医療ガバナンス学会 (2023年4月6日 06:00)
この原稿は中村祐輔の「これでいいのか日本の医療」(2023年3月4日配信)からの転載です。
https://yusukenakamura.hatenablog.com/entry/2023/03/04/234634
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
理事長 中村祐輔
2023年4月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
こんな時でも目についたのが「The artificial sweetener erythritol and cardiovascular event risk」というタイトルのNature Medicineの論文だ。人工甘味料エリスリトールが心筋梗塞や脳梗塞のリスクを2倍程度高めることを報告した論文だ。エリスリトールは血小板を活性化して血栓を起こしやすくしているとも述べられていた。
人工甘味料(甘さを感じる物質で、カロリーのない、あるいは少ないもの)は複数種類あるので、この論文の結果がすべての人工甘味料に当てはまるものではないのだが、毎日のように人工甘味料入りのコーラを飲んでいるため気になった。改めて、私の愛用しているコーラには、どの人工甘味料が含まれているのか、ラベルをチェックした。ラベルには甘味料(アスパルテーム、フェニルアラニン化合物、アセスルファムK、スクラロース)とあった。人工甘味料は健康への影響について議論の的となっているが、会社から研究資金をもらっていると問題なしの論文が多く、問題があると述べている研究者には関連する企業から研究費をもらっていない人が多い。タバコでも同じような議論があり、利益相反と指摘される理由になっている。
エリスリトールは、日本ではカロリーゼロと表示されているそうだが、米国では1グラムで0.2カロリーと表示される。甘さは砂糖の60-70%程度だが、1グラム4カロリーの砂糖と比してカロリーは20分の1なので、甘味料として利用されている。ちなみに、アスパルテームは砂糖の100-200倍の甘みを感じ、フェニルアラニン化合物、アセスルファムK、スクラロースは、それぞれ約200倍、約200倍、約600倍の甘みを感じるとのことだ。
人工甘味料とは言葉通りに人工的に作られる甘味料なので、何十年も摂取した時の影響を推測するのは難しい。甘さを同じにすると仮定し、砂糖10グラムとエリスリトール15グラムを摂取すると、カロリーは40カロリーと3カロリーとなるので肥満対策としてはエリスリトールが有効なはずだ。したがって、今回の研究成果の、エリスリトールの濃度の高い人が心筋梗塞や脳梗塞の危険性が高くなるという話だが、科学的には、エリスリトールの代わりに同じ甘さを感じるだけの砂糖を摂取した場合との比較が必要だ。科学的には評価はなかなか難しい研究結果ではないかと思う。