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Vol.23026 放置され続けるコロナ対策、何の準備もせず、ただ5類に移行してもダメでしょう。

医療ガバナンス学会 (2023年2月10日 06:00)


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わだ内科クリニック
和田眞紀夫

2023年2月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

コロナの流行は昨年の第7波、今年の第8波と相変わらず続いているけれど、多くの人はコロナとの向き合い方にも慣れてきて、仕事にしてもプライベートにしても平常状態に戻れるようになってきたことは喜ばしいことだ。しかし、コロナを担当する為政者まで一緒になって気を緩めて、分類を5類に落とすだけで「一件落着」として何もしないつもりなら、それは大きな誤りであり怠慢だ。どうも今の政権になってからというもの、コロナ対策などはそっちのけで終わったこととして何も考えていない印象が強い。きちんと整理しておかなければいけない問題は山積みなのに何の進展もないまま放置されていて、これからもワクチンを打ったほうがいいのか、特効薬は飲んだほうがいいのかということもきちんと説明してくれない(というか説明する責任があるのが誰なのかさえ国民にはわからないし、おそらく総理をはじめ誰もがそれは自分ではないとお考えなのだろう。)

ワクチンに関して言えば、実は2価のワクチンに移行してからは接種者側のワクチンの扱いに関してはだいぶ楽になってきている。生食で希釈せずにバイアルから注射器に移して直接使うことができるようになったし、冷凍保存の必要もなく、通常の冷蔵保存で10週間置いておけるようになってとても扱いやすい。しかしながらそれにも関わらず、「1バイアルに6人分が補填」されたままであることが大きなネックとなっているのだ(通常のワクチンは1バイアルは1人分でその都度使い捨てだし、インフルエンザのワクチンでさえ1バイアル1人もしくは2人分となっている)。接種希望者が少なくなってきている状況で毎回6人集めるのは至難の業で(たぶんこの問題は海外でも変更を求められているはずだが)、10週間待っても6人が集まらずにとうとう期限切れとなってしまった経験もある。

今でも散発的にワクチン接種希望者がいらっしゃるのだが、さすがに6人分のバイアルを1人のために開けて5人分を廃棄するわけにはいかないので、当院での接種はお断りして集団接種会場へ出向いていただくようにお願いしている。そのために中には接種をあきらめてしまう方もおられて、このような状況が放置されていることが、診療所での個別接種の激減、さらには国民全体の接種率の低下(5回目の接種に至っては接種率が20-30%という現状)の原因のひとつになっていると思われる。またワクチンの入手はいまだに行政からの配給制になっており(インフルエンザやほかのワクチンはすべて医療問屋さんにオーダーすれば遅くとも翌日には届く)今のような行政管理だと注文から配送されるまでに週単位で待たなければならない。これが卸さん経由で1日で届いたらどんなに楽か、現場では人知れずこのような根詰まりな状況のなかで苦労しているのだ。

それではなぜコロナワクチンがいつまで経っても行政の堅苦しいばかりで使い勝手の悪い管理下から外れずに配給制になっているのかというと、「ワクチンの所有権は国にある」という説明がなされていて(所有権というけれども財源は国民が払った税金のはずだ)、厚労省がその権利を譲ろうとしないことにある。もちろん「特例承認でまだ確実な副作用がはっきりしていないから」ともっともらしい理由付けをするかもしれないが、国の直接の管理下に置くことでより適正な使用状況が作れるかと言ったらそれは甚だ疑わしい(どれだけ医療現場を信頼していないのかという話)。流通経路を替えたところで実際にワクチンを接種するのは同じ医療現場なのだから何も変わりない。霞が関のビルの中にいて書面で縛り付けたところで実質的には何も変わらない。「国が全額を負担するから」というのも理由にならない。金銭的に助成するにはほかにいくらだって方法はある。感染症法に頼らなければできないものでもないし、行政トップの決断でどうにもなる(決断すべき人が決断しないだけだ)。少しでも多くの(ワクチン接種を希望する)国民にスムーズにワクチンを供給するという原則を優先して柔軟な対応を採るべきだし、コロナワクチンの接種が集団接種と(診療所等の)個別接種のどちらで実施すべきかも接種率に大きな影響をもたらす大切な問題だから、流通経路、助成金の拠出方法と併せて5類移行前に十分検討しておかなければいけない課題だ。

次にコロナの特効薬についても現状をお話しておきたい。ここでは診療所で扱う経口薬に話を絞るが、最初に使用可能となったMSD社のラゲブリオという薬についてお話ししたい。この薬も当初はワクチン同様国の厳しい管理体制の下でしか使用が認められなかったが(そのことがこの薬の速やかな普及を遅らせた原因だが)、今ではやっと処方箋で薬局から出せるようになった(一般流通)。ところがこの薬の仕入れ値があまりにも高価なため、問屋さんから薬を仕入れる薬局側が「期限切れで廃棄」となることを恐れて多くの在庫を置いてくれない状況がある。薬局によっては医療機関から処方箋が届いてから仕入れるとしているところもあるが、それはまだいい方で、鼻から扱わないと決めた薬局もある(薬局もボランティアではないので経営事情を考えたらやむを得ないことではある)。わずかに置いてくれている薬局の在庫もすぐに無くなってしまう状況で、そのためにこの薬を処方してあげられなかった高齢者も少なからずいる。せっかくいい薬がありながら、なんということだろう。ラゲブリオの他にも2剤(ファイザー社のパキロビッドパック、塩野義製薬のゾコーバ)あるが、「安定的な供給が難しい」という理由でいまだに一般流通の扱いになってはおらず、行政の管理下におかれたままで、医療機関、薬局ともに登録後の認可が必要であり、多くの承諾や書類の提出が求められていて、その事がネックになって薬が流通していない(当院でもまだこれら2つの薬は出せていない)。
何をやっているのか、本当に必要な患者さんに薬を速やかに届ける気持ちがあるのだろうかと疑ってしまう状況だ。コロナ禍のような緊急対応が必要な状況では形ばかり整えていないで(これこそが官僚のやり方だが)これからは有事の際に柔軟な対応をとれるような組織づくりをしていくことが重要だろう。

そもそも患者さんの立場では、ワクチンは打ち続けたほうがいいのか、コロナに罹ったら特効薬を飲んだほうがいいのか、答えが見つけられずにみんな困惑している。こういうときこそ、行政がきちんと細かい情報を提供して納得したうえで自分自身の選択ができるように手助けすべきだろう。それが行政の責任だし、マスコミもしっかりとそのお手伝いをして欲しい。少なくともワクチンと特効薬をどうするかを決めずに5類にしても混乱は必至だろう。多くの国民は「もうワクチンなんか打たなくてもいい」と思っているし、「コロナに罹患してもわけのわからない特効薬なんて飲まなくてもいい」と思っているに違いない。それがその通りであるにせよないにせよ、「きちんと説明を受けた上で」一人一人が主体性をもって判断すべきことではないだろうか。

 

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