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Vol.22254 「偽りの看板」の裏で売買される「カギ」(シリーズ「誰が私を拡散したのか」第2回)

医療ガバナンス学会 (2022年12月15日 06:00)


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Tansa リポーター
辻麻梨子

2022年12月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

知らない間に自分の写真や動画が「性的商品」として売買されている。一度出回ればどんどん拡散し、二度と消えない。

クラウドをハッキングされた被害者は、ある日突然知らない人から連絡が来た。「えっちな写真と動画、流出しちゃってますよ」。警察に相談しても相手にしてもらえず「考えたら生きていけない」と言う。

交際していた相手に興味本位で動画を投稿された被害者は、3年経った今もそれらが拡散している。自殺を図ったこともあった。

彼女たちの写真や動画は、スマホアプリ内で売買されていた。

中でも利用者が多いのが、「動画シェア」と「アルバムコレクション」というアプリだ。

動画シェアはGoogleとAppleのアプリストアで、アルバムコレクションはAppleのストアで入手でき、人気ランキング入りもしていた。

犯罪の温床となっているアプリが、どのようにして、GoogleとAppleのストアで堂々と提供されているのだろうか。

●App Storeでは写真・ビデオランキング57位

Appleのアプリストアである「App Store」、Googleの「Google Play」は、それぞれ自社による審査を通過したアプリを提供している。アプリの運営者が自作のアプリを各ストアに置いてもらうためには、登録料の支払いが必要だ。

動画シェアとアルバムコレクションの、正確な利用者数はわからない。現段階で分かった利用の規模を示す情報は、次のとおりだ。ウェブアーカイブサービスなどを使用して、調べた。

動画シェア:App Store エンターテインメントジャンルで76位(2022年2月4日時点)、
Google Play 10万ダウンロード達成(2022年1月18日時点)

アルバムコレクション:App Store 写真・ビデオジャンルで57位(2022年7月11日時点)

App Storeでは、各ジャンルのアプリのうちトップ100までのランキングをサイト内で表示している。そのうち、アルバムコレクションは直近の11月18日にも、写真・ビデオジャンルのランキングで94位にランクイン。サイトに表示されていた。

●フォルダを開ける「カギ」1個160円

なぜこれほど人気があるのか。動画シェアとアルバムコレクションの説明書きからは分からない。データ量の大きいコンテンツを誰かと共有できることをアピールしているだけの、ありふれたアプリだからだ。

App Storeでは、それぞれ次のように説明している。

動画シェア
「写真や動画を一度に大量にかんたん共有!」
「会員登録、ログイン不要!」

アルバムコレクション
「今まで1つづつ(ママ)アップしていた写真や動画ファイルって結構めんどくさかったですよね?!このアプリなら大量の写真を一度に送れます!」

だがこうした「偽りの看板」の裏で、性的な写真や動画が売買されている。一体、どのように行われているのか。

私が着目したのは、2つのアプリに共通する仕組みだ。アプリ内のそれぞれのフォルダに格納されている写真や動画を入手するには、「カギ」を購入する必要があるのだ。

フォルダ1つを開けるのにカギ1個が必要で、値段は160円(今年10月の値上げ前は1個120円)。まとめて買う場合は割り引かれ、次のような料金設定だ。

動画シェア
1個 ¥160
6個 ¥650
10個 ¥1,000
30個 ¥2,900
50個 ¥4,600
100個 ¥8,800

アルバムコレクション
1個 ¥160
6個 ¥650
10個 ¥1,000
30個 ¥2,900
53個 ¥4,900
110個 ¥10,000

開いたフォルダは、自動でアプリ内にダウンロード・保存される。一度ダウンロードされれば、そこから繰り返し見ることが可能だ。

普通の写真や動画を共有するだけであれば、他のクラウドサービスや共有サイトのように、アップロード容量に応じた利用料を求めればいい。

にもかかわらず、写真や動画が入った個別のフォルダごとに有料の鍵を購入させている。アプリの運営者たちは、このアプリで性的なコンテンツがやりとりされるのを、初めから意図しているのである。

実際、App Storeの説明ページには目立たないところには注記があり、「軽度な成人向けまたはわいせつなテーマ」「過激な性的表現またはヌード」などと書かれている。

●「刑事罰の天誅を」
表の看板とは裏腹なアプリの実態に、警鐘を鳴らす利用者もいる。

例えば動画シェアのApp Storeのレビューには、2022年9月5日付けでこんな書き込みがある。

タイトル:好奇心で後悔しないように
「アプリを介して、児童ポルノを始めとした違法ポルノが共有されています。一時的な好奇心でダウンロードしてしまい、後日心配になってネットの相談事例を漁るのは大変残念なことです。アプリを利用している、またはこれから利用しようと考えている方、今まで通りの生活を送りたいなら直ちに退会すべきです。警察のお世話にならなくても、常に気にかけて生活を送らなければなりません。リスク回避の観点からもおすすめしません」

2022年6月1日付けの書き込みも、犯罪性を指摘する。

タイトル:このアプリは
「犯罪です。Twitter等でこのアプリ名を検索すると無数の児ポなどをアップロードしたファイル名が認知できます。運営には早急に児ポや犯罪動画などを投稿しているユーザーに対し刑事罰などの天誅を与えてください」

動画シェアでは書き込まれている10件のレビューのうち、6件は違法なポルノが掲載されていることを指摘する内容だった。

アルバムコレクションにも、問題のある動画をやりとりしていることを伺わせるレビューがある。書き込まれたのは、スマホアプリを紹介する別のサイト。日付は不明だ。

タイトル:最低
「ロリコンばっかりです」

タイトル:児童ポルノの巣窟
「ほんと捕まって欲しい」

●Tansaの質問から8日後にGoogleは

犯罪の温床となるアプリに加担しているGoogleとAppleは、その責任をどう考えているのか。私は9月5日、両社の日本法人社長宛に質問状を送った。

その8日後の9月13日、Google広報部の「加藤」氏から「質問を確認しているため、返答を週末まで待ってほしい」とメールで返信があった。

同日、Googleは動画シェアをアプリストアから取り下げた。一方、ウェブサイト版は、Googleの検索サイト上に残っている。

だがその後、加藤氏からは回答がない。9月20日の催促にも返信がなかった。Appleにも9月15日に催促した。

11月3日、両社に対しさらに追加の質問を送ったが、回答はない。

11月21日時点で、両社は私の質問を完全に無視している。

=つづく
※この記事の内容は、2022年11月21日時点のものです。

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公式ウェブサイト:https://tansajp.org/

●シリーズ「誰が私を拡散したのか」: https://tansajp.org/investigativejournal_category/kakusan/

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