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Vol.22224 現場からの医療改革推進協議会第十七回シンポジウム 抄録から(5)

医療ガバナンス学会 (2022年11月1日 15:00)


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2022年11月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

11月26日(土)
【Session 06】安全保障と医学 16:45~17:45(司会:鈴木 寛)
パネルディスカッション

●原子力災害対策と放射線防護 福島原発事故の健康対策の経験から
坪倉正治(福島県立医科大学医学部放射線健康管理学講座主任教授)

福島原発事故から11年以上が経過した。 様々なデータから、福島原発事故に伴う被 ばく量は低いレベルに抑えられていることが知られ、国連の報告書などでも、将来的な健康影響は推定しづらいことが言われている。結果論ではあるが、初期の大規模な避難に伴う影響がより大きかった。その後、原子力事故における対策は進み、国内の様々な場所で有事に伴う訓練・演習や対策が進んできた。
一般的な日本の災害対策は、日本の地政学的な特性から市町村が中心的な役割を果たすが、避難が広域になったり、原子力のように専門性が高くなる事態に対しては、自然災害と異なる部分が出てくる。起こりうる可能性も低く、備えに対する動機付けは難しくなる。その状況は新型コロナにおいて、国と、保健所すなわち県と、ワクチン接種を行う市町村とに情報が分かれ、意思疎通が様々な理由で妨げられる現在と同じである。
ウクライナ侵攻と核の問題というと、何か特別な解決策や事象があるように聞こえるが、まず越えなければならない壁は、原発事故で経験し、現在のコロナでも再び繰り返し経験している事象である。

●大国間競争の到来とグローバリズムの限界
後瀉桂太郎(海上自衛隊幹部学校戦略研究室教官2等海佐)

本年 2 月24日に生起したロシアによるウクライナへの軍事侵攻(ウクライナ戦争) は、この21世紀に領土権益や政治的影響圏の確保を目的とする大規模戦争が起こり得る、という事実を意味する。国際法や国連をはじめとする国際機関は、 2度の世界大戦や核兵器の登場といった、大量破壊と人類の存続に対する危機感から築き上げられてきた。しかし、ウクライナ戦争は、こうした秩序や規範だけでは主権国家の意思決定と軍事力をコントロールできない、という冷厳な現実をつきつける。国連安保理常任理事国であるロシアが引き起こした戦争は、核保有国が「核の脅し」をちらつかせながら隣国を侵略するという、人類史上類をみないものである。
これまで冷戦後の世界は「ヒト・モノ・カネ・情報」の量的拡大と流動性の向上によって繁栄が拡大する、いわゆるグローバリズムによって発展してきた。貿易金融をはじめとする国際的なルールセットは国境を越えて拡大すると考えられた。
しかし、グローバリズムによって格差の拡大や価値をめぐる分断も激しさを増した。そして国際社会は、米国優位の一極構造が 崩れ、中国・ロシア・インドなどの台頭による「大国間競争の時代」にある。ウクライナ戦争や、台湾有事・香港や新疆ウイグルの人権を巡る米中対立など、この競争は民主主義や人権といった「価値」を巡る対立構造を内包している。つまるところ、グローバリズムにはひとまず限界が到来しつつある可能性が高い。 システムや法秩序をいくら精緻化したとしても、それを遵守するか否かは結局諸国家の価値判断や国家目標にゆだねられ、メンバーがルールや価値観を共有できなければシステムや秩序は維持できない。
従来、医学は基本的に国境や人種などを越えた「オープンサイエンス」の枠組みで捉えられてきた。その基調が根底から崩れたわけではないが、今後は先端医療や医薬品開発、医療ツーリズムなどといった分野で、先端科学技術など同様、従来のグローバル化やオープンサイエンスとは異なる動きが出てくるのではないだろうか。

●政治主導で科学重視の確かな国家ガバナンス確立を
塩崎恭久(前衆議院議員)

日本のCOVIT-19パンデミック対応は、ワクチン効果等から小康状態だが、これまでの「有事対応」では、地域医療提供やワクチン・治療薬開発における機能不全等、国民医療の深刻かつ根本的な課題を露呈した。 人や経済・暮らしを守る、との根幹に係わる安全保障、経済安全保障の観点からは、「国家ガバナンスの機能不全」と「科学軽視による国民生活の混乱」をもたらし、今もって抜本改革は見えて来ていない。
一方、ウクライナ戦争は、国家の司令塔機能の発揮と科学の力による適時的確な決断と実行の重要性を再認識させている。我が国の保健 外交は長く「人間の安全保障」を基本とし、 皆保険の下でのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ実現モデルによる世界貢献を目指し、先日公表の「グローバルヘルス戦略」 でも、その路線の単純延長的色彩が濃い。しかし、事の本質は、どの国にとっても、安 全保障を揺るがす国家のガバナンス不全をどう克服し、世界に通用する最新の科学を 世界とともに活かし切り、制度・政策や医療機関、保健所などサプライサイドの都合でなく、ディマンドサイドの国民一人一人の命をどのように守り切るか、こそが重要ではないか。

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