医療ガバナンス学会 (2022年12月26日 06:00)
帝京大学大学院公衆衛生学研究科
高橋謙造
2022年12月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
先週、今週と2回の診療に入った印象として、小児の発熱患者さんは増加傾向にあるようだが、「新型コロナが増えているせいだ。」と単純化できる問題ではない。今週の外来たった半日間で経験した事例を共有する。
1.父母が発熱、子どもも後に発熱
2日前(水曜日)から父が発熱、その後木曜日に母が発熱しダウンしたため、金曜日になって子ども2人を連れて父が受診してきた。子どもは二人とも4歳以下。保育園に二人とも通っているとのことであったが、特に感染症の流行は聞いていないという。父母は、コロナワクチン未接種とのことで、新型コロナ(以下、コロナと略す)の家族内感染を疑った。しかし、コロナ、インフルエンザの同時抗原検査キットの検査結果は、コロナ陰性、インフルエンザA型が陽性であった。検査結果が出た後に、父から「私、実はコロナの抗原検査で陰性だったから安心していたんですが、私もインフルエンザでしょうか?」との相談があった。同様に、家族内感染が疑われたが、検査の結果インフルエンザであった事例が他にも2例あった。印象としてではあるが、インフルエンザ感染は、コロナ感染よりも親の体調がずっと悪そうな印象がある。
2.自宅でコロナ抗原検査陰性であった発熱患児
金曜日の昼食後に38度の発熱あり、学校から帰された小学生の児が受診してきた。父母ともに仕事の関係で、コロナ陰性を確認したいため、自宅で抗原検査を行ったが陰性(発熱後1時間程度で)。なおも解熱傾向がみられないため、夕方に当院を受診してきた。発熱以外は、昨日からの鼻汁、咳が軽度とのことで本人もケロッとしている。学校では、よくわからないが、上の学年は学級閉鎖に近い状況とのことであった。同時抗原検査キットで検査するとコロナ陽性であった。抗原検査は比較的早めの時期から判定できるとはいえ、あまりに早期では偽陰性がでる可能性があることが確認できた事例である。また、綿棒を鼻腔に挿入する深さにも左右されるのかもしれない。本事例では、「鼻の入り口をチョイチョイと拭っただけ」とのことであった。
1,2の事例から言えることは、臨床症状や周辺の感染情報等から、診断を特定するのは難しいということである。状況は更に複雑になるのは、3の事例があるからである。
3.他院で複数回の同時抗原陰性であった児
3日前から発熱し、即日他院を受診。同時抗原キットで検査し、コロナ、インフルエンザとも陰性であった児が、その後も解熱しないため、当日に同院を再受診して同検査を繰り返し、やはり陰性であった3歳女児が受診してきた。同居者に高齢者がいるとのことで、発熱が続くのは心配であるとのことであった。咽頭所見を確認したが溶連菌は疑いにくい。湿った咳が出ているとの訴えがあったため、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)の検査を行ったところ見事に陽性であった。保護者に、hMPVの発熱は、平均して5日程度続く可能性があること、咳はひどくなるが、肺炎になる可能性は14−15%程度であること、高齢者でも感染する可能性はあることなどを伝えた。保護者は、「とりあえず、コロナやインフルエンザで無いことで安心した。」とのことであった。
これが診療現場のリアリティである。「発熱があって、コロナ抗原検査が陰性なら、インフルエンザを考えて。」などという規制文書を大臣などがまことしやかに読み上げているが、現場では優等生的な公式は当てはまらない。現場を知ろうともしない大臣や官僚たちが妄想するようなお花畑は存在しない。感染症は、コロナ、インフルエンザだけではないのだ。
ここで、現実に即した対策を3つ提言したい。
1.同時抗原検査キットの配布
自治体によっては、これまでコロナ抗原検査キットを配布、あるいは安価に販売していたようである。夏場であればこれは十分な措置であった。しかし、現在の状況では、コロナ、インフルエンザの同時抗原検査が必要になる。自治体が先進的に同時抗原検査キットの配布、販売等を開始してはどうか?
2.感染症サーベイランス定点調査の強化と情報公開の工夫
臨床家のネットワークでの情報交換として最も有効であるのは、たとえば、「若い人で38℃超える人は、7割コロナ、2割くらいがインフルA」といった情報である。残念ながら、現在のサーベイランス結果は、疾病別の数が報告されている。これでは、現実の診療に役立たない。ごく一部の「選良」の研究のために活用するのがサーベイランスデータなのであれば仕方がないが、実臨床に役立てるためであれば情報公開の仕方に工夫が必要だ。保健所の所管業務になるかもしれないが、定点施設ごと、あるいは地域ごとの感染症の全体像を示すことをお願いしたい。
3.電話、オンライン診療の拡大
2.の抗原検査とセットで考えるべきなのが、電話診療、オンライン診療の強化である。オンライン診療の決済システムのメジャーなプラットフォームではクレジットカード登録が必須となっている。高齢者や低所得層などでは、クレジットカードを活用できていないのが現状である。幅広い決済システムも採用すべきである。これは、オンライン診療プラットフォームを提供している企業の責任だ。
国民を守るのが大臣や政治家の使命であるなら、悪いことは言わない。三日三晩診療の現場に詰めて、実際に診療にやってくる患者さん方の様子を見てから対策を考えてはどうか?現場が待ったなしであることが、実感出来るはずだ。本気で取り組むつもりなら、「地元」に戻っている暇などない。