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Vol.22178 貸与型奨学金は国家存亡に繋がる ~国は全ての奨学金制度を「給付型」に転換させるべし~

医療ガバナンス学会 (2022年8月26日 06:00)


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一般社団法人全国医師連盟理事
中島恒夫

2022年8月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

修士課程の学生が経済的に困窮しているという報道があった。2021年6月29日に科学技術・学術政策研究所からプレスリリースされた内容だ(https://www.nistep.go.jp/archives/47485

授業料の減免措置を受けている学生  22.6%
返済義務のある奨学金や借入金のある学生1  35.9%

また、博士課程への進学ではなく、就職を選択した学生の67.9%が、「経済的に自立したい」との理由で就職を選択したとのことだ。博士課程の学生を対象とした別の調査(https://news.yahoo.co.jp/byline/murohashiyuki/20200627-00185266/)では、6割以上の学生が返済義務のある奨学金や借入金を抱えているとの結果だった。高等教育を学べば学ぶほど返済額が増える制度は、絶対におかしい。経済的負担を理由に研究職を断念する若者が多い現状は、国家の損失として軽視できない。これは大学院生だけの話ではなく、大学生でも同様だ。

新型コロナウイルス感染症の緊急支援策として国が2020年に実施した制度「学生支援緊急給付金」(https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/hutankeigen/mext_00686.html)も、様々な瑕疵があることを報道された(https://www.shinmai.co.jp/corporate/henshu/koechika/2020/07/20/kyuhukin01.html)。大学ごとに「枠」が割り当てられるなど、制度設計の矛盾を指摘された。国が人材育成に本気で取り組んでいない証左である。

返済義務のある奨学金や借入金で若者に多額の借金を背負わせた上に、奨学金の見返りとして決して軽くはない社会貢献を強要する制度は、非人道的であり、人権問題である。このような奨学金制度は、奴隷制度と同根の発想の上に成り立っている。公序良俗に背く制度である。

医学生を対象とした様々な奨学金にも、卒業後の進路や就業形態に厳しい条件を課しているものが多い。民間の奨学金だけでなく、自治体をはじめとした公的機関の奨学金、いわゆる地域枠制度でもだ。医学生の地域枠制度では、利息が何と10%という高利貸し状態もザラにある。しかも、高額な違約金まで設定している。地域枠制度は高校生の時期に選択することになるが、未成年にこのような非人道的借金を課し、その借金のカタとして強制労働を課す地域に、医療は不要である。医師養成には10数年を要する。その間に、御都合主義で医療制度を勝手に変革する日本において、若者に将来降りかかる不利益を各自治体が説明することすらない。司法が大好きな『説明責任義務違反』を行政が恥ずかしげもなく強行している現状は、狂っているとしか言いようがない。

地質系資源の乏しい日本の活路は、人材という人的資源しかない。しかし、現在の日本は、拝金主義という銭ゲバ連中がまかり通り、デフレスパイラルと称される衰退的世代間継承が進行中である。インフレを知らない若者の貧困は、「未来への投資」が行われていない帰結である。国が若者を大切にしないということは、将来の国家の舵取りを担う人材育成を疎かにすることである。いわば、国家存亡の危機である。

健全な国家形成のためには、「次世代への発展的継承」と「真っ当な互助制度」が不可欠である。日本の未来を支える若者にとって、本当に必要な経済支援は、拝金主義の貸与型奨学金ではない。給付型奨学金という互助制度である。給付型奨学金制度をより進化させた「スカラーシップ制度」まで実践できれば実に素晴らしいのだが、僅かな団体でしかなされていない。「スカラーシップ制度」の一例を挙げると、一般社団法人「人間塾」という団体がある(https://ningenjuku.or.jp/news/santa2021/)。「人間塾」では、次世代への発展的継承を「恩返し」ならぬ『恩送り』として指導している。実にうまい考え方だと感心した。しかし、悲しいかな、給付型奨学金制度も、スカラーシップ制度も少ない。しかも、民間の篤志家に頼らざるをえない。

日本という国家をこれからも存続させたいのであれば、国は拝金主義である全ての貸与型奨学金制度を禁止し、給付型奨学金制度に転換させる。これくらいの施策を導入すべきである。

 

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