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Vol.23063 医師紹介会社・大学医局の違法行為に対して、実効性のある規制が必要

医療ガバナンス学会 (2023年4月7日 06:00)


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一般社団法人全国医師連盟理事
中島恒夫

2023年4月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

医師の働き方改革の適用まであと1年となった。労働環境がブラックな医療業界がどれだけ変われるだろうか。変われないのであれば、違法労働を強要するブラック病院管理者が、はたして何人処罰されるでしょう。
勤務医がそのような管理者に潰されないために、より良い労働環境を求めてためらわずに転職することを私は以前からお勧めしている。「このブラック環境を自分さえ我慢すれば……」という考えは、若手医師の成長をも妨げる。私たちの技術を遺憾なく発揮できる診療環境が整備されることは、若手医師の成長につながり、その地域に医療を提供できる期間が延ばせることを意味する。『働き方改革は、次世代のために出来る社会貢献活動』。今を変え、より良い未来が構築できることを願っている。

技術を身につけた勤務医が、より良い労働環境に転職する際に、民間の医師人材紹介会社(以下、紹介会社)を利用する機会は多いだろう。しかし、紹介会社は全国に約300社もあり、「闇」もある。
医師に限らず、人材紹介会社は港湾運送業務と建設業務を除き、すべからく「有料職業紹介事業者」として厚生労働大臣の許可を受けた事業所でなければならない( https://www.mhlw.go.jp/content/dai2.pdf )。このため、勤務医が転職を考えている場合、「一般労働者派遣事業許可番号」を明示している紹介会社か否かを最初に確認することを強く勧める。なお、許可を受けた紹介会社か否かを厚生労働省の人材サービス総合サイト( https://jinzai.hellowork.mhlw.go.jp/JinzaiWeb/GICB101010.do?action=initDisp&screenId=GICB101010 )でも検索できるので、是非とも活用をお勧めする。ちなみに、大学病院医局からの派遣は、限りなく違法(労働者派遣法違反、偽装請負、無届け等)であることが多いことを申し添えておく。

許可を得た紹介会社は、職業安定法に基づく法規制を守らなければならない。職業安定法には、労働条件を明示する義務や個人情報の保護、求人者(医療機関)から受け取る手数料など、事細かな規程条項が含まれている。転職を考えている勤務医の個人情報は容易に特定されやすい。なお、令和4年に職業安定法が改正されていることも申し添えておく( https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000992910.pdf )。

職業安定法において、職業紹介は、「(1)求人及び(2)求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における(3)雇用関係の成立を(4)斡旋することをいう」(法4条1)と定義されている。したがって、職業紹介事業者は、求職者と求人者の間に雇用関係が成立する(=就職する)ための紹介斡旋を行う。
民営職業紹介事業は2種類ある。
(1)有料職業紹介事業:職業紹介に関し、手数料又は報酬を受けて行う職業紹介事業のこと。
(2)無料職業紹介事業:職業紹介に関し、いかなる名義でも手数料又は報酬を受けない事業のこと。

勤務医が紹介会社に金銭を支払う必要は、ごく一部の例外(法32条の3)を除き、まず無い。なぜなら、医師を求めている医療機関が紹介会社に支払うからだ。有料紹介会社は、斡旋業務に伴う手数料を求人者に請求し、利潤を得る。そして、有料職業紹介事業者は法令に定められた手数料を徴収することができ、それ以外の手数料や報酬を受けてはならないこととされている(法32条の3)。

有料紹介会社は以下の手数料制度のいずれかを選択できる。

(A)厚生労働省令で定める手数料
・求人受付手数料
求人申込みを受理した場合、1件当たり690円(免税事業者は660円)を上限として、求人者から徴収できる。
・紹介手数料(上限制手数料)
支払われた6か月間の賃金額の10.8%(免税事業者は10.3%)に相当する額を上限として求人者等から徴収できる。

(B)届出制手数料
あらかじめ届け出た手数料表に基づいて求人者等から徴収できる。
手数料の種類は、受付事務手数料、紹介手数料、相談助言手数料などを自由に設定でき、額については届け出た手数料表の額による。
ところが、この仕組みにおいて、不可解な金銭のやり取りが常態化している。それは、非常勤医師の「紹介料」を「コンサルティング料」などの名目で、際限なく医療機関に支払わせている行為である。常勤医の転職斡旋に関しては、雇用契約が締結されたことを以て、有料紹介業者に手数料が支払われる。求人者が紹介会社に支払うのはこの1回だけである。非常勤医師の転職斡旋の場合に、違法な料金を徴収している有料紹介会社が非常に多い。有料職業紹介会社が、非常勤医師の同意無く、医療機関から2年目以降も「紹介更新料」「派遣料」「コンサルティング料」と称して繰り返し請求している。「紹介更新料」という料金を聴取することは違法であり、「派遣」の要件も満たさず、コンサルティングも全くの架空であり、いずれにしても医療機関から違法に金銭を搾取している。

医師不足に苦しむ医療機関は非常に多い。そのような医療機関に対し、「次の人員を紹介するから金を払え」というのであれば、ヤクザのみかじめ料と全く同じである。大学医局に『研究協力費』と称して医局員を派遣してもらうよりも安価だから、必要悪と考えて民間有料紹介会社に支払っているのかもしれない。医師紹介料は、一人300万円ともいわれている。300万円あれば、医局整備、仮眠室整備などの福利厚生費に回せばよく、就労環境を改善することで人も集まる。

大学病院医局からの派遣は、限りなく違法(労働者派遣法違反、偽装請負、無届け等)であることが多いと上述した。労働者派遣法第4条で「派遣禁止業務」を4つ定めている。(1)港湾運送業務、(2)建設業務、(3)警備業務、(4)病院等における医療関係の業務、である。
また、「労働者派遣」とは、自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること(労働者派遣法2条)である。労働者供給事業は、供給元の労働者に対する支配従属関係に基づいて行われるため、労働者の自由意思を無視した派遣は強制労働の温床となる。このため、労働者派遣は、労働組合が厚生労働大臣の許可を得て無料で行う場合を除き、禁止されている(職安法44・45条)。
この労働力需給システムと紛らわしいものに、請負(業務処理請負)がある。注文主が労働者に対して直接指揮命令をすることはありえない。注文主が労働者に業務遂行について直接指揮をしたり、請負業者が労働者の管理を行っていない場合は、実際には「偽装請負」という違法行為に該当する。

民間有料紹介会社の違法搾取であれ、大学医局のカツアゲであれ、市井の医療機関の経営を不健全に悪化させる行為であることに変わりはない。この両者の行為を厳罰化することが必要である。

 

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