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Vol.23071 「クチコミでの病院批判」のその後

医療ガバナンス学会 (2023年4月20日 06:00)


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この原稿は医療タイムス(2023年2月8日配信)からの転載です。

公益財団法人ときわ会常磐病院
乳腺外科医
尾崎章彦

2023年4月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●インパクトがある“叩かれ”経験
前回、Googleクチコミで筆者が叩かれた件を取り上げました。その記事が過去1年の「Web医療タイムス」全コラム中、最高のアクセス数を記録したそうです。

多くの人に読んでいただけて嬉しく思う反面、きっとネット検索をして、あのクチコミをご覧になった人も少なくないだろうと想像すると、恥ずかしいやら情けないやら、複雑な思いにもなります。
ただ、一連の出来事を通じて、多くの医療者が筆者と同じようにネット上のクチコミに関心を持ち、ときにその評価に頭を悩ませていることを知りました。
正直、医療者というのは感謝されることのほうが圧倒的に多い仕事で、患者さんから“叩かれる”経験はかなりのインパクトがあります。自分では決して不真面目あるいは不誠実に取り組んでいるとは思っていないだけに、ショックが大きいのです。
また、もしこれが飲食業界で、Googleクチコミや食べログなどでこんなふうに酷評されてしまったら、客足に影響が出てもおかしくありません。

●接遇の見直しに努めてきた1か月
幸い常磐病院乳腺外科では、クチコミの影響で患者さんの数が減った、といった現象は起きていません。しかし、もちろんそれで終わりということにはなりません。
反省を生かして改善することこそが、クチコミをしてくださった人たちが本当に望んでおられることのはずです。それ以外に、誠意や感謝の気持ちをお返ししていく方法はないと思いました。
そこで、クチコミに気がついた年始以降、この1カ月間は、周囲にアドバイスを求め、接遇の見直しに努めてきました。
まず1つには、患者さんへの接し方です。前回お話した通り当院乳腺外科では、率直にいって、すでにキャパシティの限界に近い数の患者さんを診療していると感じています。
その忙しさに加え、本質的には、「自分は患者のためになることをしている」という慢心もあったのかもしれません。結果として、患者さんには横柄、もしくはおざなりに映る部分もあったのではと振り返っています。

●ファンになってもらえる診療を
この点についてどのように取り組むべきか。参考になったのが、3年前に銀座で美容皮膚科クリニック「銀座アイグラッドクリニック」を開業し、高収益を達成している大学同期の乾雅人医師の言葉です。医療業界のプロ経営者として、自由診療領域で医療機関経営の武者修行をしているとのこと。
彼によると、美容皮膚科領域では「(クチコミ投稿には手間と時間が掛かることもあり、)本来、星1、2しか付きづらい」とのこと。彼もずいぶん辛い思いをしたそうです。
対応策として、「風評に対抗できるのは唯一、広報だけ。常日頃から星5を取得しておく必要がある。では、如何に星5を取るかというと、実質的には星6、満足を超えた感動を狙う必要がある」と考え、行動したそうです。
例えば、「綺麗な状態で最期を迎えたい」と受診した、50歳代、予後1年ほどの女性大腸がん患者に対しては、まずは、大腸がんの治療を継続することを勧めました。
それに加え、「残された時間を少しでも前向きに生きていく」ことを後押しするために、美容医療を行い、感動体験を提供できたそうです。
「自由診療では付加価値の向上を追求することは正義だけど、予算も時間も限られている社会インフラとしての保険診療では、それは困難だと思う。価格と価値、その決める順番が保険診療と自由診療では真逆」とは釘を刺されましたが、ただ患者満足度を追求する考え方はぜひ取り入れたいと思いました。
そして心に決めたのは、「受診してくれる患者さん全員に、私たちのファンになってもらえるように診療をしよう」ということです。

●驚くべき変化を遂げた事務スタッフ
実践していく上で心強かったのが、一緒に乳腺外科を担当してくれている医療事務スタッフの存在とその協力です。
実は彼女も今回、私の巻き添えとなってクチコミで批判されていました(ただ、医療事務の彼女に看護師の提供するようなケアを求められているなと感じる内容ではあり、やや厳しすぎるようにも映りました)。
実際、彼女はテキパキと仕事が非常によくできるのですが、これまで患者さんとのコミュニケーションについてはどこか控えめでした。
そんな彼女も、今回の件に関しては思うところがあったようです。患者さんとのコミュニケーションが一変しました。言葉使いが一段と丁寧になったことはもちろん、自ら積極的に患者さんとのコミュニケーションを図るようになりました。
具体的には、乳がんと診断された人や、副作用が出て、戸惑っている患者さんに対して、「大丈夫ですか」「お辛いですよね」と、微笑みながら自然と励ます言葉をかける姿も見られます。彼女の変化には本当に驚くばかりです。スタッフのそうした姿勢を目の当たりにする中で、筆者自身、「診療をよりよいものにしていきたい」という思いが高まるのを感じています。

●患者が応援したくなる乳腺外科を目指す
「患者さんが応援したくなるような乳腺外科を目指す」という目標が、筆者個人としても、今や大きなモチベーションになっています。
大事なことは、この気持ちを維持し、実践を続けていくことです。将来的には診療体制をより充実させ、多くの仲間と理念や思いを共有することで、継続性を担保することができればと考えています。やるべきこと、やれることは、まだまだたくさんあります

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