医療ガバナンス学会 (2023年1月12日 06:00)
北海道大学医学部
金田侑大
2023年1月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
Happy New Year!!!!!
私は2023年をロンドンで迎えました。トラファルガー広場に集まった何千もの人々が、誰一人マスクを着けず、大声で叫び、酒を飲み交わしながら花火を打ち上げ、新しい一年の到来を祝う光景に、 “アフターコロナ”を感じました。
北海道大学医学部4年の金田侑大です。私は2021年9月から2022年の6月まで、英国エディンバラ大学で学ばせていただいておりました。今回のイギリス訪問は約半年ぶりのことでしたが、まず最初に感じたのが、あらゆる物が高くなってるな、ということでした。
私が留学していた際、お昼ごはんにはTescoというスーパーの”meal deal”をよく食べていました。このmeal dealの文字は、イギリスのスーパーやドラッグストアでよく目にします。メイン(サンドイッチやパスタ)+ドリンク+スナック(フルーツやチップス)の3点がセットになって、バラバラに買うよりも大幅に安く購入できる、というサービスです。野菜の入ったサンドイッチとレッドブル、そしておやつのキットカットというのが、私のお気に入りのセットでした。2021年9月に、私が留学をはじめたタイミングでは、このmeal dealは£3(約480円)で購入できました。特に、レッドブルはサイズを気にせずmeal dealとして購入できたため、一番大きいサイズ(473mL)だと、本来はそれだけで£2.75するのですが、それでもメインとスナックをつけて合計£3になるので、大変お得感がありました。
そんなmeal dealですが、私の留学中に、いつしか£3.5になっていました。そして今回、私がイギリスに戻ってみると、いよいよ£3.9に。わずか一年半足らずで、£1ぐらいの値上げです。
実は、イギリスの昨年のインフレ率は、前年比約11%増と、1982年以来、過去40年で最高を記録しています。特に、このインフレは食品や非アルコール飲料によって後押しされ、7月には対前年同月日で、パンは12.4%、乳製品は19.4%、油類は23.4%それぞれ値上げを記録しました。コロナにより経済が痛手を受けた中で、小麦やひまわり油の主要輸出国であるロシア・ウクライナ両国の戦争が長引き、供給がストップしてしまったため、仕方ないと思ってしまう部分もありますが、昨今の円安の状況を鑑みると、生活に直結するだけに、留学生にとってこれらは大きな打撃です。実際、6個入りの卵は£1→£3に、コーラは1.75Lから1.5L入りにボトルが小さくなった上で、£1.79→£1.99に、スニッカーズも値下げこそしてないものの、1袋62.5gから58gと、7%ほどサイズダウンしています。
そして、食料だけならまだしも、光熱費から交通費まで、ありとあらゆるものが値上がりしているのが、イギリスの現状です。昨年3月より、ロンドン中心地のZone 1の電車運賃は£2.50と、2016年以来、初めて10p値上げされ、その他の区間でも10pから30p値上げとなりました。また、深刻なエネルギー不足により、昨年10月から家庭での電気・ガスの料金の上限は80%値上げされています。
このような背景から、イギリスでの現在の生活は、我慢が求められています。例えば、留学生が予め大学の寮に支払う金額は決まっていますが、これでは光熱費の上昇を賄えず、セントラルヒーティングの温度は、以前よりも低めに設定されています。他にも、エディンバラでの新年のメインイベントである“ホグマニーのたいまつ行列”と呼ばれる式典ですが、コロナでここ2年中止されていたため、今年こそ再開されるかと思いきや、お金がない、という理由で今年も中止となってしまいました。
そうなってくると、国民の不満もたまってくるもので、イギリスでは現在、ストライキが2019年と比較して約4倍以上の規模に増えており、何万人もの労働者が支援を求めていています。郵便や電車の職員、大学教員だけでなく、救急車の隊員や看護師もストライキを決行しているというのだから驚きです。今月には、イギリス医師会の若手医師たちが、昇給2%の給与交渉をめぐりストを実施するかの投票が行われる予定まであるそうです。他にも、入国管理の職員たちがストライキしてしまったことで国境警備が機能しなくなり、代わりに軍隊の人々がパスポートチェックに駆り出されました。軍人にそのような権限があるのかどうか曖昧なため、この入国審査はほとんどザルのようなものだったと思われます。
ストライキを行うことは、イギリス国民は当然の権利と考えており、半数以上が支持していると最新の世論調査は報告しています。しかし、我々日本人には馴染みがないため、思い通りにいかないスケジュール調整に、留学生の多くが苦戦を強いられると思われます。私も留学中、エディンバラからロンドンまで電車で行こうとした際に、”We go on strike today! Have a nice day!” と改札口に立てられた看板を見て、”何がhave a nice dayなんだ?”、と歯痒い思いをした覚えがあります。
とはいえ、幸いなことに、文部科学省やJassoなどが行っている留学関連のサポートは徐々に再開されつつあり、出願すること自体のハードルは下がりつつあるのかな、という印象です。ぜひぜひ、これから海外にチャレンジしていく学生が増えていくことを望みます。
末筆ですが、2023年が皆様にとって、実り多き年になりますように。今年もよろしくお願いいたします。
【金田侑大 略歴】
北海道大学医学部医学科4年生(2回目)。ドイツ人の父と、日本人の母の元に産まれる。コロナ禍でエディンバラ大学に留学し、国際保健などの分野を学んだ。今回のイギリス滞在前におせち料理だけは満喫しようと、12月に北海道産の数の子をたらふくいただきましたが、まだ、パパになる予定はございません。