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Vol.23034 「製薬からの奨学寄付金で贈収賄罪」に対する元製薬企業MRの本音

医療ガバナンス学会 (2023年2月21日 18:52)


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元製薬企業MR
匿名希望

2023年2月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は80年代前半から製薬企業で営業職(いわゆるMR)として勤め上げ、医療と製薬の関係をつぶさに見てきた。昔も今も問題にされるのは、製薬企業のお金の使い方だ。

かつては主に「交際費」との名目の下、医師に対する飲食やゴルフ等の接待が派手に繰り広げられ、しばしば取り沙汰された。最近ではそうした分かりやすい接待こそなくなったが、そのかわり、プロモーションに関わる「講演謝礼」や、大学・研究機関に投入される「奨学寄付金」に形を変えて、医療側にお金は流れ続けている。

近年では製薬協の主導で、各社とも医師への支払いについては広く公開している。中には、そうしたお金を「製薬マネー」と呼んでwebサイト等を調べ上げ、データベース化して公開・研究している奇特な医師たちもいるようだ( https://yenfordocs.jp/ )。簡単に利用できるので、私もそれなりの意図を持って特定の先生を調べさせてもらったり、はたまたふと思いつきで医師名を入力してみたりすることもある。

さて、その製薬マネーデータベースによると、製薬企業が2020年に大学等に支払った奨学寄付金は、総額14,159,935,828円であった。一目見ただけではケタ数もピンと来ないくらいの金額だが、書き換えると140億円超にも上る。今回はその奨学寄付金について考えてみたい。

【 奨学寄付金は“通行料”の1つ 】

奨学寄付金は、医薬営業担当者がまだ「MR」ではなく「プロパー」と呼ばれた頃から、すでにあった制度だ。寄付金という名称だが、実態は交際費そのものである。

製薬会社から大学に対し「●●先生の講座に寄付したいです」と申し込むと、大学側が一部をピンハネした上で、残りがその医師の懐に入る。このお金の特徴は、使い勝手が極めて良いことだ。コンピューターの購入から旅費、人件費まで、何にでも使える。医師としてはうれしいお金に違いない。一方で製薬側としては、MRが差配することが多いお金であり、当然ながら“営業的に”使うことが想定されている。実際、私も現役時代には随分とお世話になった。

奨学寄付金を営業的に使う場合でも、振り出し理由はいくらでもある。例えば、新薬採用のお礼、教授就任のお祝い、処方増量等のお願い・・・・・・等々である。筋の悪い医局では、「ウチの医局で営業活動したいなら、奨学寄付金を入れろ」と言ってくるところもある。さしずめ“通行料”といったところだ。また、製品説明会は有効な営業手法として定着しているが、「それなりの金額を毎年納入していないところには、説明会はご遠慮いただいている」と、直接的・間接的に伝えてくるところもある。

【 小野薬品の“ミス”が示唆すること 】

先日、大きなニュースになった例が、三重大学麻酔科への小野薬品や日本電光からの寄付金問題だ。小野薬品については不整脈の薬「オノアクト」の処方を増やしてもらうべく、また日本電光は医療機器の納入をとりつける手段として、奨学寄付金を使った。だが、その時の担当MRとのやり取りのメールが残っており、医師側が「寄付金が必要だ」「頼む」などと強要していたことが判明。これを証拠に医師らは第三者供賄罪で逮捕・起訴され、有罪となった(被告は判決を不服として控訴中)。また、当該MRに「おまえを日本一にしてやる」と言って、当該薬を大量に処方し、実際には患者に投与せず捨てていたことも発覚した。これについても保険者(健保組合)に対する詐欺罪で起訴されている。

このように詳細なやり取りをメールで残すのは、大手企業ではありえない“ミス”だ。だが、小野薬品はそのミスを犯した。そのことは示唆に富んでいる。

すなわち小野薬品は、画期的がん治療薬「オプジーボ」によって急成長した企業だ。ただ製薬界隈では、「荒っぽい」ことでも昔から有名だった。今回の一件も、社員の“教育”が十分なされていなかった結果だろう。だが、荒っぽいのは現場のMRの問題というより、会社そのものの体質だ。売り上げで会社に大きく貢献していた先のMRを、同社は即刻解雇した。いわゆるトカゲのシッポ切りだが、普通はそこまでしない。奨学寄付金を営業手段とすることは暗黙の了解どころか、むしろ王道だからだ。先述のデータベースによると、小野薬品が20年に使用した奨学寄付金は5.3億円である。

小野薬品の“脇の甘さ”が露呈した案件はこれだけではない。広島大学糖尿病・代謝内科の医師との間で贈収賄の疑惑が持ち上がっている。内部告発だ。ここでも寄付講座の設立・延長をエサに、同社の糖尿病治療薬「グラクティブ」の処方の大幅増や、院内・院外
薬局での採用を画策したという。これだけでも十分に筋の悪い話だが、おまけにこのグラクティブの方がライバル社の同種薬よりも薬価が高く、患者の支払いが増えるという笑えないオチまでつく。実際の患者負担は騒ぎ立てるほど大きくなるわけではないのだが、指示された部下の医師は大義がないと感じ、告発に至ったのだろう。

【 「たかだか」数百万、「たかが」140億の背景 】

営業の現場で生き抜いてきた者の正直な感覚としては、“たかだか”数百万円の奨学寄付金で、自分の扱う薬剤を全国トップにしてくれるような医師がいれば、ためらう余地などどこにもない。たとえ値の張る寄付講座と引き換えだったとしても、エリアに影響力のある施設がライバル社の薬剤から切り替えてくれると言うなら、確実に安い買い物だ。ちなみに問題となったグラクティブの年間売り上げは約260億円であり、ライバル薬の年間売り上げは約580億円である。

こんな見るからにグレーなやり口がいつから始まったのか、奨学寄付金の歴史は実はよくわかっていない。文科省が管轄する、日本だけの制度のようである。

背景の1つには、日本のアカデミックな創薬関連の研究費は、アメリカのそれと比較してケタ違いに少ないことがあるだろう。AMED発足当時の予算が3000億円だったのに対して、アメリカのNIHが差配する研究費は3兆6000億円であった。このような予算状況では、“たかが”140億円程度でも、製薬企業等からの寄付にも依存せざるを得ないのだろう。

企業としても、実質的に交際費として利用し、結果を呼び込んでくれる奨学寄付金を止めることはできない。最近ではアステラス製薬など、研究費の窓口をAMEDに移管したり全面的に廃止したりする企業も出てきてはいるが、売上順位が低く競合品目の多い製薬企業には、そこまでの判断はなかなか難しいだろう。

とはいえ製薬企業の国内売り上げは、薬価によって規定され、その大半を国民皆保険制度によって賄われている。言ってみれば、血税によって支えられている。その意味で、奨学寄付金等を隠れ蓑にした贈収賄に関しては、もらう側のモラルも重要であるが、支払う側の製薬企業に、より大きな責任があるだろう。

奨学寄付金という制度を業界としてどのように運営し、整備し、監視していくか。業界団体のリーダーシップが問われるところだ。

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