.212.
(2)MRIC Vol.129 「自民党改憲案と徴兵制、徴医制」2018.
(3)MRIC No.22194 「ダブルスタンダードからの学び;日本社会衰退の要因は自民党改憲案」2022.

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