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Vol.22206 相馬市が伝える震災後のコミュニティの重要性~タイのインターに通う高校生の視点から

医療ガバナンス学会 (2022年10月11日 06:00)


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吉本愛佳

2022年10月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私はタイのインターナショナルスクールで学ぶ高校生だ。ご縁があって、一時帰国中、福島県相馬市の復興住宅である市営狐穴団地を訪問した。今回、福島という東日本大震災の被害の中心であった場所を生で見る機会を通し、多くの事を感じた。災害が多く起こる日本だからこそ海外を見習い、学ばなければならないと思った事を説明していく。

まずはじめに、今回訪問した市営狐穴団地の特徴について簡単に紹介したい。今回団地を紹介してくださった相馬中央病院の事務長である橘川茂男さんは「この団地の最大の特徴は他の団地にはない共有スペースがあることだ」と語った。
東日本大震災では孤立した高齢者が災害時に避難弱者となり、60歳以上の高齢者は福島県の死者数の約66%を占めた 1) 。そんな経験から相馬市長の立谷秀清さんは台湾の支援を頼りに設立した市営孤穴団地の各部屋に洗濯機は設置せず共有スペースとした。そうすることにより、団地内で近所の人々と会話をし、顔を合わせる機会を設け地域づくりにつながると市長は予想したそうだ。そして、災害時に「あれ、 ◯ ◯ さんがいない」と周りの安否を確認することができるコミュニティを作り、災害時の高齢者の孤立を防ぐのだという。
また、福島県での東日本大震災の死者は直接死が1614人なのに対し関連死が2331人と避難生活中での死者が災害時の死者数を大きく上回っている 7) 。こうした事実も踏まえて、コミュニティを作ることにより避難先でも互いの精神的な支えになり、日本全国の震災関連死者数の89%をしめた高齢者の関連死を防ぐためにもなるだろう6) 。
橘川さんによると「訪問する度に、お元気そうなお年寄りの声を聞くと安心する」という。私が訪問した際も、この団地の居住者と思われる方々が暑い中隣の公園でゲートボールをやっておられており、そうした光景は市長さんが団地を通し目指したコミュニティ作りの結果なのではないかと肌で感じさせるものであった。そして、団地の構造も高齢者を対象とした団地であることから、階段のない平家建てで同じ形の部屋が連なり、高齢者にはとても優しいもののように私の目には映った。

こうした住宅の構造は災害後の「高齢者の孤立」という課題に対する対策の一環である。日本では都市部を中心に核家族化が進み、近所との交流も希薄になり特に一人暮らしの高齢者にとってはご近所との繋がりを築くのが難しくなってしまっているように思える。無言で通り過ぎるご近所さん達を見ていると、他者に関心がなくなってしまっているのだと感じる。そうした状況は災害後において地域とのつながりを失った高齢者にとって、孤独な震災関連死や直接死誘発するものとなってしまうのであるのだ。その結果が、多くの災害による高齢者の犠牲だ。このように、東日本大震災を経て福島に限らず災害大国と呼ばれている日本全国が高齢者の孤立を防ぎ、災害時の高齢者の犠牲を減らす努力をしなければいけないのではないだろう。

しかし、こうした課題は日本に限った問題なのだろうか?震災が頻繁に起こるのが日本だけではないことはニュースをみていれば一目瞭然だ。現に、Statistaの2021年のデータによるとアメリカでは43件もの自然災害が起きている 9) 。そして、災害時に高齢者が避難弱者となってしまうのは高齢になるになるにつれ衰えていく感覚や体力を考えるとどの国も同じだろう。高齢者の孤立はアメリカや日本の災害大国にとって大きな課題として存在する。

アメリカでは60歳以上の高齢者の中で38%が一人暮らしし、孤立してしまっている事が深刻な問題として捉えられている 10) 。日本もアメリカと比べると15%と低いが高齢化社会の中で高齢者の孤立は問題となっている 10) 。かつ、乾燥した気候や強力な風で山火事が起きやすく、広がりやすいアメリカでは高齢者に限らず国民の速やかな避難が要される。山火事で主に被害者となっているのは高齢者である。National Fire Protection Assosiation によると2015年から2019年の間で起きた山火事による死は55歳から64歳が圧倒的に一番多く、65歳から74歳が2番目に多かった 4) 。このように、地震や津波に限らず様々な災害において高齢者は明らかに避難弱者であり災害時の避難では周りからの支援を必要とする。

一方で私が過去に住んでいたシンガポールではコミュニティ作りが盛んであった。シンガポール国民の約8割が公営団地に居住している 8) 。そこには公園や健康器具が設置されているスペースやホーカーセンターというフードコートなどの共有スペースが必ずある。当時私が住んでいた頃、HDBのそばを通ると住民やシンガポール国民、主に高齢者の方々がが一緒に麻雀をしていたり、お茶をしていたりと近所の人達が毎日顔を合わせる場があった。そのため、HDBに住んでいる人々が近所の人達のそばを無言で通り過ぎることはなかった。
また、シンガポールに限らず現在住んでいるバンコクでもアパートやマンションにはプールやジムなどの共有スペースがあり、HDBに住む人達と同様にご近所と顔を合わせる場は十分にある。プールサイドでバーベキューをしたり、子供達でハロウィンパーティーをしたりとコミュニティ作りは行われている。これまでシンガポールやバンコクで住んできた上で災害にあうという状況にはなっていないが、避難時に周りを支え合えるだけのコミュニティ作りはできているのではないだろうかと思う。

今後、温暖化が進むにつれて災害が世界規模で増加していくことは想像に難くない。また、Our world dataやStaticaのデータベースでも災害の増加の予想は明確だ。災害数は1976年までは100件未満だったが、以後増加傾向にありここ数年では400前後である 2),5) 。CO2放出などの自然問題がまだ課題として残る世界では今後も災害数は増加傾向にあ利続けると予測される。そういう状況において今回の福島の知見は非常に示唆に富んだ出来事であり、歴史として忘れられていくのではなく教訓を広める事が重要だ。今回相馬市が東日本大震災から学んだコミュニティの重要性は世界中に伝えられ、高齢者が近所の人達と交流する機会を増やされるべきではないだろうか。

Works Cited1)復興庁, et al. 東日本大震災における震災関連死の死者数. 2020. 東日本大震災における震災関連死の死者数(都道府県・年齢別).
2)“Global Reported Natural Disasters by Type.” Our World in Data, ourworldindata.org/grapher/natural-disasters-by-type.
3)厚生労働省. 人口動態統計からみた東日本大震災による死亡の状況について. 2012. 性・年齢階級別震災死亡数(岩手県、宮城県、福島県、その他).
4)“NFPA Report – Home Fire Victims by Age and Gender.”
https://www.nfpa.org/News-and-Research/Data-research-and-tools/US-Fire-Problem/Home-fire-victims-by-age-and-gender
5)“Number of Natural Disasters Worldwide 2018 Statistic.” Statista, Statista, 2018,
https://www.statista.com/statistics/510959/number-of-natural-disasters-events-globally/
6)日本放送協会. “東日本大震災あすで11年 死者不明者は「関連死」含め2万2207人 | NHK.” NHKニュース,
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220310/k10013523201000.html   (Accessed 12 Aug. 2022)
7)“東日本大震災の震災関連死3786人 相次ぐ「災害関連死」 – NHK.” Www3.Nhk.or.jp,
https://www3.nhk.or.jp/news/special/saigai/select-news/20220310_02.html   (Accessed 12 Aug. 2022)
8)“シンガポールにおける住宅事情.” クレアシンガポール, 28 Oct. 2016,
http://www.clair.org.sg/j/mail-magazine/201610-sin-housing/#:~:text=%EF%BC%91  (Accessed 31 July 2022)
9)Statista Research Department. “Countries with the Most Natural Disasters in 2018.” Statista, 5 Aug. 2022,
https://www.statista.com/statistics/269652/countries-with-the-most-natural-disasters/ 
10)藤森克彦.単身高齢世帯(一人暮らし高齢者)の生活と意識に関する国際比較調査-4か国比較-

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