医療ガバナンス学会 (2022年12月23日 06:00)
の原稿はAERA dot.(12月14日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2022121300056.html?page=1
ナビタスクリニック(立川)内科医
山本佳奈
2022年12月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
そこまで症状はひどくなく、悪化することもなく一週間が経過。スッキリと良くならなかったため「おかしい……」と思った私は、自宅に確保してあった抗原検査でインフルエンザとコロナの罹患の有無を確認することにしました。コロナワクチンの3回目までの追加接種を済ませていたこと、発熱外来をこなすもこれまでコロナに罹患しなかったことから、コロナを疑ってはいませんでした。
検査の結果は「コロナ陽性」。陽性の結果を受け、一瞬頭が真っ白になりました。けれども、一連の症状がコロナによるものであったことが分かってからは、対処法が明確になり不安は軽減しました。改善するまで休養をとることに専念しました。幸い、倦怠感や悪寒はそれから数日でなくなり、痰が絡む症状だけは2週間ほど続いたものの、重症化せずに症状は改善し、幸いコロナ罹患後に続く症状もなく過ごすことができています。
発熱外来を含む内科外来には、コロナに罹患した後に続く症状を主訴に受診される患者さんが少なくありません。ドイツのウルム大学のPeter氏 らが、コロナ感染から半年~1年が経過する50,457人に案内を出して回答した12,053人を対象に行った調査によると、体調や労働能力を損ねる上で最も影響しているのは疲労や認識機能障害であり、日常生活を少なくとも中程度に害する新たな症状をもたらし、体調や労働能力を2割以上損なわせている長患い(post-covid syndrome)を対象者の29%が被っていることがわかりました。また、回答がなかった人全員が仮に完全に回復していたとした場合、長患いを認めている人の割合は少なくとも6.5%と推定されましたといいます。
グラスゴー大学のClaire氏らも、スコットランドにおけるコロナ感染者33,281人とそうでない62,957人を最長18カ月間追跡調査した結果、コロナ感染者31,486人のうち1,856人 (6%) は感染から18カ月経過した時点(most recent follow-up)で全く回復しておらず、半数近い13,350人 (42%) は部分的に回復したものの完全回復には至っていなかったことを報告しています。
コロナの罹患はどうやら健康上の悩みをもたらすだけではないようです。コロナ罹患後の長期症状に悩んでいるほとんどの人が社会からの偏見にも苛まれていることが、英国のサウサンプトン大学とサセックス大学の研究チームによるオンライン調査により浮き彫りになったことが報告されています。その報告によると、実際の偏見(Enacted stigma: 体調不良のせいで不当に扱われること)、内なる偏見(internalised stigma: 自身の体調不良を恥じたり、気にすること)、予期された偏見(anticipated stigma: 体調不良のせいで不利になると予想すること)の3種類の偏見に関する英国在住の966人の情報が解析された結果、95.4%が上記の偏見のうち少なくとも1つを「時々」経験し、75.9%が「しばしば」または「常に」経験していたことがわかりました。
また、62.7%は蔑ろにされたり付き合いを絶たれるなどの実際の偏見が少なくとも時々あり、90.8%はこうした実際の偏見を予期することが少なくとも時々あったと報告し、86.4%は体調不良を恥じたり、役立たずと感じたり、長期症状のない人とは異なっていると思い込むなど、コロナ罹患後の長期症状に関連する内なる偏見に少なくとも時々苛まれていたこともわかりました。
さらに、5人に3人(60.9%)はコロナ罹患後の長期症状に悩んでいることを打ち明けることに少なくとも時々は細心の注意を払っており、3人に1人(33.7%)はlong COVIDを打ち明けたことを後悔したことが少なくとも時々あったこともわかりました。
外来現場でも、こうした偏見に関する訴えを耳にすることがしばしばあります。「コロナになった後、咳だけが続いている。周囲から冷たい目で見られるから、なんとかして咳を止めたい……」「コロナになってから数カ月も咳が続いている。コロナが治っていないのではないかと上司や職場の同僚に疑われています……」などがその一例でしょう。
私自身、コロナに罹患した際「コロナ陽性であることを誰に伝えるべきなのか」悩みました。今から思えば、自分がコロナになったことで今後被るであろう偏見を少なからず意識していたような気がしています。