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Vol.22200 ダブルスタンダードから「絶対的な基準」へ;違憲の国葬儀に寄せて

医療ガバナンス学会 (2022年9月29日 06:00)


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元・血液内科医
平岡諦

2022年9月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●「ロシア国民に広がる不安 医療従事者にも召集令状」:

9月21日は国連が定めた平和の記念日、国際平和デーである。「国連が国際平和デーを最初に宣言したのは1981年。従来、国際平和デーは毎年9月の国連総会開会日に制定され、開会式では各国代表がこの日を記念して1分間の黙祷を行うことが慣例となっていた。2002年からは、毎年9月21日を国際平和デーに定め、以後、世界の停戦と非暴力の日として、すべての国と人々に、この日一日は敵対行為を停止するよう働きかけている」(国連広報センターHp)。

9月21日から発効する大統領令に署名したことを、9月21日に発表したのがプーチン大統領だ。「ロシア国民の部分的な動員を宣言」したのだ。9月23日、次の報道が流れた。「独立系メディアによりますと、予備兵に加えて医療従事者にも発表当日から召集令状が届き始めたということです」。

「海外派兵を可能とする国防軍」を持つ自民党改憲案、『日本国憲法改正草案』(2012.4.27)の下で、「徴兵制」とともに「徴医制」が準備されつつある(1,2)。自民党改憲案が「改憲済み」になると、ロシアで起きていることが日本でも起きるのだ。
●国連演説とリットン調査団報告書:

プーチンの大統領令発表の前日、9月20日には国連総会で一般討論演説が始まった。岸田首相は、「ロシアのウクライナ侵略は、国連憲章の理念と原則を踏みにじる行為」「ロシアによるウクライナ侵略により、国連の信頼性が危機に陥っている」「ロシア(の侵略)による国際秩序の危機」だとしてロシアを強く非難した。仏・マクロン大統領は「偽の住民投票をするとしても、ロシアは自らの意思を押し付けることはできないと知るべきだ」と激しく非難し、伊・ドラギ首相も「住民投票は新たな国際法違反であり、われわれは断固として非難する」と同調した。これに対し、9月21日、プーチン大統領は「ロシアは、投票の安全な状況を確保するためにあらゆることをする」と述べ、住民投票を支持する考えを示したのだ。

このやり取りを理解するには、「ロシアのウクライナ侵略」を振り返る必要がある。
2月21日、プーチン大統領は1時間に及ぶ演説で、概略、次のように述べた。第一に、ドンパス(ドネツク州、ルハーンシク州)の状況は、危機的で、深刻な段階に達していること、第二に、この地に住む人々は、自らをロシア人と呼び、正教会のキリスト教徒と呼んできたこと、第三に、ドンバスの状況を解決するために、ロシアは粘り強く、そして辛抱強く、2015年2月17日の国連安保理決議2202の実施を推し進めてきたこと、第四に、しかし、2014年のクーデターで、キエフで権力を握った攻撃的な民族主義の体制は、ドンパスの問題に対する軍事ではない解決策を認めなかったし、今も認めていないこと、第五に、そこで、私は、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の独立と主権を直ちに承認することが必要であると考えた。
2月24日(演説の3日後)、ロシアのウクライナ侵攻が始まった。そして、9月23日(大統領令発表の2日後)から27日にかけて、ドンパスなどロシア軍が支配する地域で、親ロシア派の勢力が一方的に、ロシアへの併合に向けて、住民投票を実施しようとしていたのだ。

岸田首相やマクロン大統領らの演説内容を知って、リットン調査団の報告を思いだした。リットン調査団とは、満州事変の勃発(1931.9.18)直後,中国の提訴を受けた国際連盟理事会が実地調査のために派遣した委員会だ。その報告書が国際連盟で可決され、日本は国際連盟を脱退(1933.3.8)、国際社会で孤立を深め、全体主義の国家(ナチズム・ドイツ、ファシズム・イタリア、そしてミリタリズム・日本)と三国同盟を結び(1940.9.27)、連合軍と戦うようになったのが太平洋戦争である。敗戦後、「戦後レジーム」(2,3)の一環として、連合軍(実質は米軍)に「押し付けられた」憲法、「国家防衛権を持たない世界唯一の憲法」(後述)である現行憲法を持つようになった。
リットン調査団の報告書の内容とは、柳条湖事件およびその後の日本軍の活動は自衛的行為とは言い難いこと、満州国は地元住民の自発的な意志による独立とは言い難く、その存在自体が日本軍に支えられていること、であった。まさに、岸田首相の演説内容は前者に、マクロン大統領らのそれは後者に相当する。歴史は繰り返されているのだ。
なお、岸田演説に住民投票に対する批判が無かったが、ウクライナ情勢をキャッチアップできていないためかと危惧される。
●世界と真逆の経済政策、そして単独為替介入:

「近年の戦争は多くは国家防衛権の名において行われたることは顕著なる事実であります。ゆえに正当防衛権を認めることが偶々戦争を誘発する所為であると思うのであります」。これは現行憲法草案を審議していた第90回帝国議会(1946.6)での共産党・野坂参三の質問に対する自由党・吉田茂首相の有名な答弁だ。そして、「国家防衛権を持たない世界唯一の憲法」、現行憲法が国会で承認された。それを示すのが、前文にある次の部分だ。「日本国民は・・・平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」。国防軍ではなく諸国民との信頼ということだ。ここまでは「戦後レジーム」に則っている。

保守合同(1955)で結成された自由民主党は、自主憲法制定を党是とした。冷戦を背景に警察予備隊、自衛隊を持つようになり、ついに「海外派兵の可能な国防軍」を持つ『日本国憲法改正草案』(2012.4.27)を決定した。その内容は強権的で、「自民党独裁憲法案」とでも呼ぶべきものだ(2)。なお、「海外派兵の可能な国防軍」を持つと、「自衛と称する侵略戦争」が原理的に可能だ。現行憲法とは別の基準を持ち込んだことになる。

第9条が改憲論争の争点だが、国民生活にとっては、自民党改憲案・第24条が重要だ。ジェンダー・ギャップ指数に顕著に表れていることは既に述べた(4)。アベノミクスの三本目の矢が放たれないのも、イノベーションに火がつかないのもその為だろう。「新しい資本主義」でも結果は同じだろう。

コロナのパンデミックへの対応でも世界との違いは明らかだ。世界はこれを自然による「人間性への脅威」(隔離など)と捉えた。強権的な自民党政治の下、日本は「規制の対象」と捉えた。終息期においても彼我の差は大きい。世界は隔離などからの解放、すなわち「人間性の解放」であり歓喜を伴う。日本は「規制からの解放」にすぎず、解放されてもヤレヤレ、疲労感が残るのだ。
「人間性の解放」は個人消費の増加をもたらすのが自然だろう。人手不足や物流の停滞といった供給制約の改善の遅れが物価上昇、インフレ、金利上げとなっている、これが世界経済の現況だ。日本はどうか、さすがに経済界も規制にシビレを切らしたようだ。「経団連の十倉雅和会長は9月7日からの水際措置の緩和」につき、「今回の対策の効果は・・・限定的」「政府には、迅速に、次の緩和に向けた対策を講じてほしい」として、「入国者制限の撤廃や訪日個人旅行を可能とするビザ免除などを要望した」のだ。

日本経済の孤立を示す典型例が単独為替介入だ。「米国と欧州の主要国は、日本との協調介入には乗りださなかった」、「日本の今回の市場介入は、ドル安に誘導するための協調介入の性質のものではないと明らかにした」。国が保有しているドルにも限界がある、何かラッキーな事態が起きなければ日本沈没だ。
●「人間の尊厳の普遍性」と「光速度 不変の原理」:

ダブルスタンダード(二重基準)が良く思われることはほとんど無い、「矛盾」が生じるからだ。矛盾に陥らないよう、自然、社会、精神の認識も「一つの基準」から構築したいと考えるのは当然だろう。「光速度 不変の原理」を絶対的な基準として、時間、空間、その他、自然のすべてを相対的と考えるのがアインシュタインの一般相対性理論、そして、「人間の尊厳の普遍性」を絶対的な基準として、政治、経済、その他、人間の社会のすべてを相対的と考えるのが「戦後レジーム」、そのように著者は愚考している。

「反証可能性」をはじめて提案したのがカール・ポッパー(Karl Popper 1902-1994)だ。見たカラス100羽のすべてが黒くても、すべてのカラスが黒いとは言えない。これが帰納的アプローチのもつ根源的な問題だ。しかし、帰納的に導かれた仮説でも反証が可能であれば、「反証転がし」(作業仮設の反復改定)により、次第に真実に近づくことができる。反証可能性をもつ「作業仮説」の提案は科学と非化学を区別するもっとも重要な点であり、その反証可能性を強く主張したのがカール・ポッパーだ。

「光速度 不変の原理」を絶対的な基準とするアインシュタインの一般相対性理論、「人間の尊厳の普遍性」を絶対的な基準とする「戦後レジーム」、これらの壮大な「作業仮設」に対して、反証できるほどの矛盾がないかを検証し、もしあれば「反証転がし」をする、これこそが現在最先端の自然科学、社会科学だ、と著者は捉えている。

「人間の尊厳の普遍性」という世界基準と、自民党改憲案という別の基準、ダブルスタンダードを持ち込んだのが自民党政治だ。その結果、「衰退途上国」と揶揄され、経済政策が世界から孤立しているのだ。やはり根本的な解決の道は、「自民党改憲案をぶっ壊せ」(1)以外に無いだろう。

(1)MRIC No.22196「自民党改憲案をぶっ壊せ:守り(護憲)から攻めへ」
(2)平岡諦 『憲法改正 自民党への三つの質問 三つの提案』ウインかもがわ 2017
(3)MRIC No.22154「ダブルスタンダードの結末;政治の世界、そして日本医師会」
(4)MRIC No.22194 「ダブルスタンダードからの学び;日本社会衰退の要因は自民党改憲案」

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