医療ガバナンス学会 (2023年4月18日 06:00)
この原稿は中村祐輔の「これでいいのか日本の医療」(2023年3月11日配信)からの転載です。
https://yusukenakamura.hatenablog.com/entry/2023/03/11/101805
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
理事長 中村祐輔
2023年4月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
私のプレゼンの後、内閣府の担当者が、AIプラットフォーム技術組合を立ち上げたことが最大の成果だといった。私は、「2年間も担当して、この程度の認識しかできていないのか」と心の中で涙を流していた。医療現場ではさまざまな(総理大臣には禁句となっているようだが?)AIやデジタル化のニーズがある。それを解決していくAI開発ができてこそ、AI/デジタル医療を提供できるのだ!冷凍機があっても、水がなければ、氷はできないようなものだ。
医療現場でば、こんなこと、あんなことを、人工知能やロボットに肩代わりしてもらい、医療の質の向上と医療従事者の負担軽減を図っている。
国立成育医療研究センターの例を挙げると
小児感染症の病原体をAIが特定することができる。染色した(色を付けた)病原体画像をスマートフォンで撮影して、AIに送ると、病原体が特定される。当然ながら病原体によって、投与される抗生物質が異なってくるので、個別化医療が簡単にいつでもどこでもできるのだ。
自閉症スペクトルムの診断を小児健診時の視線の動きで判定するAIが生まれている。2歳児レベルで判定して、さまざまな(これも禁句か?)介入、取り組みをすることで、その子供の人生の質を変えることができるのだ。
いろいろな遺伝性疾患の診断は難しいのだが、患者の特徴・症状を入力すると病名候補をリストアップすることができる。「いつでも、どこでも、誰でもが同じ質の医療を受けることができる」というAIホスピタルプロジェクトの大きなゴールの象徴的な取り組みだ。
などがある。慶應大学付属病院、大阪大学付属病院、がん研有明病院、横須賀共済病院でも現場のニーズに合わせた種々のAI・デジタル開発が進んでいる。協力いただいた研究機関の皆様には心から感謝申し上げたい。そして、誰が考えても、継続して日本の医療改革につなげるべきであるものを続けることができなかった自分の非力さに忸怩たる思いが募る。
内閣府担当官のものの見方は、日本の科学の衰退の象徴でもある。大きな青写真の元に必要なものを同時に整備していくことが不可欠だが、日本の近視眼的施策が日本を劣化させ、国力を弱くしている。
AIホスピタルの取り組みを知りたい方は、是非、4月20日の第31回日本医学会総会 開会記念特別講演会・市民公開講座(東京フォーラム)に参加して欲しい。