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Vol.23014 中国ゼロコロナ政策はなんだったのか? 女医が友人を通じて知る現状に思ったこととは

医療ガバナンス学会 (2023年1月23日 06:00)


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この原稿はAERA dot. (2023年1月11日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2023011000023.html

内科医
山本佳奈

2023年1月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

新型コロナウイルス感染症の第1例目の感染者が中国の武漢市で報告されてから、3年が経過しました。その間に、コロナ感染がもたらす様々な症状や変異株ごとに異なる重症度や感染力、感染に伴う長期的な影響など様々なことが報告され、新型コロナウイルス感染症の実態が次第に明らかとなってきました。同時に、コロナ感染症に対する治療薬やワクチンの開発も急速に進み、共存していくフェーズへと世界が動いたことは間違いありません。

中国では新型コロナウイルスを徹底的に抑え込むことを目的に実施されていた「ゼロコロナ政策」が今年(2023年)1月7日に正式に終了となりました。それに伴い、市封鎖や隔離を中心とした強制措置が撤廃されたほか、海外から中国に入国する際に義務付けられていた検査や隔離措置も撤廃となりました。また、市内に設けられていたPCR検査所の多くが撤廃されたことも報じられています。

厳しい行動制限が求められることで知られていた中国の「ゼロコロナ政策」。厳しい入国制限が少し緩和されたことと、2年以上帰国できていなっかったこともあり、昨年の秋頃から中国に一時帰国している友人がいます。その彼女と昨年の11月末に連絡をとったときのことでした。「帰国してから、毎日PCR 検査をしている。もう慣れっこよ」と話す彼女に、「毎日コロナ検査していて、大変ではないの?」と聞くと、「検査をしてコロナ陰性の人が外に出ているから、逆に安心だと思っている人が多いのよ」という返事が返ってきたのです。

そんな生活が一変したのが、昨年の12月初旬に中国での「ゼロコロナ」政策の大幅緩和が発表された時だったと彼女は言います。この大幅緩和の報道を見るや否や「やっと制限が緩和されてよかったね」と連絡を入れた私に対し、彼女から返ってきたのは「逆に街にコロナ陰性かどうかわからない人が出ているから、不安になっている人が多いのよ」という私にとっては予想外の返事でした。

そして「ゼロコロナ」政策の大幅緩和が発表されてから2週間が経過したクリスマスのころだったと思います。定期的に連絡を取り合っていた彼女と急に連絡が取れなくなってしまったのです。ゼロコロナ政策が大幅に緩和されたことで感染が急拡大しているという報道を連日のように目にしていたこともあり、「もしかして……」と思っていたら、その不安は見事的中。「同居している父がコロナに感染し、40度を超える熱が出て、救急車で搬送されました。その後、母と自分も39度を超える熱が出ました。私は数日で熱が下がって回復傾向にあるけれど、父と母は二人とも肺炎になってしまった。両親は入院できないので毎日病院に通っています」と数日後の夜中に急に連絡がきたのでした。

その連絡から数日後には「彼女も彼女の両親も幸い回復傾向にある」と追加の報告があったため、安堵していた矢先のことでした。「祖父がコロナに感染し、亡くなってしまった」とひと言、連絡がありました。短期間で彼女を襲った一連の出来事に心を傷めずにはいられませんでした。

ちょうど同じころ、中国に帰国中の別の友人からは「とにかく風邪薬が欲しい、全く手に入らない……」と言うメッセージが届きました。彼の知り合いがコロナに感染し、病院に行くも診てもらえないし、薬も処方してもらえない状況だったようです。「多くの人が困っている」と混乱している様子が伝わってきました。

私自身、昨年の10月末にコロナに罹患しました。体調が完全に回復したと感じるまでには、発症から1カ月もかかりました。先述した彼女もまだコロナの感染から完全に復帰しておらず、咳だけがしつこく残っているといいます。そんな中で「両親の通院のサポートや葬儀の準備に加えて、リモートでの仕事も休めない状況はとても大変」という彼女をとても気の毒に感じていましたが、遠くにいる私は何も助けることができず医学的なアドバイスをするのみでした。

「ようやく両親も私も落ち着きはじめました」と新年のあいさつと共に電話をくれたときは、まるで自分のことのようにホッとしたことを覚えています。

コロナパンデミックが起きたことによって私が痛感したことの一つが、近いようでとても遠いことを痛感させられた諸外国との距離です。コロナ流行以降、中国への帰国が難しくなり親にも会えず、いつ帰国できるか見当すらつかない状況で2年以上過ごしていた親想いの彼女を間近でみていて、それはとても気の毒でした。

本来なら飛行機に乗りさえすれば数時間で会うことが可能な両親に、元気であっても会うことができなくなっただけでなく、日本にいても感染対策により人と会う機会が極端に減ってしまったことも相まってだったと思います。彼女は精神的に次第に追い詰められていき、食欲は減退し、みるみるうちに笑顔はなくなりやせていきました。

中国での入国時の隔離期間が短くなり、一時的にリモートでの勤務も許可されたことから「帰国のための飛行機のチケットをやっと購入できました」と彼女から報告が来た時の彼女の嬉しそうな様子は、今でも印象に残っています。

日本では、今年の春には新型コロナウイルス感染症の扱いを現在の「新型インフルエンザ等感染症(2類相当)」から、季節性インフルエンザと同等の「5類」に引き下げる検討に入ったことが昨年末に報じられています。今年は中国だけでなく、日本もコロナ対策やコロナとつきあっていく生活様式に関して大きな転換期を迎えそうです。

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