医療ガバナンス学会 (2022年11月25日 06:00)
Tansa リポーター
辻麻梨子
2022年11月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
蓮舫議員は質疑の中で「Tansaというジャーナリスト集団が調べているので、合わせて詳しく調査した」と明言している。無駄な事業についてのフリップ、政治家や記者に配布した資料にも、Tansaのクレジット(名前)を入れている。だが、交付金の内容にクローズアップして質疑を報じたマスコミの報道の中には、Tansaのクレジットは記載されていなかった。
クレジットがなかったのは以下の5社だ。
テレビ朝日
日本テレビ
TBS
朝日新聞
東京新聞
そこでTasaは6月6日付で、上記の5社の社長宛に抗議と質問を配達証明で送った。抗議内容のポイントは次の通りだ。
1.Tansaの取材、報道した内容を情報源を明記せずに掲載することはTansaの活動に対する侵害である
2.2022年の「国境なき記者団」の調査では、日本のジャーナリズムは大手メディアによる寡占状態であることが指摘されているが、今回の対応はその寡占状態を強化し、国内でのジャーナリズムの発展を妨げかねない
また以下4点の要請と質問も行った。
1.蓮舫議員の質疑内容がTansaの報道結果に基づくものであることを、視聴者や読者に対し、放送や紙面上で2022年7月1日までに説明してください
2.1の要請の可否を教えてください。応じられない場合は、その理由も教えてください
3.Tansaのクレジットを表記せず、放送・掲載した理由をお答えください
4.今後、Tansaや他メディアが貴社に先行してスクープを出した場合にも、今回と同様にノンクレジットでの放送や掲載を続けますか。続けませんか。理由と共にお答えください
回答期限は6月15日とした。期限までに回答があったのは、テレビ朝日、朝日新聞、東京新聞だった。
●テレビ朝日「著作権侵害は含まれていない」
テレビ朝日は、5月30日の「報道ステーション」で蓮舫議員の質問と交付金について報じた。広報部は次のように回答した。
「当該放送は参議院予算委員会での質疑内容を報じたものであり、貴サイトの著作権等を侵害する内容は含まれておりませんでした。つきましては貴殿のご要望にはお答えしかねます旨をご回答いたします。ご理解賜りますようお願い申し上げます。」
クレジットの不掲載について抗議しているのに、「著作権等の侵害はない」とポイントをずらした回答だ。そもそもTansaは、著作権を侵害しているとは一言も言っていない。今後も同様の対応を続けるかどうかについては、答えなかった。
●朝日新聞「お答えを差し控える」
朝日新聞は交付金について、4ページ目の総合面と朝日新聞デジタルで報じていた。朝日新聞広報部の回答はこうだ。
「まとめてお答えいたします。ご指摘の記事は、国会での質疑の様子を、議員の質問に着目して紹介したコンテンツです。個別の記事に関する取材の経緯や掲載の判断については、お答えを差し控えさせていただいております。」
朝日新聞がTansaのクレジットを入れなかったのは、今回が初めてではない。2020年8月に、国民の100人の1人に当たる人数のDNAを警察が採取し、データベースを作っていたというTansa(当時ワセダクロニクル)の記事を後追い。クレジットを入れず1面トップで報じた。
朝日新聞は、自社のスクープには「独自」などといった記載を入れている。例えば6月15日付朝刊では、国土交通省の統計不正問題に関する記事の冒頭で「国土交通省による統計不正問題が、朝日新聞の報道で発覚してから15日で半年。」と強調。
スクープをどこのメディアが初めに報じたかが、重要だと理解しているからこその書きぶりだが、自分たち以外のスクープにはクレジットの掲載はいらないということだろうか。
●東京新聞、当初と異なる回答「これまでの判断に沿った扱い」「問題ない」
東京新聞に対しては、交付金に関する記事が掲載された5月31日に、Tansa編集長の渡辺から編集局長の大場司氏にメールで抗議をしている。
その際、大場氏は次のように返信してきた。
「質問内容の事実確認は記者がするべき最低限の行為であり、それをもって自ら調べたとは言えません。蓮舫議員がTansaの調査に基づいて政府をただした、と書くことが公正で正確な報道です」
「本日の記事が公正な報道だったのか、いわゆる後追報道についても、局内で問題提起したいと思います」
ところが、6月15日付で送付されてきた回答では、「判断に問題があったとは考えていない」と答えた。東京新聞の回答は以下だ。「コメントを使用される場合は、全文掲載をお願いします」と依頼があったため、全文を掲載する。差出人は編集局の池田実次長だ。
「この記事は、地方創生臨時交付金の使われ方をめぐり、5月30日の蓮舫議員による国会質問を受け、質問内容が事実かどうか、自社で裏付け取材をして掲載しました。
取材で事実関係の確認がとれたことから、蓮舫議員が質問の元にしたTansa様の調査報道に触れる必要はないと判断し、質問の出所までは掲載しませんでした。これまでの取材、報道の判断に沿った扱いであり、この判断自体に問題があったとは考えていません。
そのうえで、自社の取材で確認し、従前の判断で報じたとはいえ、蓮舫議員がどのような根拠で質問したのか、質問内容の出所としてTansa様の調査報道に基づいたことを明記していれば、読者の知る権利により応えられたと考えます。
責任ある報道は、情報源の開示が原則です。誰もが情報を発信できるネット時代にあって、情報の出所、情報源の開示の重要さは一層増しています。取材の起点がどこにあり、どのように取材したかを開示していくことは、記事の信用性と公正さを高め、読者からの信頼につながります。先行報道したメディア名を明記することが、記事の信用性と公正さを高めると判断した場合は、メディア名の明記も今後は検討していきます。
Tansa様から質問があり、どのように回答したかを6月19日付朝刊「新聞を編む」欄にて掲載し、読者に告知する予定です。」
予告通り、東京新聞は6月19日付朝刊「新聞を編む」欄に記事を掲載した。見出しは「真実、公正、進歩的」となっている。記事中ではTansaの抗議文に対する回答に触れ、「本社の社是は『真実、公正、進歩的』。回答の内容は社是にかなうと思っています」と書かれていた。
記事を書いたのは、大場氏だ。読者に対しても、当初と異なる説明をしている。「局内での問題提起」は行われなかったのだろうか。
●日テレ、広報部にもつながず
日本テレビとTBSは期日までに回答がなかった。そこで広報部宛に電話をかけて、回答をしない理由を尋ねることにした。
日テレの代表電話にかけると、受付の担当者が出た。抗議文への回答がないことを説明し、広報部へつなぐようお願いしたが、「確認します」としばらく保留にされた後、電話口に出てきたのは再び同じ担当者だった。
担当者は「こちらから確認を取りましたが、『回答がある場合には返信します』ということでした」と言う。広報の担当者は出てこないのか。
再三確認したが、「これ以上は申し上げられない」と同じ言葉を繰り返した。広報部とは話もできないという。代表電話だけの対応で、危機管理体制は大丈夫なのか、むしろ心配になった。
●TBS、担当者は名乗らず
TBSは蓮舫議員の質疑と交付金について、NEWS23で報じた。NEWS23は現社長である佐々木卓氏の古巣だ。
電話には広報部の担当者がでた。回答するかどうかは、「社内で確認します」という。電話を切る前に「お電話口の担当者のお名前を教えてください」と尋ねると、「広報部として受けておりますので…」と断られた。名前を出したら責任を問われるから、うやむやにしたいのだろう。
結局日テレ、TBSともに回答はなかった。
●YouTubeライブイベントを開催しました
クレジットの不掲載に関して、7月2日にトークイベントを開催しました。ぜひご覧ください。
https://youtu.be/FruX4-FZiIE
※この記事の内容は、2022年6月23日時点のものです。
探査報道シリーズ「虚構の地方創生」第一部は今回の記事を持って終了します。
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