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Vol.23033 日本専門医機構の地域枠医師の取り扱いが改めて議論されることについて ―「不同意離脱」とは―

医療ガバナンス学会 (2023年2月20日 06:00)


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医学部学生保護者
晴山 晴(仮名)

2023年2月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2022年12月に、日本専門医機構HPの「専門研修制度における地域枠医師の取り扱いと専門医認定について」に書いてあった文章(後記)が「地域枠医師の取り扱いについては検討している所です。決まり次第掲載します。*」との文章に差し替えられました。機構の議事録によれば、改めて地域枠医師の取り扱いを議論することになり、そのための人選が近々行われるとのことです。

これは、地域枠生支援の会や、問題意識を持って発信し続けた方々が機構の組織に影響を与えた結果ではないかと推測します。

今から2年前の2021年2月に日本専門医機構のHPに突如「地域枠医師の取り扱いと専門医認定について」と題し、「(前略)当機構から当該医師に対して、不同意離脱であることが確認された旨の連絡をする。」(略)「都道府県と同意されないまま、当該医師が地域枠として課せられた従事要件を履行せず専門研修を修了した場合、原則、専門医機構は当該医師を専門医として不認定とする。」との文章が掲載されました。(以前日本専門医機構HP https://jmsb.or.jp/senkoi/#an16 に記載されていたが、現在は上記の文章*に差し替えられている)

日本専門医機構が出したこの「不同意離脱者には機構は専門医資格を与えない」との文章は、多くの地域枠生の人生設計を狂わせました。

なぜなら、2021年に発表されたこの「地域枠医師の取り扱い...」を、都道府県は、どの時期に入学した人にでも遡って適用することができるからです。そのため、本来当初の契約上は手続きを踏めば地域枠を外れることができる人までもが、専門医を不認定とされる対象となりました。「不同意離脱者」としてターゲットにされたのは、特に受験時のルールに則り、すでに高額な利息や違約金を付けて奨学金の返済を終えた人達でした。

同時に、都道府県と大学は、地域枠生に契約以上の義務を要求し始めました。たとえば、卒業生に対し義務年限を一方的に延長する、診療科選択の自由を謳いながら受験させていたものを、今になって診療科選択の権利を奪うなどです。また指導医不足を理由に専門医研修を用意しないなど、受験の時の説明とは明らかに反する運用も横行するようになりました。専門医研修をさせなければ義務年限は満了できないため、都道府県は際限なく地域枠生を囲うことができます。「不同意離脱だ!」「機構に専門医認定させないように伝えるぞ!」と機構から授けられた権力を行使することで、どんな事後改変もまかり通るよう改悪されていきました。

専門医機構HPには専攻医相談窓口があります。ある地域枠専攻医が都道府県と大学からのあまりの理不尽な扱いに耐えきれず、この窓口に相談した所、「地域枠の人のハラスメント問題には対応しない」との回答だったと伝え聞きました。HPには「専門医研修におけるハラスメントが疑われる相談案件・・について」「安心して相談してください」と書いているにも関わらずです。相談窓口には90件のハラスメント疑いがあったと公表していますが、地域枠生からの相談は門前払いなのです。

確かに地域枠入試では、国公立ですら明らかに学力の足りない教授の子供たちが入学していたり、合格基準をかなり緩くしている一部大学もあるなど不透明な側面があります。そのため堂々と高い点数をとって入学した(優遇入試ではない)地域枠生までもが、まるで不正入試をしたかのような偏見、スティグマによって、言われなき誹謗中傷(差別)に晒されている実情があります。
今や若手医師にとっての地域医療とは、点数が低くて地域枠でしか入ることができなかった人と、点数が低くないのに地域枠でしか入ることができなかったはずだと濡れ衣を着せられた人が混在した罰ゲーム場のようです。

筆者は2022年11月の「現場からの医療改革推進協議会第17回シンポジウム」で、「地域枠の嘘」と題し問題点を提起させてもらいました。この度、そのスライド(10分間のAI音声付き動画)をYouTube配信して頂くことになりました。予備知識の無い方にも10分間で理解して頂けるように作成したつもりです。( https://youtu.be/G0k2lNK7h7s )

また下記に、その他の参照資料として「地域枠制度は事後的改変により受験生に適切なインフォームドコンセントがされていない可能性があり、自治体側の道徳的な不正を含む制度である(筆者要約)」との医学哲学倫理学会 稲荷森輝一氏の論文をはじめ、その他学会による声明などのURLも紹介します。

昨夏から、日本専門医機構では理事に歌手の麻倉未稀さんが加わるなど刷新が図られています。近々新たに始まる機構での地域枠取り扱いの見直しの議論では、地域枠制度のあまりに奴隷的で理不尽な運用が改善されますよう、また、この間に医学界に絶望した多くの地域枠学生を救済するものになるよう願っております。

https://youtu.be/G0k2lNK7h7s
「地域枠の嘘」晴山晴

その他の参照資料
https://researchmap.jp/k-inarimori/presentations/40224497
稲荷森輝一.医学部地域枠制度の倫理的問題点 日本医学哲学倫理学会

https://itetsu.jp/main/wp-content/uploads/2022/09/11d612aab09b1a547442a07577369731.pdf
稲荷森 輝一(北海道大学).研究発表C-9 第 41 回日本医学哲学・倫理学会大会

http://square.umin.ac.jp/a2ms/pdf/record/20220806.pdf
大滝純司(東京医科大学, 国立療養所多磨全生園).現行の地域枠に関する課題とその解決策の提案

https://roudou-bengodan.org/proposal/10605-2/
日本労働弁護団 会長 井上 幸夫.医師の「地域枠」制度の改善を求める意見書

https://www.jmsf.or.jp/news/page_107.html
一般社団法人日本医学会連合 会長 門田 守人ら.入学時の診療科選定枠に対する声明

上昌広.ヤバい医学部 日本評論社2019.12刊行 のp.146から

土屋了介.専門医制度と医学部地域枠 毎日メディカルジャーナル2019, vol.15, no.5, p.133

https://www.jstage.jst.go.jp/article/generalist/38/1/38_31/_pdf/-char/ja
賀来敦、松下明.日本の医学部入試地域枠制度の全容並びに問題点と提言
日本プライマリ・ケア連合学会誌 2015, vol.38, no.1, p.31

奥真也.医療貧国ニッポン PHP新書2022.6刊行  のうちp.167など

https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20K18856
山野 貴司 和歌山県立医科大学講師 和歌山県立医科大学.地域枠当事者の視点で捉えた医学部入学選抜の弊害と必要な支援を明らかとする調査研究 若手研究 KAKEN
(まだ途中のよう)

http://medg.jp/mt/?p=11162
一般社団法人全国医師連盟理事 中島恒夫.Vol.22178 貸与型奨学金は国家存亡に繋がる ~国は全ての奨学金制度を「給付型」に転換させるべし~ MRIC by 医療ガバナンス学会

https://note.com/exaray/n/n9540542d8a33?magazine_key=m76bfe5bdd453
江草令さんのブログ(2022年6月24日)
地域枠問題は「契約したのだから離脱は甘え」とかいうレベルの問題ではない

https://note.com/exaray/n/nea6978c02635?magazine_key=m76bfe5bdd453
江草令さんのブログ(2022年6月25日)
医学部地域枠の「9年勤務義務」はなぜ過酷と言えるか

https://news.yahoo.co.jp/articles/08806308013183b6d545dfbb087ff004a856e78f
医師の暴言や暴力、横行 パワハラ、企業より深刻か 共同通信2022.7.2 21:10 Yahoo! JAPAN ニュース

http://union.or.jp/wordpress/wp/wp-content/uploads/2022/10/勤務医労働実態調査2022概要-%E3%80%80最終版%E3%80%802022.10.21.pdf
勤務医労働実態調査 2022 実行委員会 植山直人ら.勤務医労働実態調査2022概要

http://medg.jp/mt/?p=11377
井上清成弁護士.Vol.22248 地域枠からの「不同意」離脱の運用を改善すべき MRIC by 医療ガバナンス学会

https://www.sentaku.co.jp/articles/view/22216 (一部)
≪日本のサンクチュアリ≫ 医学部地域枠制度 医師「奴隷奉公」のからくり 選択 2022年6月号 p.110-113

差し替えられる前に https://jmsb.or.jp/senkoi/#an16 に記載されていた文章
2021年2月から2022年12月まで掲載されていた

http://expres.umin.jp/mric/mric_23033.pdf

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