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Vol.23035 厚労省令「オンライン資格確認義務化」は違憲・違法 ~国を相手に274人の原告団による「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」一次訴訟を提訴。二次訴訟で目標2500人~

医療ガバナンス学会 (2023年2月22日 15:30)


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佐藤一樹

2023年2月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

はじめに
日本の法体系では、国会で成立した法律による特別の委任がなければ、行政庁(各省大臣)は国民の権利を制限する省令を定めることはできません(国家行政組織法12条1項・3項(*1)参照)。
ところが、現在、健康保険法の委任がないのに、療養担当規則(3条2項・4項(*2))という厚生労働省の省令で、「オンライン資格確認義務化」が本年4月1日から実施されることになっています。このまま実施されれば、保険医の権利が違憲・違法の省令によって侵害されることになります。
また、この省令を契機に保険医療機関が廃業した場合には、患者は十分な医療サービスを受けられなくなり、「国民の生活の安定と福祉の向上に寄与する」(健康保険法1条)という健康保険法の目的に反することにもなります。
そもそも「オンライン資格確認」という言葉は法律上の用語ではなく、人によってこの言葉の理解が異なるようです。「オンライン資格確認」が、マイナンバーカードの利用を必須としたものではなく、国民が任意に参加できて、信頼性、安全性が高い十分な「オンライン資格確認システム」の意味であれば反対もしません。
他方そのようなシステムの構築をしないまま、違法な省令によって強権的に保険医に対して「義務づけ」をしたことに対しては、断固として反対すべきです。

1.国民皆保険とオンライン資格確認義務化の概要
1958(昭和33年)年に新しい国民健康保険が制定され、1961(昭和36)年に現在の国民皆保険が完成してから、保険医療機関は、健康保険の被保険者証(いわゆる健康保険証)により被保険者の資格確認をしてきました。しかし、2021(令和3)年8月施行の改正健康保険法(*3)3条13項に規定する電子資格確認(マイナンバーカードによるオンライン資格確認。以下「マイナ保険証」)による資格確認が追加されました。それ以降、保険医療機関は、①健康保険証②マイナ保険証のいずれか任意の方法で、被保険者の資格確認を行うことになりました。
ところが、2022(令和4)年9月5日、厚生労働大臣は、国会での民主的な議論を経ないまま、療養担当規則3条を改正し(*4)(改正後療養担当規則3条)、保険医療機関に対して、患者がオンライン資格確認を求めた場合にはその求めに応じることを義務付けるとともに(改正後療養担当規則3条2項)、オンライン資格確認に必要な体制を整備することを義務付けました(同条4項)。何も反対しなければ、この改正後療養担当規則は2023(令和5)年4月1日に施行されます。

2.オンライン資格確認義務化の違法性-健康保険法による委任なし
しかし、改正後療養担当規則3条2項及び4項は、健康保険法70条1項(*5)による委任がないにもかかわらず、保険医療機関に対してオンライン資格確認を行うことを省令で義務付けるものであって、違法であり、無効です。健康保険法70条1項が厚生労働省令(療養担当規則)に委任した内容は、診察等の医療サービスの提供の細目に限られるのであり、患者の資格確認方法については委任の内容に含まれていません。

3.健康保険法、健康保険法施行規則上の資格確認―被保険者側の規定
資格確認については、健康保険法63条3項(*6)に基づく健康保険法施行規則53条(*7)が規定しています。しかし、これは、被保険者側が資格確認のために提出する資料について規定するものであり、保険医療機関に対して資格確認を行うことを義務付けるものではありません。
したがって、同法63条3項の厚生労働省令への委任規定を、保険医療機関に対する資格確認のための委任規定と解釈する余地はありません。

4.無効な規定による保険医師の資格取消・多大な経済的負担・電子データ漏えいリスク負担
このような無効な規定により、保険医療機関は、まだ制度が十分普及していないオンライン資格確認に必要な体制の導入を急遽進めなければ(改正後療養担当規則3条4項参照)、保険医の資格を取り消されるおそれがあり(*8)、導入費用のみならず継続的な保守点検費用を含む多大な経済的負担や電子データ漏えいのリスク負担(マイナポータル利用規則3条参照(*9))を余儀なくされています。
この結果、1割程度の保険医療機関が廃業も検討せざるを得ない状況(*10)となっています。政府はオンライン資格確認の利便性を強調していますが、保険医療機関が廃業した場合には、患者は十分な医療サービスを受けられなくなり、「国民の生活の安定と福祉の向上に寄与する」(健康保険法1条)という健康保険法の目的に反する重大な結果が生じることになるでしょう。

5.提訴の理由
このような重大な結果を招かないよう、私の所属する東京保険医協会や友人らからなる有志は一次訴訟として274人の原告団を結成し、国との間で、オンライン資格確認を行う公法上の義務がないことの確認及び必要な体制を整備する公法上の義務がないことの確認を求めます。
国家賠償法上の責任主体である国に対して原告一人当たり慰謝料100000円の支払いを求めます。

6.代理人弁護士団長は憲法訴訟のスペシャリスト
本件訴訟の代理人は4人の弁護士で、いずれも個人情報保護法に詳しい先生方です。特に、弁護団長の喜田村洋一弁護士は、ニューヨーク州弁護士でもあり、公益社団法人自由人権協会の代表理事で、憲法訴訟ではレペタ訴訟や在外日本人選挙権訴訟での実績がある日本を代表する超一流弁護士です。
その右腕の二関弁護士もニューヨーク州弁護士でもあり、憲法訴訟では喜田村弁護士とともに在外日本人選挙権訴訟の弁護団でした。日弁連情報問題対策委員会委員長や最高裁判所司法研修所教官や第二東京弁護士会情報公開・個人情報保護委員会委員長などを歴任されています。
また、喜田村弁護士の声かけにより選ばれた牧田潤一朗弁護士と小野高広弁護士も個人情報保護法に関する実務経験豊富な弁護士です。

7.二次訴訟への呼びかけ
東京都の保険医は約4万8千人で、全国の保険医、保険歯科医師の合計は約45万人でほぼ9.4倍です。二次訴訟として同志を全国に求めれば、東京の保険医だけで274人となった原告団は単純計算であれば2500人以上に膨らみ大きな訴訟となるでしょう。
原告には保険診療を行う医師・歯科医師であれば誰でも参加することができます。原告団参加者への負担は一切生じません(詳細は「原告団参加に係るQ&A」をご参照ください)。提訴に賛同し、原告団に参加していただける先生は、東京保険医協会のホームページ「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」原告団参加への呼びかけ」https://www.hokeni.org/poster-docs/2023012000019/ から「趣旨説明・申込書」をダウンロードして、申込書にご記入いただき、郵送またはFAXにて協会事務局へお送りください。折り返し、事務局から必要書類をお送りいたします。
なお、必要な諸経費は、東京保険医協会が全て負担します。
また、義務の存在しないことの確認を求める請求については、非財産権上の請求に該当します。これについては、民事訴訟費用等に関する法律4条2項(*11)に従うと、訴訟物の価格は、原告1人につき160万円とみなされます。

おわりに
憲法41条は、「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。」と定めています。ここでいう「立法」とは実質的意味の立法であって、広く直接または間接に国民を拘束し、あるいは国民に負担を課するあらたな法規範「法規」の定立を意味します。また、「唯一」の立法機関であるとは、実質的意味の立法は国会が独占すること及び国会による立法は他の国家機関の参与を必要としないことを意味します。
オンライン資格確認の義務化は、そもそも健康保険法が明示的に委任していない事項を改正後療養担当規則3条2項及び4項が規定している点で憲法41条に違反しているため、違憲・違法なのです。

*1国家行政組織法12条
1項 各省大臣は、主任の行政事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、それぞれその機関の命令として省令を発することができる
3項  省令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない。
*2療養担当規則(保険医療機関及び保険医療養担当規則 昭和32年厚生省令第15号の略。厚生労働省令のうちの1つ。)
3条2項・4項は、2022年9月5日付けで改正され2023年4月施行予定
*3令和元年法律第9号
*4令和4年厚生労働省令第124号
*5健康保険法70条1項
「保険医療機関又は保険薬局は、当該保険医療機関において診療に従事する保険医又は当該保険薬局において調剤に従事する保険薬剤師に、第七十二条**第一項の厚生労働省令で定めるところにより、診療又は調剤に当たらせるほか、厚生労働省令で定めるところにより、療養の給付を担当しなければならない。」
**健康保険法72条1項
「保険医療機関において診療に従事する保険医又は保険薬局において調剤に従事する保険薬剤師は、厚生労働省令で定めるところにより、健康保険の診 療又は調剤に当たらなければならない。」
*6健康保険法63条3項
「第一項の給付を受けようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる病院若しくは診療所又は薬局のうち、自己の選定するものから、電子資格確認その他厚生労働省令で定める方法により、被保険者であることの確認を受け、同項の給付を受けるものとする。
*7健康保険法施行規則(被保険者証の提出)  第53条
1.(健康保険)法第63条第3項 各号に掲げる病院又は診療所から療養の給付又は入院時食事療養費に係る療養、入院時生活療養費に係る療養若しくは保険外併用療養費に係る療養を受けようとする者は、被保険者証を(または高齢受給者証を添えて)当該保険医療機関等に提出しなければならない。ただし、やむを得ない理由があるときは、この限りでない。
*8 2022(令和4)年8月24日に三師会・厚生労働省合同開催の「オンライン資格確認の原則義務化に向けた医療機関・薬局向けオンライン説明会」の中で、厚労省の担当者は、オンライン資格確認の義務化は療担規則に規定されるから、違反すると保険医療機関指定の取消事由となりうるという趣旨の解説をしている
*9 マイナポータル利用規則 第3条  (利用者の責任)
利用者は、自らの責任によりマイナポータルを利用し、マイナポータルが提供する以下のサービスやそれに関連する情報及びアカウントを適切に管理するものとします。一 やりとり履歴 二 わたしの情報 三 お知らせ 四 手続の検索・電子申請 五 その他、利用者が閲覧、取得し管理している電子情報。
*10 全国保険医団体連合会HP 医療機関へのオンライン資格確認義務化
◆「悩んで睡眠不足。診療を続けさせてほしい」(診療所からの手紙)
・・・愛知協会の荻野高敏理事長からは、「協会の会員調査(N=546)では、1割強が義務化されると廃業せざるを得ないと回答している。そのうち60歳代以上が9割を占め、約半数がオンライン請求をしている」https://hodanren.doc-net.or.jp/medical/facialrecognition/
*11 民事訴訟費用等に関する法律 第4条2項
「財産権上の請求でない請求に係る訴えについては、訴訟の目的の価額は、百六十万円とみなす。財産権上の請求に係る訴えで訴訟の目的の価額を算定することが極めて困難なものについても、同様とする。」

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