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Vol.23084 2類から5類へ~~介護現場が抱えるマスク問題

医療ガバナンス学会 (2023年5月16日 06:00)


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介護福祉士・ライター
白崎朝子

2023年5月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「厚労省の推奨通り、介護現場でもマスクは個人判断にするそうで、職員が使うマスクは施設からは提供しないそうです。さっそく施設長がマスクを外して施設内を歩いていました。東京も施設内でのマスクは個人の判断になっていますか?」

5月9日夜、大阪市の高齢者施設(SONPOケア運営)の非常勤職員Aさんから上記のメールが届いた。翌朝、Aさんの質問を全国にいる30人の介護現場の仲間に問い合わせたところ、わずか5時間で5人から返信があった。

ほとんど報道されていないが、高齢者や障害者の介護施設ではクラスターが少なからず発生している。友人が勤務している都内の社会福祉法人が運営する障害者通所施設でも、現在クラスターが発生中だ。

大阪市のAさんは、「重症化する可能性がある利用者がたくさんいて、全国的にコロナの感染が拡大している状態なのに、あり得ないと思うのですが…。他の施設も同じような判断なのでしょうか?」と訴えていた。

しかし同じSONPOケアの運営でも、東京都内の高齢者施設の職員Bさんからは、「私の施設では職員はマスクを着用しなくてはいけません。もちろんマスクは施設が用意しています。なぜマスク着用なのか等、施設長からその都度全職員に書面で通達があります」という返信があり、ホッとした。

現在、SONPOケアは、国と一体化してICT化を勧め、人員配置基準の緩和(人員削減)を勧めている。いまですら介護現場は人手不足で、利用者虐待や介護事故が蔓延しているというのに。またSONPOケアはこの間、中小企業をどんどん買収し巨大介護ビジネスを展開。「中小企業を買収する金があるなら、現場で職員が使うマスクくらい支給して欲しい」と思ったが、Bさんのコメントによれば、施設長によって判断が違うようだ。

大阪市のAさんの施設では、昨年クラスターが出たときも、きちんとした感染防護物資を支給しなかった。SONPOケア全体がAさんの施設のようではないようだが、利用者と職員の安全を守る立場の施設長が、医療職でもないのに、「個人」として解釈したり判断できる権限があることに私は問題性を感じた。

施設長「個人」の判断で死者がでたら、施設長は責任をどうとるのだろうか?またSONPOケアはどう対処するのだろうか?という疑念がわいた。

以下は超多忙な現場から、即座に届いた声である。利用者のことを守ろうとする現場の声を、ぜひ聴いて欲しい。

●京都の重度訪問介護事業所の管理者より
うちの事業所は利用する障害者が主体ですので、障害者団体の会議で判断を仰ぎ、その結果、当面継続になりました。

●千葉の訪問介護事業所の代表(社員数人の個人経営者)より
うちの会社はマスクとアルコール消毒は継続です。もちろん会社負担です。一番恐れるのは、私どもを介してコロナを広めてしまう事です。利用者宅から利用者宅へと訪問しますので。私らが罹るのは、仕方ないと諦めています。私らは生き延びれる可能性が少しありますが、抵抗力の無く基礎疾患をお持ちの利用者の支援をしていますので、コロナを運ぶわけにはいきません。マスクやアルコールがどの程度役に立つか分かりませんが、やらないで後悔するよりやって後悔!って事で、社員を説得し継続することになりました。

5類になったからといって何かが変わるわけでなく、記号が変わっただけ。コロナの症状が軽くなるわけでなく、油断しかない。マスクなどは継続するのが当たり前だと思っています。というかそれしか選択肢が無いので…。何かあれば会社の責任です。回避するには継続しかありません。
「マスクを外す?ご冗談を」って気持ちです。

●京都の訪問介護事業所の非常勤ヘルパーより
介護現場でのヘルパーのマスク着用が自己判断……考えられません!
私の所属する訪問介護事業所の方針は、感染症のリスクそのものは変わっていない、ご利用者等は重症化する恐れが高いということで、今後も継続して感染防止対策を講じることになったそうです。

そしてご利用者にも、引き続き協力を願う文書(サービス利用時はマスクの着用をお願いします、など)を発送したそうです。ただ、実際には、自宅ゆえにご利用者がマスク着用してる人は少ないと思います。だから訪問介護の場合、ヘルパー側がしっかり感染防止対策をしないといけないと感じます。

●都内の障害者入所施設の管理者より
(1)厚労省はマスク着用について5月8日以降は個人判断としながらも、高齢者施設等においてはマスクの着用推奨としている こと( https://www.mhlw.go.jp/content/001088469.pdf )
「高齢者等重症化リスクが高い者が多く生活する高齢者施設等への訪問時にはマスクを着用することが推奨されるとともに、高齢者施設等の従事者については、勤務中(※)のマスクの着用を推奨することとされています」
(2)5類になったとしても新型コロナウイルスは感染力および重症化リスクについての変化はない。
(3)全国でも介護施設におけるクラスターは変わらず発生している。

以上の理由から、うちではマスク着用については継続対応で職員周知済みです。しかし、あくまでも推奨であり罰則はないので、事業所の判断です。介護施設の管理者なら厚労省の介護保険最新情報掲載ページ(※)を少なくとも毎週チェックしてほしい。私は毎日、朝一番で確認しています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/index_00010.html

いまこの瞬間も、全国の介護現場でたくさんの介護職員が利用者のいのちに向き合っている。

5類になったこれからが、本当の困難の始まりかもしれない。まわりがゆるんだ分、危機感の強い介護職員ほど、自らにより厳しい感染予防対策を課している。

推奨はするが罰則はなく、事業所の判断に委ねるというのは、国の責任放棄だと私は思う。今後も、介護現場の実態を継続取材し、現場の声を広く届けていきたい。

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