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Vol.22207 医療過疎地域にあるいわき市・ときわ会常磐病院での消化器低侵襲手術の実現

医療ガバナンス学会 (2022年10月12日 06:00)


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本稿は2022年10月5日医療タイムス記事を加筆修正したものです。

ときわ会常磐病院 外科
澤野豊明

2022年10月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

筆者は福島第一原発事故後に福島県南相馬市で継続して放射線の健康影響に関する研究を続けながら、同じ浜通りのいわき市にあるときわ会常磐病院で外科医をしています。いわき市も東日本大震災当時には地震・津波のみならず、原発事故の影響を強く受けた被災地です。私が所属するときわ会は腎泌尿器診療に力を入れており、震災当時は透析患者を遠方に送るなど対応に追われました。いわき市はもともと福島県の中でも人口に対して医師が少ない地域でしたが、原発事故後その状況に拍車がかかりました、そのような状況もあり、微力ながら浜通り・いわき市の医療に貢献したいとの思いから、2020年10月から私は常勤の外科医として勤務しています。今回は、私が所属する常磐病院の低侵襲手術の取り組みを紹介したいと思います。

去る2022年8月17日、ときわ会常磐病院外科では大腸癌に対するロボット(da Vinci)支援下腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術を導入しました。東京医科歯科大学・大腸肛門外科の教授である絹笠祐介先生をお招きし、ご執刀いただきました。当科では、昨年2021年から外科部長である黒川友博先生が中心となり消化器領域のロボット支援下手術を導入しました。消化器領域の悪性腫瘍に対するロボット支援下手術は今回が初めてとなります。結腸癌に対するロボット支援下手術は2022年4月に保険収載されたばかりです。開腹手術に比べ低侵襲で、さらに腹腔鏡手術に比べてもリンパ節郭清で優位性がある可能性が示唆されています。当院ではこれまでも低侵襲手術を意識し、大腸癌に対してはほとんど全ての症例で腹腔鏡での手術を行なってまいりました。

余談ではありますが、筆者も、仙台で大腸癌に対する腹腔鏡手術の勉強をした後にいわきに参りましたので、微力ながら低侵襲手術に協力させていただいております。まだ当院においては限られた症例に対してしかロボット手術は行えませんが、今後はさらに症例を増やし、地域の皆様に安全な低侵襲手術を提供できるよう精進していきたい考えです。

当科の低侵襲手術は、大腸癌やロボット支援下手術に限りません。現在、胃癌に対してはある程度進行癌でも腹腔鏡での手術を行なっております。胃癌に対する腹腔鏡手術は、上部消化管が専門であり、副院長である神崎憲雄先生が中心となり行なっています。昨年度には福島県立医科大学・消化管外科学講座・准教授である佐瀬善一郎先生にご指導いただき、腹腔鏡下噴門側胃切除術を導入いたしました。昨年度末から今年度にかけては胃全摘術も腹腔鏡で複数例行いまして、胃癌に対する基本術式は全て腹腔鏡下で行えるようになりました。現時点で当院の症例数では胃癌に対するロボット手術は導入できません。一方で、いわき市内で胃がんに対して腹腔鏡を標準術式としているのは当院のみであり、今後も低侵襲手術を意識し、胃癌に対する腹腔鏡手術の技術を磨いていきたい所存です。また、今後、施設要件が満たすようになればロボット手術も導入したいと考えています。

加えて、当科では消化器領域の低侵襲手術に関する学術活動にも力を入れております。最近では、学会活動において、黒川友博先生が胃周囲の血管破格(anomaly)を有する胃癌に対して安全に腹腔鏡手術をすることを題材とした発表を7月の第77回日本消化器外科学会総会で行いました。また、今春まで当科に在籍していた金本義明先生が4月に行われた第122日本外科学会において、ロボット支援下前立腺全摘術後の腹腔鏡下ヘルニア修復術のコツに関する発表をしました。
また、筆者も2編の低侵襲手術に関する英語論文を発表いたしました。1つは「大網裂孔ヘルニア」という緊急手術が必要な絞扼性腸閉塞に対して、腹腔鏡手術で安全に手術ができた、という内容で、英国オックスフォード大学出版局発行「JOURNAL OF SURGICAL CASE REPORTS」2022年8月号に掲載されました。また、「Gastro Hep Advances」というアメリカ消化器学会が運営する英文雑誌から胃癌に対する腹腔鏡下幽門側胃切除の術中に偶発的にみつかった、空腸漿膜にできた異所性膵に関する症例報告を発表しました。いずれも以前ならば開腹手術で行わなければならなかった手術を腹腔鏡などの低侵襲手術で行うことができたというものです。

もちろん学術面にも力を入れておりますが、当然ながら診療第一で、地域の皆様に質の高い医療を提供したいと考えております。今年度からは開業医の先生方向けに、腹痛ホットラインという医師への直通電話サービスの運用を開始し、地域の開業医の先生方との連携をさらに深めようと努力しております。また、今秋10月からは東京にある板橋中央総合病院から外科専攻医がローテーションで当院での研修を開始します。手術の勉強に加え、上述したような学術面でも積極的に活躍してくれること、人数がさらに充実することから緊急手術などにも対応しやすくなると期待しています。
福島第一原発事故から11年半の月日が流れ、震災の影響を感じることは以前に比べれば少なくなってきましたが、いわき市の医師不足は今でも日々感じております。そのような状況で、少しでも地域の皆様に最新で質の高い医療・手術を提供できるよう今後も努力していきたいと思います。

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