医療ガバナンス学会 (2023年6月5日 06:00)
摂津市では2020年以降、京都大学の研究チームによる血液検査を延べ34人の住民が受けている。2022年に米国で発表されたPFOA曝露に関するガイダンスの指標に照らすと、34人のうちTansaが取材で確認できた33人から高濃度のPFOAが検出されている。住民の不安が高まっていることから、汚染地域全体に対象を広げた疫学調査が必要だと市議会が判断した。
米国のPFOA汚染をめぐっては、7万人を対象にした疫学調査が2005年に始まり、2012年にがんや甲状腺疾患など6つの病気とPFOA曝露との因果関係が証明された。日本で全国一の汚染地域となった摂津市では、18年遅れでようやく健康への影響を調べる動きが始まった。
●動かぬ国に再度要請
この日の会議で意見書案を提出した議員は、公明の村上英明氏、大阪維新の会の塚本崇氏、共産の安藤薫氏、自民の松本暁彦氏の4人。これに対して、議長を除く18人の議員全員が賛成した。
摂津市議会は1年前の2022年3月29日にも、発がん性や低体重児の出生などPFOA汚染による身体への影響を検証することを国に求める意見書を可決している。この時も全会一致だった。
しかし、身体への影響の検証に国が動かないことから、再度全会一致で意見書を可決した。今回の意見書では、国に次のような強い文言で要請した。
「政府に対し、PFOA等についての健康基準を速やかに定めるとともに、高濃度汚染地域での健康影響調査・疫学調査の早急な実施を強く要望します」
●デュポンの資金で調査した米国
摂津市民が不安を募らす大きな理由に、米国でPFOA汚染がたどった経緯がある。
米国ではデュポンが、アラバマ州の工場からPFOAを垂れ流して高濃度の汚染を引き起こした。曝露した工場周辺の住民は、デュポンを相手取って裁判を提起。2004年に、デュポンが住民側に7000万ドル(約80億円)を支払うことで和解した。
和解の際に決まったのが、7万人を対象にした疫学調査だった。費用の500万ドル(約5億8000万円)はデュポンが負担し、調査は独立した立場の科学者たちによる調査会が担った。
7年にわたる調査の結果、精巣がんや腎細胞がん、甲状腺疾患をはじめとする6つの疾患への影響が確認された。
7万人の疫学調査やその後の研究を経て、米国ではPFOAに曝露した場合に対処が必要な濃度が公表されている。2022年7月に発表された、『PFAS曝露、試験、及び臨床的フォローアップに関するガイダンス』(米国科学・工学・医学アカデミー)だ。ガイダンスによると、血中濃度が2ナノグラム/ml以上の人には対処が必要とされている。
摂津で京大チームの血液検査を受けた延べ34人のうち、Tansaが数値を確認できた33人が、この濃度を超えている。
●「高みの見物」のダイキンは非公開会議で
摂津市議会が国に健康調査を求める一方で、ダイキンはいまだに自社の淀川製作所が摂津市で全国一のPFOA汚染を引き起こしていることすら認めていない。
だが米国での動きを知っているし、摂津の住民が「自分たちも米国の住民のようにPFOAによる健康被害が出ているのでは」と不安に思っていることも承知の上だ。
2018年12月、ダイキン・摂津市・大阪府の3者で開催された非公開の会議で、米国での訴訟が話題になったことがあった。摂津市の担当者が、訴訟の論点を尋ねたのだ。ダイキンの担当者はこう答えた。
「体に入って病気になる。自分の体にそういった物質が入ること自体が許せないということ。デュポンの訴訟があり、PFOAと病歴(腎臓等)との関連性はあるとされた。(PFOAメーカーの)3Mやケマーズ等が訴えられている」
=つづく
※この記事の内容は、2023年3月28日時点のものです。
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