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Vol.22197 飲酒が「病気予防につながる人、むしろリスクになる人」の差

医療ガバナンス学会 (2022年9月26日 06:00)


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この原稿は幻冬舎ゴールドオンライン(6月19日配信)からの転載です。

https://gentosha-go.com/articles/-/43608

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員
大西 睦子

2022年9月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●そもそも「炎症」とは?

まず、そもそも炎症とは何でしょうか?

2022年6月1日の米カルフォルニア州バック研究所のサイト(※1)に、同研究所准教授デイヴィッド・ファーマン博士は、「全体的に、炎症の定義は明確ではない」ことを認めています。ただし、博士は「炎症とは、一般的に損傷やストレスに対する体の反応」「体が感じる異常であり、感染症やその他の環境的な合図である可能性もある」と言います。

また、ハーバード公衆衛生大学院は、炎症について以下のように説明しています(※2)。

「世間一般では、『炎症』は悪者と考えられています。確かに炎症は不快な副反応を引き起こしますが、実際は免疫系による健康的な反応です。

細菌やウイルス、アレルゲンなどの外敵が体内に侵入したり、ケガしたりすると、免疫細胞が素早く作用します。くしゃみや咳をして、体内に侵入した異物を排除します。また、私たちが切り傷やケガを負った部位に痛みや腫れを感じるのは、そのデリケートな部位を優しく扱うように、という合図なのです。血液が急速に流れ込むと、温かくなったり、赤くなったりします。これらは、免疫システムが損傷した組織を修復し、侵入者と戦っているサインです。治癒が進むにつれて、炎症は徐々に治まっていきます。

ところが炎症は、長引くと有害になります。健康な細胞を傷つけ始め、炎症促進状態を作り出してしまうのです。また、遺伝子の異常によって体の免疫システムが常に細胞を攻撃するようになるという問題もあります。これは、全身性エリテマトーデス、線維筋痛症、多発性硬化症、関節リウマチ、1型糖尿病、クローン病などの自己免疫疾患で起こることがあります。

また、運動不足やストレス、カロリーの高い食事などの不健康なライフスタイルが、「メタ炎症(metaflammation)」と呼ばれる、慢性的かつ悪性度の低い全身性の炎症を引き起こすこともあります。このような低レベルの炎症は、通常、目立った症状を起こしませんが、メタ炎症が長期化すると、心血管疾患、非アルコール性脂肪肝疾患、2型糖尿病、アルツハイマー病、特定のがん(乳がん、大腸がん等)といった慢性疾患のリスクとなります」

※1 https://www.buckinstitute.org/blog/how-does-obesity-increase-the-risk-for-severe-covid-19-and-other-infections-too/

※2 https://www.hsph.harvard.edu/nutritionsource/healthy-weight/diet-reviews/anti-inflammatory-diet/

 

●「肥満」がコロナ重症化リスクを増大させるワケ

ファーマン博士は、「メタ炎症」や「代謝性炎症(metabolic inflammation)」と呼ばれる慢性的かつ低悪性度の全身性炎症は、感染症以外の環境に起因する別のタイプの炎症であること、また、体にとって何の役にも立たないことを強調しています。

先ほど、運動不足やストレス、カロリーの高い食事などの不健康なライフスタイルが「メタ炎症」を引き起こすことがあると述べました。これらの不健康なライフスタイルは、肥満の要因でもあります。

肥満だと、新型コロナウイルス感染症の重症リスクが高くなることが指摘されています(他の感染症も同様です)。

では、肥満はどのように新型コロナウイルス感染症(および他の感染症も)が重症化するリスクを高めるのでしょうか? バック研究所は「それは炎症です」と答え、以下のように説明します(※1)。

――「肥満はメタ炎症を特徴とし、2型糖尿病、心血管系疾患、がん、非アルコール性脂肪肝疾患、免疫不全のリスクを増大させます。肥満の場合、メタ炎症は、過剰な体脂肪が炎症を起こし、免疫系の正常なシグナル伝達を妨げる化学物質を常に作り出していることを意味します。

こうして免疫反応が鈍ると、ウイルスが急速に増えます。ウイルスと免疫系が過剰に反応し、免疫分子が過剰に産生(サイトカインストーム)され、血液が固まりやすくなり、新型コロナ重症感染症の重要な要因となります」

ファーマン博士は、「2人の患者が同じ感染症にかかった場合、慢性的なメタ炎症を起こしている患者のほうが合併症を起こしやすいでしょう」と述べます。つまり、予防するには、ワクチン接種、社会的距離の取り方、マスクなどの確立された行動だけでなく、体組成を改善し、メタ炎症を予防または逆転できるような食事やライフスタイルへの介入を含めるべきだと言うのです。

そこで、「抗炎症作用のある食事」が注目されているのです。
●「適量のアルコール」は炎症を抑える

ハーバード公衆衛生大学院は、「抗炎症ダイエットは、体内の炎症と戦うための治療法として推進されている」と述べ、次のように説明します(※2)。

――「抗炎症ダイエットは、カロリーや分量に関する厳格なルールに従うものではありません。特定の食品や栄養素を1~2種類食べるのではなく、いろいろな抗炎症作用のある食品を毎日食べることを提案しています。一般的には、さまざまな果物や野菜、不飽和脂肪酸、精製度の低い全粒穀物、お茶、コーヒー、ハーブ、スパイス、脂がのった魚などを食べることです」

そして、アルコールを以下のように分類しています。

<抗炎症作用のある食品の例>

適量のアルコール(ワイン、ビール)
<制限すべき炎症性食品の例>

過度のアルコール

アルコールの抗炎症効果について、ハーバード大学医学部教育病院のブリガムアンドウィメンズ病院のリウマチ専門医カレン・コステンバーダー博士は、関節炎財団のサイトで「適度な飲酒は、C反応性タンパク質(CRP)、インターロイキン-6、TNF-α受容体2などの炎症のバイオマーカーを減少させます」と語ります(※3)。今後、メカニズムの解明が進むでしょう。

※3 https://www.arthritis.org/health-wellness/healthy-living/nutrition/foods-to-limit/alcohol#:~:text=Anti%2Dinflammatory%20Benefits&text=%E2%80%9CModerate%20alcohol%20consumption%20reduces%20biomarkers,and%20Women’s%20Hospital%20in%20Boston
●ただし、「アルコールの適量」は国によってバラバラ

それでは、適度のアルコールとはどの程度の量でしょうか? ハーバード公衆衛生大学院は、以下のように説明します(※4)。

――「『適度な』と『1ドリンク』という言葉の使い分けが、アルコールの健康への影響に関する議論の火種となっています。ある研究では、『適度な飲酒』という言葉が1日1ドリンク未満を指す一方で、他の研究では1日3~4ドリンクを指しています。また、何をもって『1ドリンク』とするかも、かなり流動的です。実際、アルコール研究者の間でさえ、普遍的に受け入れられた標準的な定義はありません。

米国では通常、1ドリンクを12オンス(355ml)のビール、5オンス(148ml)のワイン、1.5オンス(44ml)のスピリッツ(ジンやウィスキーなどのハードリカー)としています。それぞれ平均して約12~14gのアルコールが含まれていますが、現在、よりアルコール度数の高い地ビールやワインが生産されているため、純アルコール量の幅はより広くなっているでしょう。

適度な飲酒の定義は、ある種のバランス感覚を必要とします。適度な飲酒とは、アルコールの健康上の利点が明らかにリスクを上回るポイントに位置します。

最新のコンセンサスでは、男性は1日1〜2ドリンクまで、女性は1日1ドリンクまで。これは、米国農務省と『2020-2025年版アメリカ人の食事に関するガイドライン』で用いられている定義で、米国で広く使われているものです」

ちなみに日本では、厚生労働省より「通常のアルコール代謝能を有する日本人においては、節度にある適度な飲酒として、1日平均純アルコールで20g程度」と定義されています(※5)。20gとは、たとえばビールなら500ml、日本酒なら180ml、ワインなら200ml、ウィスキーなら60ml…。

つまり国によって、適度なアルコールの量はバラバラなのです。

※4 https://www.hsph.harvard.edu/nutritionsource/healthy-drinks/drinks-to-consume-in-moderation/alcohol-full-story/

※5 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-03-003.html
●飲酒の効果とリスク

ハーバード公衆衛生大学院によると、適度な飲酒は、男性でも女性でも心血管系疾患のリスクを減らします(※4)。これは、心臓病を患っていない人や、2型糖尿病、高血圧、既存の心血管疾患を持つ人、心臓発作や脳卒中を起こしたり、心血管疾患で死亡したりするリスクが高い人にも当てはまります。また、その恩恵は高齢者にも及びます。

さらに、適度な飲酒のメリットは心臓に限ったことではありません。ハーバード大学の研究者らによる疫学研究などでは、胆石や2型糖尿病は、お酒を飲まない人に比べて、適度な飲酒をする人のほうが発症しにくいことが示されました。ここでも“適度な”飲酒に重点が置かれています。

アルコールの社会的・心理的な利点も無視できません。食前の一杯は消化を良くし、ストレスの多い一日の終わりに癒しのひとときを与えます。また、ときどき友人とかわす飲酒は、社会的な強壮剤となります。このような身体的・社会的効果は、健康や幸福に役立ちます。

一方、米国では、交通事故による死亡の約半分にアルコールが関与しています。大量飲酒は肝臓と心臓に損傷を起こし、胎児に害を与え、さらに、うつ病や暴力の原因となり、人間関係を悪くする可能性があります。また、アルコールの大量摂取は、複数のがんと関係があるとされています。世界がん研究基金と米がん研究協会は、口腔や咽頭、食道、乳房、肝臓、結腸、直腸に起こるがんとアルコールとを関連付ける説得力の強い証拠があることを指摘しています(※4)。
●「適度な飲酒の効果」は生涯にわたって変化する

ハーバード公衆衛生大学院は、「適度な飲酒は健康に良いが、すべての人に当てはまるわけではない。リスクとベネフィットを比較検討する必要がある」「適度な飲酒の効用とリスクは、生涯を通じて変化する」と主張します。

具体的には以下のようになります。

◇適度な飲酒がほとんど効果なく、かえってリスクになる人

⇒妊婦とその胎児、アルコール依存症からの回復者、肝臓疾患のある人、アルコールと相互作用する薬を1種類以上服用している人

◇30歳の男性

⇒アルコールに関連した事故のリスクは、適度な飲酒がもたらす心臓関連の利益を上回る可能性が高い

◇60歳の男性(アルコール依存症の傾向がないと仮定)

⇒1日1杯の飲酒は心臓病を予防する効果があり、リスクを上回る可能性が高い

◇60歳の女性

⇒利益とリスクの計算はより難しい。米国では毎年、心臓病で亡くなる女性の数は、乳がん(41,000人)の10倍(460,000人)にのぼる。ただし研究によると、女性は心臓病よりも乳がんの発症をはるかに恐れており、このことを考慮しなければならない
●適度な飲酒の効用は人それぞれ

同じ年齢であっても、健康状態やライフスタイル、体質などは違います。そこで、ハーバード公衆衛生大学院は、次のような例も紹介しています(※4)。

◎ヘルシーなライフスタイルな人

⇒やせていて、身体的に活発で、タバコを吸わず、健康的な食事をし、心臓病の家族歴がなければ、アルコールを飲んでもあまり心血管疾患リスクは減らないだろう

◎お酒を飲まない人

⇒適度な飲酒を始める必要はない。運動(まだ運動していない人は運動を始めるか、活動の強度と時間を増やす)や健康的な食事でも同様の効果が得られる

◎心臓病のリスクが中程度以上の男性

⇒アルコール依存症の既往がなく、心臓病のリスクが中程度以上の男性は、毎日1杯の飲酒でそのリスクが減る可能性がある。HDL(善玉コレステロール)が低く、食事療法や運動療法で改善しない場合は、適度な飲酒が特に効果的

◎心臓病のリスクが中程度以上の女性

⇒アルコール依存症の既往がなく、心臓病のリスクが中程度以上の女性は、毎日1杯の飲酒による利益と、飲酒によってわずかに増加する乳がんリスクのバランスを取る必要がある

以上のように、適度な飲酒のメリットは、人それぞれです。お酒好きな方は、自分の体のことやライフスタイルをよく知ったうえで飲酒を楽しんでください。自分にとっての適量に悩まれる方は、医師や専門家に相談してみると良いでしょう。

 

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