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Vol.22214 東大専門塾「鉄緑会」によって入試問題の出題ミスが指摘されるも,東大は一切反応なし

医療ガバナンス学会 (2022年10月21日 06:00)


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長野県松本深志高等学校教諭
西牧岳哉

2022年10月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2022年7月に発売された東大専門塾「鉄緑会」の「東大化学問題集2023年度用」に前代未聞ともいえるショッキングな内容が掲載された。2021年の東大入試問題化学で出題ミスがあったという内容である。もちろん東大は現時点ではこの件を出題ミスとは認めていない。問題集の解説部分には以下のような記述がある。

以下 「鉄緑会 東大化学問題集2023年度用」より

以上が,2021 年度入試終了時点で東大入試を分析して記した内容でした。しかし,その後に長野県松本深志高等学校教諭の西牧岳哉氏により,そもそもこの問題には根源的な出題ミスがあること,そして上記解説は東大の作問者の致命的な過ちを見逃していることが指摘されました。この問題の設定では,「対照実験によって補正することで(この問題の問題文で言うところの)“当量点”(=沈殿開始点2)までの滴下量を得る」ことはできないのです。また,問イの選択肢(1)が「正」という扱いになっていますが,この「当量点」という単語を(問題文本文の定義に基づき)“当量点”(=沈殿開始点2)であると解釈するならば,「誤」になるべきなのです。これらの点に関して,西牧氏が文部科学省経由で東大に問い合わせをした結果,東大からは「出題ミスではない」との回答を得られたとのことですが,その東大の弁明は苦しく,やはり出題ミスと判断されるべきものでした。本書におけるここまでの解説は,「東大の問題文を解釈して問題を解く」ことを意識するあまり,「東大の問題文は正しい実験操作を述べている」「問イの選択肢(1)は正しい内容を主張している」という前提を疑うことができていませんでした。

ーーーーーーーーーー 中略 ーーーーーーーーーーーーー

このように考えると,本問は現実に行われた実験に基づくものではなく,空想上で創造した自己矛盾した設定に基づくものと判断するべきでしょう。結局本問は「対照実験による補正」が意味をなしていないがゆえに,全体として実験全体が不成立となってしまっています。本書の解説においては,東大の出題の無謬性を盲信することなく,本来その出題ミスを指摘すべきところでした。
鋭いご指摘を頂きました西牧岳哉氏には,この場を借りて深くお礼申し上げます。また,西牧氏の
YouTubeチャンネルには,数値に基づいたより具体的な検証,東大への問い合わせとその回答などが掲載されており,大変興味深いものです。西牧氏の許諾を頂き,以下に紹介いたします。読者諸氏におかれましては,次の一連の動画で,本問の出題ミスのより詳細を確認していただければと思います。

以上が鉄緑会の問題集解説部分の抜粋である。

東大入試が行われた2021年には鉄緑会はこの出題について,「当量点」という専門用語の扱いが,本来の意味ではないことに言及してはいたが,出題ミスとまでは指摘できていなかった。そこで,鉄緑会が出題ミスを指摘しきれていなかったことを私がYouTube動画で示したのである。この動画は当初視聴回数は少なかったものの,2022年の大学入学共通テストの出題ミスを指摘した動画に連動して視聴されるようになり,現在では1万3千回を超えている。
2022年5月10日,突然鉄緑会の化学科主任から私のところに電話があった。私の動画について抗議の電話なのかと勘違いして,「すみません」と早々に謝ってしまったが,鉄緑会の化学化主任は「先生のおっしゃる通りです。」と私の主張を全面的に認めて下さったのである。
鉄緑会といえば塾生が東大合格者のかなりの割合を占める日本最有力の学習塾である。スタッフは,ほとんどが東大卒業生だと聞いている。自分の母校に対して入試問題の出題ミスを告発するのはかなり勇気のいることだったと思う。しかし,大学入試問題の出題ミスをなくして受験生が理不尽に不合格とされないようにして欲しいことは私にとっても鉄緑会にとっても切実な願いであることは共通している。

東大入試で出題ミス → 鉄緑会がミスを見抜いていない → 私がそれをYouTube動画で指摘 → 鉄緑会が認め,問題集に私の動画へのリンクを掲載

このような前代未聞の出来事があっても報道機関は動こうとしない。安倍元首相暗殺事件後の旧統一教会に関する報道と同じである。
実はこの出題ミスについては東大入試が行われて間もなく,大手予備校の解答速報でも「『当量点』という専門用語の使用が本来のものではないために受験生が戸惑ったのではないか」と指摘されていた。
私もいち早く気付き,文部科学省の大学出題ミス担当窓口にメールを送った。1回目のメールに東大担当者が返答してきたが,問題点を理解していないようだったので,更に2回目のメールを送り,その中で具体的な数値を示して誤りを指摘した。これに対して東大の担当者は「本問につきまして御指摘頂きました点を踏まえ、再度学内の複数の専門家とともに検証致しました。その結果、問題は成立しており、十分に解答できることが確認されました。」との返答をしてきた。「複数の専門家とともに検証した」とのことで,東大の入試関係者の中で検討があったことが分かる。
これに対して,私は3回目のメールで「東京大学は直ちに,この問題の正解と採点基準を説明するべきである。また,出題ミスを認め,受験者全員にこの問題について得点を与え,それによって合格基準に達した受験生に対して追加合格を認めるべきである。」と抗議した。しかし,それに対する返答は「今回ご指摘頂いた点は、前回のご指摘の段階で専門家とともに精査・検討されており、問題文に沿って解答を導くことができることを再度確認しています。」とのことであった。問題を解く上で重要な専門用語の誤使用という大きなミスを認めないのである。

以下に東大出題ミスの概要を示す。高校化学の知識のある方は問題文に目を通していただければ幸いである。
https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400160592.pdf
2021 年度東京大学入試 化学 第3問のⅠ
「当量点」という専門用語を誤使用したために,大問すべてが不成立になる。更に,実験に用いる硝酸銀水溶液の濃度を通常の100分の1程度も薄い設定にしてしまったために,「真の当量点」と「問題文でいう当量点(クロム酸銀が沈殿し始める点)」の値が大きくかけ離れてしまっている。このため,「当量点」という用語の解釈の違いで,数値を求めさせる設問に,二通りの答えが生じることになる。
また,実験の誤差を補正するための対照実験によって「問題文でいう当量点(クロム酸銀が沈殿し始める点)」を求めることができるように記述されているが,「理想的な条件下」での対照実験であれば,「真の当量点」を求めることはできる。しかし,「問題文でいう当量点(クロム酸銀が沈殿し始める点)」は対照実験を行っても直接求めることはできない。このため,「当量点」が何を指すのか判断できない。
正誤問題の選択肢の中に,「当量点」という用語が含まれているものがある。「当量点」という誤使用された判断不可能な用語が含まれているので,その選択肢の正誤も判別できなくなっている。
なお 2021年の化学の大問は全部で6問あり,この大問の配点は60点満点中10点程度と考えられる。仮にこの大問を出題ミスとして,受験生全員が正解として扱われた場合には,不合格と判定された一部の生徒が合格に変わる可能性がある。東京大学の一般入試では共通テストの配点が
900 点から 110 点に圧縮されるので,個別試験の10点は共通テストの約80点分に匹敵するから,合否判定への影響は小さくない。
鉄緑会が東大の出題ミスを認定 私の主張を全面的に受け入れてくれました
https://youtu.be/MXBTQpQ9UBQ

大学入試出題ミスから受験生を救済できるようにしよう!
https://chng.it/qZ2vn7HVPR

2021年東大入試 化学 出題ミス 解説 (1) (東大から返事がきました)
https://youtu.be/a7HrRNwsAdE

2021年東大入試 化学 出題ミス 解説 (2) (複数の専門家による検証が行われたそうです)
https://youtu.be/p349xt4IXaE

鉄緑会 が 東大 化学 の 出題ミスを指摘できていません。肝心なところ間違えてます(2021年東大入試化学で致命的な出題ミス)
https://youtu.be/GlOAH35D4A8

東大化学の出題ミスを3分で解説 Explain mistakes in the University of Tokyo entrance
examination of chemistry
https://youtu.be/PIh6yyNJqNo
長野県松本深志高等学校教諭 西牧岳哉
1965年長野県松本市生まれ
1988年3月京都大学理学部化学科卒
同年4月より長野県立高校の理科教諭となり現在に至る
所属学会:日本化学会,日本理化学協会
令和元年度日本理化学協会賞受賞
令和3年度第53回東レ理科教育賞 文部科学大臣賞受賞
YouTubeチャンネル:Online Chemistry by Higashimaki

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