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Vol.22212 自由な環境で学ぶことのできないコロナ禍の医学生

医療ガバナンス学会 (2022年10月19日 06:00)


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北海道大学医学部
金田侑大

2022年10月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

北海道大学医学部4年の金田侑大です。コロナ感染対策について、先日、臨床実習コースへの進級が決まった際、”道外に移動する場合は期日までに申請し、学部長からの許可を得ること”、という注意を受け、それに誓約する旨を一筆書いて、提出しました。

しかし、これは本当に正しいことなのだろうか、という印象を私は抱きました。そもそも、居住・移動の自由は、憲法で認められた個人に与えられた権利です。その個人の権利を侵害することが正当であるかどうかの判断には、公共の福祉、すなわち、他の人の人権が関与します。その人が移動することにより、他の人の権利が脅かされてしまう場合、移動する権利を制約することは正当化される、というロジックです。

憲法の規範対象はどこか、国家です。北海道大学は民間組織なので、この憲法規範は直接の影響を及ぼしません。しかしながら、日本が立憲国家である以上、北大と学生間のあらゆる契約において、この規範は尊重されるべきであります。そして、個人の権利を制約する場合に議論されるべきは、目的と手段の妥当性です。

今回のケースでは、目的は、”病院実習に出る学生が、患者さまを含む病院関係者にコロナ感染を蔓延させないこと”、になります。この目的は極めて妥当であり、私もマスクの着用などといった、感染を広めないための行動を遵守させていただきます。

問題は手段です。今回のケースでは、”道外に移動しないこと”、を、感染しないための手段としていますが、そこに、科学的な合理性や根拠はありません。道内でも感染者が出ており、北海道にいればコロナに感染しない、というのは理屈が通らないからです。

なによりも重視すべきは、病院を守る、患者を守る、ということです。私が一年間留学させていただいたエジンバラ大学では、コロナの抗原検査キットを学生に無料配布し、週2回の検査を推奨し、感染者の早期発見・隔離を徹底していました。日本の大学医学部でも、病院実習に入る全ての学生に対して検査キットを配布し、自己検査を実施させるという方が、感染対策として現実に有効的である可能性が高いといえます。

お隣の旭川医科大学では、大学への申請をせずに道外に出たために、令和3年2月に訓告処分を受けた学生もいます。最初は未曾有のパンデミックだったため、そのような取り組みを徹底することも重要だったかもしれませんが、現在は、コロナ感染は空気感染という知見が世界の主流であり、人々の移動の増加と感染拡大の間の相関は認められておらず、どれだけ注意していようと、誰にも感染リスクはあります。

北大はコロナ禍であっても私をエジンバラに送り出してくださるような懐の深い大学なので、正当な理由を持って提出した申請書が棄却されることはおそらくないと思われます。そのため、私は道外に赴く際には申請書をしっかり提出させていただきますが、心理的な障壁が高いために、学習や病院見学の機会損失も招きかねない状況であることは、十分に注意を払うべき事項でしょう。個人のプライバシーや憲法に規定された権利を侵すこともない、本来の目的を達成するための、真に有効な感染対策は何かを、この2〜3年の間に積み重なってきた知見を元に、議論しなおす機会が持ててもよいのではないかな、と感じます。

同時に、これは北大だけで変えたりできる問題ではないのだろうな、とも感じます。元はと言えば、移動制限は、感染初期に政府が打ち出した方針ですし、他の大学でこのような取り組みが継続的に行われている以上、北大もそれに習わなければ、コロナ対策を徹底していない、と、批判の対象になりうることは想像に容易いからです。

コロナへの対策は、世界のコンセンサスであるべきです。内部だけでなく、外部からも最新の知見をもとに、感染対策の妥当性を評価し、時代に合わせて修正していける柔軟な体制を整えていくことが重要なのではないでしょうか。

【金田侑大 略歴】
スイスはフラウエンフェルト出身。母は日本人、父はドイツ人。私立滝中学校、私立東海高等学校を経て、現在は北海道大学医学部医学科に在学中。コロナ禍で一年間エジンバラ大学に留学し、公衆衛生を学んだ。道外に出られないなら気分だけでも!と、ソーキそばを食べたのですが、ご当地グルメはご当地で食べるからこそあんなに美味しいのかもしれません。

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