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Vol.22211 コロナ患者「一律に10日間療養」に疑問 診察の現場で女医が思うこと

医療ガバナンス学会 (2022年10月18日 06:00)


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この原稿はAERA dot. (8月24日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2022082300061.html?page=1

ナビタスクリニック(立川)内科医
山本佳奈

2022年10月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の今年の夏の流行(第7波)は、ようやくピークアウトを迎えたようです。Our world in dataによると、8月10日ごろを境に、コロナの新規感染者数は減少傾向に転じています。

勤務先のクリニックでは、発熱や風邪症状を訴えて受診する人が後を絶ちません。しかしながら、予約なしで受診された方が待合室に入りきれずに溢れてしまった7月中旬と比べれば、8月に入って受診者数も実施するPCR検査数も減ってきていました。ですから、8月中旬に認めたコロナの新規感染者数の減少は、診療する上での肌感覚を一致しているように思います。

とはいえ、検査をすれば7割ほどで陽性を認める状況は続いています。新型コロナウイルス感染症は現在「新型インフルエンザ等感染症」に指定されており、感染症の中でも上から2番目に危険度が高い結核や重症呼吸器症候群、鳥インフルエンザなどの2類感染症と同等の「2類相当」として扱われています。そのため、感染症法に基づいて入院勧告や就業規制、医療費の公費負担、外出の自粛要請など様々な措置を講じることができます。

また、コロナを診断した医師は「発生届」を直ちに保健所に提出しなければならないことが定められています。患者さんの個人情報に加えて、職業、コロナワクチン接種の有無や種類・接種日、症状、検査日や診断日、重症化リスクの有無など記入すべき事項がたくさんありました。先月ごろから発生届への記入項目は半分ほどに減ったものの、毎日30枚から多い日には50枚近くも記入する必要があります。診療に支障をきたさぬようにこの事務的な作業をこなすためには、昼休みを短縮するか勤務の開始より早く出勤しなければならず、負担になってしまっていると感じざるを得ません。

事務的な処理を含むコロナに関連した業務の増加は、医師だけでなく看護師や事務スタッフにも負担になっているようです。これまでにもクリニックに勤務するスタッフがコロナに罹患することはあったのですが、8月になり、体調不良を訴えるスタッフが増えました。誰かがコロナ罹患から復帰したと思ったら、また他の誰かがコロナに罹患してしまうような有様で、保健所の指示に従い10日間も自宅療養しないといけないため、残りのスタッフで仕事を回すことになり、更なる負担となっているように感じます。

医師もコロナに罹患しないわけではありません。医師がコロナと診断された場合、代診を探すのがとても大変なようです。診療時間を短縮し、代理の先生が見つからない日は止むを得ず休診することもあります。コロナと診断されれば、一律に10日間も療養しないといけない今の措置には、限界があるように感じます。

クリニックを受診される多くの方はコロナを心配し、PCR検査の実施をご希望されます。しかしながら、「体調が悪いから薬が欲しい。でも、コロナ陽性になったら仕事に行けなくなり困るので、検査はしない」とおっしゃる方が少なからずいらっしゃるのも大変よくわかります。

まだ後期研修医だった頃、「インフルエンザになっても、多少体調が悪くても、休まず診療しろ」と上司に言われたことを覚えています。医師になってからインフルエンザには罹患していませんが、代診をお願いするのは大変なため、よっぽど体調が悪くなければインフルエンザの検査をすることはありません。コロナの検査も同じです。

幸い、コロナのパンデミックになってから体調を大きく崩すこともなく勤務することができています。少し体調が悪いなと感じたことが数回あり、購入しておいた迅速抗原検査を念の為に行うも「陰性」でした。毎日たくさんのPCR検査や抗原検査を行っており、「いつかコロナになるだろう」と覚悟する日々です。

コロナパンデミックが宣言されてから、もう2年以上コロナ疑いの患者さんをたくさん診療してきましたが、呈する症状も重症度も個人差があり、回復するまでに要する期間も人それぞれです。米国疾病対策予防センター(CDC)は、コロナが確認された患者は、自主的に少なくとも丸5日間、自宅療養し、他の人から隔離すべきであるが、強制的に隔離されるわけではないとしています。イギリスでは、国民保健サービス(NHS)がCOVID-19に感染した場合の対応についてのガイドラインを発表しており、それによると、コロナに感染した患者は自主的に自宅に隔離し、症状が悪化した場合は医師の診断を仰ぐべきだと言います。

一方、日本では一律に10日間の療養期間を求める措置が講じられています。数日で回復する人もいれば、「隔離期間は過ぎたけれど、まだ咳が続く」など、10日たってもスッキリ回復せず症状が続く方も、もちろんいらっしゃいます。何度考えても、「一律に10日間療養しなければならない」という理由が私にはわかりません。

コロナに罹患することは、「教育を受ける権利」も侵害しているようです。東京大学の教養学部2年の杉浦蒼大さんは、今年の5月にコロナを罹患。彼によると、ある一つの必修科目で、コロナ療養後に欠席連絡をするも受理されず、コロナ罹患中に休まざるを得なかった講義や課題への補講対応が認められないまま単位を取得することができず、留年となってしまったといいます。そんな大学の対応に対し、異議申し立てをおこなったところ、成績表の点数が元の点数から17点も減点され、大学からは「補講対応に関わらず、単位不認定である」との返答があったのです。

大学側は「欠席当日の夕方に大学のサイトにアクセスした形跡があることから、杉浦さんにコロナ感染による重篤な症状があったとは認めがたい」と主張しています。彼の欠席連絡の不備を指摘し、療養後に彼が提出した「コロナ感染の診断書」を認めず、救済措置を一切行わなかったのです。説明もなく成績の引き下げ、その理由を聞きたいという彼の願いにも応じませんでした。(ちなみに、成績変更の理由が「教員による成績入力ミス」によるものであったことが、取材により明らかになったということです。)

コロナに罹患したことで補修を受けられず、また単位が取得できず、留年になってしまったという学生は彼だけではないでしょう。コロナにならないようにと、部屋から一切出ることなく日常生活を送ることは困難であり、日常生活を送っていれば、誰にもコロナに感染するリスクはあります。「2類相当」の扱いがなされているコロナに罹患し、10日間の療養期間を求める措置に応じた後に診断書を提出するも、補修や補講が受けられず、単位を落とし留年してしまう現状は、学生が「教育を受ける権利」を侵されると言わざるを得ません。

コロナを「2類相当」として扱うのであれば、一律に10日間の療養期間を求める措置を強制するだけで終わるのではなく、それによって生じた影響にも目を向けるべきです。それが出来ないのであれば、「2類相当」として扱いながら「コロナとの共存」を模索するという矛盾した対応はやめるべきなのではないでしょうか。

※追記
令和4年9月7日 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部からの通達により
現在では『発症日から7日間経過し、かつ、症状軽快後 24 時間経過した場合には8日目から解除を可能』とされています。
https://www.mhlw.go.jp/content/000987035.pdf

 

 

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