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Vol. 332 大丈夫か朝日新聞の報道姿勢

医療ガバナンス学会 (2010年10月24日 06:00)


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東京大学医科学研究所・教授
清木元治
2010年10月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


平成22年10月15日の朝日新聞朝刊に東京大学医科学研究におけるペプチドワクチンの臨床試験についての報道があった。これに対して、10月20日に41のがん患者団体が厚生労働省で記者会見を開き、我国の臨床試験が停滞することを憂慮するとの声明文を公表した。朝日新聞は翌日21日に、”患者団体「研究の適正化を」”と題する記事(朝刊38面)を書いている。

この記事が記者会見の声明文の真意を伝える報道であれば朝日新聞の公正な立場が評価されるところだが、よく読んでみると声明文の一部分を削除して掲載することにより、声明の意図をすり替えているように読める。

声明文の一部をそのまま掲載すると:
「臨床試験による有害事象などの報道に関しては,がん患者も含む一般国民の視点を考え,誤解を与えるような不適切な報道ではなく,事実を分かりやすく伝えるよう,冷静な報道を求めます。」

全文は

http://pancreatic.cocolog-nifty.com/oncle/2010/10/37-3925.html

http://smiley.e-ryouiku.net/?day=20101019

http://lohasmedical.jp/blog/2010/10/37.php

ところが朝日記事の声明文説明では:
「有害事象などの報道では,がん患者も含む一般国民の視点を考え,事実を分かりやすく伝えることを求めている。」となっており、 なんと「誤解を与えるような不適切な報道ではなく」の部分が削除されている。

本来の声明文は、臨床試験を行う研究者・医師、行政関係者、報道関係者に向けられており、特に上記に相当する部分では報道に対して「誤解を与えるような不適切な報道」を慎んでほしいとの切実な要望が述べられている。

科学論文の世界では、事実の一部をなかったことにして解釈を意図的に変えることを捏造と呼んでおり、この捏造の定義に異論を唱える人はないだろう。朝日新聞の10月15日から始まった一連の関連記事を読むと、実際の事実関係と書きぶりによって影響を与えようとしている目的との間に大きなギャップを感じざるを得ない。社会に対して大きな権力を持ち責任を担う朝日新聞の中で、急速に報道モラルと体質の劣化が起こっているのではないかと思わせられ大変心配になる。「医療や臨床試験の中では人権保護が重要だ」と主張している担当記者の人権意識は、単にインパクトある大きな記事を書く為の看板であり、最も根幹である保護されるべき対象が欠落しているのではないかと思わせられる。

(2010年10月22日)

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