医療ガバナンス学会 (2010年10月19日 06:00)
筆者は東大医科研の代理人でもなければ、顧問でもない。筆者がこの記事を読んだ時点では、何らの予備知識もなかった。そこで、東大医科研ががん治療ワク チンの臨床試験中にその被験者たる患者にそのワクチンとの『因果関係によって』消化管出血を起こさせて重篤な症状を来たさせてしまった(そして、死亡させ てしまったのか?)にもかかわらず、外部に何らの情報提供もしなかったらしい、と瞬間的に感じたものである。
通常一般人がこの種の記事を読んで考える時には、『因果関係のあるやなしや?』『その結果はどうなった?』がその際の暗黙の大前提となってしまう。筆者も同様である。
しかし、真実は、ワクチンと消化管出血との間には、通常一般の用語(もちろん、法律用語としても。)の意味の『因果関係はなかった』らしい。
既に東大医科研は2010年6月時点で朝日新聞社に対して、「発生原因としては、原疾患の進行(腫瘍の増悪・圧迫による静脈瘤形成)に伴う出血と判断さ れました」と説明しているとのことである。一般用語・法律用語上の因果関係は、この件では存在しなかった。もちろん、厳密に医学的・科学的に見たら、ワク チン投与による可能性を「医学的・科学的に完全に」否定することは殆んどの場合で困難に決まっている。ただ、この意味の因果関係は、一般用語・法律用語と は異なった、医学的・科学的用語としての因果関係にすぎない。この2つの意味を、通常一般人に誤認混同させるようなことがあってはならないであろう。
記事には、「厚労省は朝日新聞の取材に対し『早急に伝えるべきだ』と調査を始め」たともあるが、この部分も不可思議である。厚労省が調査を始めたのは、 『もしも因果関係があるとしたならば』早急に伝えるべきなので、『因果関係があるのかどうか』の調査を始めたにすぎないものであろう。
医科研が「報告義務ない」としたのも、医療的に見て報告する必要がないからこそ報告しなかったのである。「医療的に見て報告する必要があるけれども、た またま法規制で届出義務がないから、これを奇貨として報告しなかった」わけではあるまい。しかし、記事からはそのように誤認混同されてしまう。
付け加えれば、その患者はその後の処置で軽快したらしい。
この朝日新聞の記事は、通常一般人に対し、因果関係がないのに有るかのような誤認混同を与えるものと思われる。結果として、朝日新聞という大マスコミによる不当な医療攻撃がなされたという事態を招いてしまった。
今後の医療に対する悪影響を深く憂慮せざるをえない。そこで、朝日新聞社において、早急に社内での監査を行い、謝罪した上で記事を撤回することが望まれよう。