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Vol. 352 現場からの医療改革推進協議会第五回シンポジウム 抄録から(5)

医療ガバナンス学会 (2010年11月13日 14:00)


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医療費負担

2010年11月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


5つの提案
天野美知子(LCH(ランゲルハンス細胞組織球症)患者会)

1.公的支援の財源確保のための無駄な医療費の削減
全国のすべての医療機関をオンラインで繋ぐことによるデータの共有化
医療者にとっては臨床経験の少ない疾患であっても、データの活用により、病名の可能性をいくつかに絞る事や確定診断の迅速化が可能
無駄な検査や治療を防ぐことで医療費の削減に繋がる。
2.保険制度の見直し
健康保険での窓口負担を疾病名や収入により変える。
本当に支援の必要な人の環境改善が可能
3.公的な財源以外での支援金の捻出方法
企業や個人からの寄付を容易にすること、寄付の金額により税金の割合を変える。
社会貢献へのモチベーションを上げる。
企業イメージの向上、それによる売り上げの増大や個人の場合は、生きがいを感じることができる。
更なる、社会貢献の拡大の可能性
4.精神面を支えることでの自立した生活
闘病という言葉の意味には、病気だけに向き合うのではなく、患者さんとそのご家族の生活全般を巻き込んでの闘いです。
その闘いを支えるためには、ソーシャルワーカー(SW)の制度の確立が不可欠です。
今回、LCH患者会では、SWの認知度の調査を行いました。結果は添付資料の通りです。SWの仕事内容やいつ、どのような相談をすればよいかが、周知されていないことが判明しました。
・SWの主な役割
(1)公的制度の情報提供
小児慢性特定疾患や特定疾患の制度の不明確性や不便さへの助言
(2)医療者と患者の橋渡し役
医学的なデータだけでは見えない患者の情報をSWを通して医療者が知ることで、的確な治療が可能になると感じています。
5.最後に
いちばん大切なことは、経済的、精神的不安を抱えている方が多いので、闘病中であっても患者さんやご家族が、極力平常に近い生活を行える社会の仕組み作りが必要です。

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小児脳腫瘍の患児家族の願い~誰もが最善の治療と保障を得られるように~
馬上祐子(小児脳腫瘍患児家族)

がん対策基本計画施行後、成人がんでは均てん化など多くの問題が話し合われ、がん拠点病院の整備が始まり久しいが、小児がんについては全くと言っていい ほど対策が取られていない。小児がんはこどもの病死原因の第1位であり、小児脳腫瘍は最も死亡率が高く、脳を治療することから障害を負うことが非常に多 い。5年生存率20%といわれた娘は晩期合併症を抱えながらも今中学生となり、心から感謝している。娘が3歳以下で生き残った最初の例ではと言われたこと から、少しでもできることがあればと患児家族のQOLの向上を目指して活動している。患児家族や医療関係者へのアンケートなどを通して、治療率の向上、均 てん化のためには、治療情報の整理、集学的治療、症例を集める基盤として成人とは別の小児がん独自の拠点化が必要であり、拠点化により知識の集約、臨床試 験等の研究をより推進できるのではと考えている。小児がんの経験者が1000人に1人の時代となり、社会に貢献できる人材が多くいながら、その障害自体の 研究や情報が乏しいため正しく理解されない、一つ一つの障害は認定されないが複合的に障害が重なりうまく仕事に着けない、内部障害についての障害者認定は されていないため一生必要な薬などの補助がでない、また社会的偏見など多く壁に阻まれ、社会の中で自立することができない経験者が多くいる。仕事が持てな い場合、助成がないことから親が死んでしまうと確たる生活の保障がない。経験者家族は将来患児が自立できるかどうか常に不安に思っている。治療後の長期 フォローアップ体制の充実と正しい障害の評価とそれに対する援助を望む。これまで医療関係者の最大限の献身と善意によりなんとか支えられてきていた医療制 度だが、特に小児医療が危機的状況の今、がん基本法にのっとり、より効率的で効果的な小児がん医療が受けられるような体制の整備が叫ばれている。小児がん の疾病別患者会などで協同して拠点化、専門医の育成などに関する要望書を厚生労働省、政府、学会に提出をしている。

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高額な医療費の個人負担-グリベックから様々な疾患へ
児玉有子(東京大学医科学研究所特任研究員)

「病気もつらいけれど、経済的な負担が苦しい」という患者さんの声から昨年実施した、慢性骨髄性白血病(CML)治療薬グリベック服用患者の経済的負担の 調査。この調査では、全国のCML患者さんから、600通ものお返事をいただきました。経済的負担といった答えづらいお金の問題にもかかわらず、回答やご 意見を寄せてくださった方々、忙しい中ご協力いただいた144施設の血液内科の先生方に心からお礼申し上げます。調査結果をメディアの方にご説明したとこ ろ、紙面や番組に取り上げていただき、当事者しか知らなかった問題を多くの方々に伝えることができました。
メディアでの報道をきっかけに、同様の経済負担に苦しんでいる患者さんからも連絡をいただきました。そこで二つ目の調査として、昨年末から今年初めに様 々な疾患を対象にした医療費に関する調査を実施しました。この調査の結果でも、CML患者と同様に患者の年収は5年前と比較して減少していましたが、支 払っている高額な医療費は横ばいでした。「外来で化学療法の点滴を受けており月々の負担が重い」、「病気のため高額な制限食を購入し続けなくてはならない が、食費なので補助の対象にならない」等困っている声が寄せられました。また、持続可能な支払い額についての問いでは、8割を超える方が月額2万円以下の 額を提示されていました。「月額2万円」は現行の高額療養費(特定疾病)や特定疾患治療研究事業【医療費助成制度】における自己負担上限に近い金額です。
高額な医療費自己負担の問題は、薬価そのものの決め方の問題、医療費の財源、保険制度、これまで疾病対策として行われていた研究費と補助金の関係、さら には高齢化や長引く経済不況の影響等々、非常に複雑な問題です。医療費を誰がどのように、どこまで負担するのか。熟議をする必要があります。
この二つの調査の研究結果や患者さん、患者家族、医療者、研究者、政治家や厚生労働省担当者との議論を通じた結果「一薬剤だけの価格調整や、特定疾患な ど疾患限定の措置が解決する問題ではない」と確信しました。自己負担額の軽減(具体的には月2万円への引き下げ)によって、疾患間の格差や不毛な争いがな くなるような制度にはできないのでしょうか。
この1年半の間に、グリベックなど高額療養費に対する制度の問題は、社会的な問題として認識されるようになり、国会での質疑応答を経て、社会保険審査会 社会保険部会で議題として取り上げられるまでになりました。シンポジウム開催のころには社保審医療保険部会での結論が出ているかもしれません。

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制度の隙間の問題とベーシック・インカム
松井彰彦(東京大学大学院経済学研究科教授)

学術創成研究におけるResearch on Economy And Disability (READ)においては、障害問題と経済問題を結びつけるべく、30名からなる研究チームで研究を進めてきた。この過程で、障害者とはだれか、という問題 に直面し、いわゆる障害者手帳保持者のみではなく、医科学研究所上研究室の児玉有子氏と共同で、長期疾病者の経済調査を行うに至った(当方の研究者は両角 良子)。この過程で、長期疾病者が抱える経済問題が障害者のそれと共通しているという点が浮かびあがりつつある。
にもかかわらず、障害者は障害者制度、長期疾病者は医療制度というように、両者は行政によって厳格に分けられており、長期疾病者は、とくに両制度の隙間に落ち込みがちなため、社会的な不利益を被っている。
ベーシック・インカム(BI)は、このような隙間の障害の問題を解決する一つの方法として注目に値する。以前は社会福祉系や思想系の雑誌に取り上げられ るのみであったが、先日はついに経済系の雑誌でも特集が組まれたのである(特集「ベーシック・インカムについて考えよう」週刊エコノミスト9月21日 号)。同特集では、BIによって、日本国民全員に月8万円の給付が税率45%の下で可能だとの試算も報告された(小沢修司)。しかし、この試算は、給付に よる労働インセンティブの減退効果が含まれていないため、残念ながら非現実的なものとなってしまっている。
本報告では筆者の(かなり粗い)試算を紹介する。結論から言えば、税率60%にすれば月8万円の給付が可能であるということになる。
BI制度は魅力的ではあるが、外国人居住者の扱いや、所得補足のための納税者番号の導入の是非など、導入に向けた課題も多い。仮にこれらの課題をクリア したとしても、月8万円の給付は非現実的であろう。ただし、筆者は月2万円の給付でも導入の価値はあると考えており、この点も含め、議論したい。

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