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Vol.23015 ボタンを掛け違えたまま押し進めてきたコロナ対策、根底に潜む本質的な見当違い

医療ガバナンス学会 (2023年1月24日 06:00)


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わだ内科クリニック
和田眞紀夫

2023年1月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

3年間、コロナ対策を牛耳ってきた専門家と呼ばれている人達(あるいは厚労省)の最も大きな失策は、患者さんの命を救うような具体的な対策をほとんど何も実施せず、高齢者が亡くなっていくのを諦観してきた事です。

第二の失策は、きちんとした現状分析を全くしないという、「不作為の罪」に相当するものです。分析すべき莫大なデータを集めておきながら解析を行わずに放置し、稚拙ながら実施したわずかながらの分析結果でさえ、きちんと公表して説明する事をしなかった事です。
(これはひょっとすると、具体的かつ有効なコロナ対策を怠ってきた事を隠蔽するためにわざとそうしているのではないかとさえ思えてしまいます。そうでないとしたら、単にそれらの事をきちんとまとめあげる資質がなかっただけなのでしょうか。)

例えばわかりやすく簡素化していうと、「ああして下さい、こうして下さい」と国民に指示を出すことはしたとして、それだけでは何ら具体的なことはしたことにはなりません。これまで国民に無理強いしてきた指示(おそらく官僚が作成したと思われるもの)の内容というのは、実に微に入り細に入る膨大なものであり、そして時には過酷なものでした。繰り返しますがそれではその指示を出してきた張本人は具体的には一体何をしてきたのでしょうか。

配下の保健所の職員には患者さんの援助という名のもとに聞き取り調査を行なわせ、医療機関には報告義務を課して膨大な情報収集を行いました。しかし、保健所の職員は患者さんの話は聞くことができても実際の医療行為を施すことはできません。また、逼迫するとされる医療機関に対しては過剰なまでの補助金をばらまきました。

しかし、この時点でもお金と口は出しても、具体的な対策は皆無です。国民を誘導することが彼らができる唯一最大のコロナ対策だったということではないでしょうか。

コロナ禍において第一に掲げなければいけない目標は、「感染の拡大を防止すること」(これは公衆衛生を生業としてきた専門家組織の唯一無二の目標です)ではなくて、「コロナで亡くなる人を一人でも少なくすること」であってこれこそが最も大切な究極の目標です。「感染の拡大を防止すること」はその一手段にすぎません。ただそれだけでは国民の命を守る具体的対策にはなっていません(このことがコロナ禍における最大の失策です)。

残念なことにこの冬のコロナ第8波に至っても1日に500人以上の方が亡くなるような悲劇が繰り返されました。亡くなる人を一人でも少なくすためには、「いったいどのような状況に置かれた方がどのような形で命を落としているのか」、そのことを詳らかにして少なくとも医療現場で奮闘している現場のスタッフに情報提供することが重要で、このような情報なくして暗中模索に現場で努力を重ねていても状況が改善されないのは明らかです。筆者が日々実践している発熱外来では幸いにも軽症者がほとんどを占めていることもあって、日々発表される1日の死者数のあまりに多いことに驚かされます。これだけの数の方がいったいどこでどういう形で命を落としているのかが全くわからないのですが、そのような必要な情報が現場には全く伝えられてきません。これでは重症患者さんと向き合っている最先端の現場などでも、対策の取りようがなくてなすすべがない状況に置かれているものと想像されます。ではなぜ大切な情報が伝わってこないのかというと、解析自体が行われていない可能性が高いし、そもそも現状を把握して改善策を模索しようとする姿勢がないのかもしれません。

人一人の命は尊いものであることには異論がないと思われます。どこの国であっても諸外国で自国民が囚われの身になったとき、それがたった一人であっても全力を挙げてその自国民を救い出す努力をすると思います。それがコロナ禍の病死となると何故これほどまでに人の命が軽視されてしまうのでしょうか。「全体の感染者数から見た死亡率は諸後外国に比べて低く抑えられている」という解釈(その先は決して口には出されないけれども)、その続きは、だからある程度の死亡はやむを得ない、仕方のないことだと見做されていて、高齢者が見捨てられている状況だと思います。大切なことはひとりひとりそれぞれ一つの命であって、死亡率でも諸外国と比べたときの数の多い少ないではないのです。努力して助けられる命があるならば最善を尽くさなければなりません。

ある程度の犠牲には眼をつぶるというような考え方をしてしまう根底にあるものは、あくまでコロナ禍を公衆衛生的な観点からしか眺められないことであり、特にその傾向が強いのは実際の医療現場を知らない専門家集団(公衆衛生や経済の視点から物事を判断する人たち)や政策を立案する為政者や官僚たちです。このような人たちだけにコロナ行政を預けたことが最初のボタンの掛け違いだったと思います(それを回避できたのは唯一行政のトップだけでしょうか)。

しかしながら肝心の政治家を見渡しても、自分できちんとコロナのことを勉強している政治家はほとんど見受けられません(筆者の知る限りにおいては、石破さんなどはコロナの現状をよく勉強されていますし、コロナに関して見識のある政治家も少数ながらおられます)。この3年間の政府の方針も初めは専門家任せで、それがうまくいかなくなってくると、今度は専門家集団すら切り捨てて、今ではもはやコロナ対策は皆無のまま放置されている状態です。きちんとしたブレーンがいれば、政治家の不作為をなんとかカバーもできたのでしょうが、周りにきちんとした助言ができる優秀な人がいない事が悲劇でした。この3年間、周りからはせっかくいろいろな貴重な助言がなされたのに、在野の意見には全く耳を傾けなかったのも残念です。

コロナ禍のような全国民を巻き込むような禍においては危機管理の専門家の介入が絶対必要ですが、残念ながらこのようなエキスパートが政策立案に参画された痕跡はみられませんでした。国民への情報伝達の上で報道機関の果たす役割は非常に大きいものがありますが、現況の報道機関、特にテレビの報道を組み立てている人達には、専門家と言われる人の話を横流しするだけではなくて、時間をかけて問題点を掘り下げて質の高い報道番組を作ってほしいものです。

コロナの第8波も年明けの第2週目ごろからようやく収束に向かっていますし、インフルエンザAの流行も大きな感染拡大にはならずに収束に向かいそうです(インフルエンザBの流行が起きなければこのまま消退する可能性もあります)。

医療の分野、そしてそれ以外の自然科学、あるいは人文科学の研究分野、政治、経済、さらには文化の世界においても、残念ながら、日本のあらゆる分野で劣化が進んでいるようです。コロナ禍を経験した後の長期的な展望として、子供達の世代の日本が豊かさを取り戻すためには、底辺の教育、人材の育成から地道に始めて、優れた人材が出てくるのを待たねばならない気がします。優秀な人材がさまざまな分野で、適材適所で能力を発揮できる社会にしていかなくてはいけないと痛感しています。

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