医療ガバナンス学会 (2023年6月8日 06:00)
この原稿は月刊集中6月末日発売号に掲載予定です。
井上法律事務所所長、弁護士
井上清成
2023年6月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
すでに、試案は、産婦人科医の中村薫氏(以下「中村試案」という。)、一般社団法人日本助産所会代表理事澁谷貴子氏(以下「助産所会試案」という。)、新生児科医の北島博之氏(以下「北島試案」という。)といった自然分娩推進協会(代表は産婦人科医の荒堀憲二氏)の会員によって各種のものが、原案として提示された。
いずれも、助産所や継続ケア等に特に着目しつつ、正常分娩のみならず、産前の妊婦健診等、産後のケア等をも含めて一体として「保険点数」を試みとして付けたものである。
2.中村試案の序文とその内容
中村試案では、その序文として、次のとおりのことが強調されていた。
「はじめに 将来における産科医師の不足・偏在化により妊娠、出産、産後ケアにおいては助産師の役割が大変重要となる事が予見される。そのため助産師の労務を保険点数化する事が必須であると考えられ、この保険点数原案はそのことを意識して作成した。
また分娩においては助産ケア業務と医療行為は分けて保険点数化しており、さらに医療行為に対しては包括医療制度を導入している。この包括医療制度は1次医療機関における過剰医療の抑制、及びより早い段階での高次医療機関への搬送を促す事を目的とした重要な保険点数制度と考えている。
さらに助産師による妊娠中・出産・産後に至るまでの継続的ケアは幸せな妊娠・出産・育児につながり、より多くの虐待児や産後うつの減少につながる事が期待され、そのため産後ケア継続支援加算も設けている。」
3.保険点数項目
中村試案と助産所会試案の特徴的な保険点数項目を、次に抜粋したい(1点は10円に換算)。
(1)妊婦健診について
・基本健診料―中村250点、助産所会500点
・助産師ケア料―中村620点、助産所会400点
・紹介料
(助産所より助産所又は第1次医療機関へ)―中村200点、助産所会250点
(助産所より第2・3次医療機関へ)―中村・助産所会500点
(2)分娩料について
中村試案の「分娩料」を次に引用する。
「・分娩料は基本分娩料+助産師介助料+新生児看護料+包括分娩医療費で構成される
・包括分娩医療費とは入院時より分娩後24時間までに施行された分娩に関わる医療費を包括し定額支給とする事である
・正常分娩でもある程度の医療行為は発生するので、それを見越して包括医療費を設定している
1)基本分娩料:20000点
基本分娩料へは以下の加算を認める
A:政令指定都市加算 +16000点
B:僻地医療加算
人口10万人以下 +10000点
人口10万人~30万人 +6000点
人口30万人~100万人 +2000点
2)助産師介助料:8000点
・入院より分娩までが24時間を超える場合、分娩介助料を24時間毎に4000点加算し48時間まで8000点を限度とする
・48時間(入院より72時間以上)を超える場合は2次・3次医療機関への搬送が望ましい
3)新生児看護料:3000点
出生当日の新生児看護ケア料
出生翌日からは後述の新生児ケア料を算定
4)包括分娩医療費:6480点(入院より分娩後24時間以内)
・入院時より分娩までが24時間を超えた場合24時間ごとに2100点加算する
上限は4200点(入院より分娩までが72時間以内)とする
・分娩に関わる医療費とは血液検査、超音波検査、CTG、点滴、抗生剤投与、会陰切開縫合術、陣痛促進剤、吸引分娩、臍帯血血液検査、胎盤病理検査、助産院でのクレンメによる会陰処置等を言う(ドプラーによる児心音聴取のみの場合は請求不可)
・助産所での分娩や在宅出産においても上記処置があった場合は包括分娩医療費を請求可能」
助産所会試案によれば、1)基本分娩料は5000点・分娩管理料は300点(1時間につき。割増もあり)、政令指定都市加算2500点・僻地加算1000点、2)助産師直接介助料25000点、サポート助産師料3000点(1名につき)、3)新生児看護料3000点・褥婦看護料3000点、4)包括分娩医療費6480点、5)(助産所における)超音波450点・CTG200点・点滴100点、クレンメ会陰処置100点、ドップラー100点などとなっている。
(3)入院料について
中村試案では「入院料」については、
「 1)入院に関する保険点数は下記ア)~オ)を基本とする
妊娠中・産後入院共に医療費は包括医療費とする
ア)基本入院料:一日につき350点
イ)食事費用 :朝食70点 昼食100点 夕食170点
ウ)入院助産師ケア料:一日につき820点
エ)入院新生児ケア料:一日につき840点
オ)包括入院医療費:入院当日3200点(分娩目的の入院の場合は包括分
娩医療費を請求)
入院2日目~7日目 一日620点(入院7日目まで)
入院8日目~ 一日420点
・8日以上の入院は高次医療機関への搬送を考慮する事
・包括入院医療費については検査、内服薬、処置等すべて含み包括とする
包括入院医療費を超える医療費がかかった場合は差額分を請求可能
・産後入院は重症貧血など医学的問題が無ければ産後6日間を目安とする
・医療処置が不要となったにもかかわらず、母親の育児に対する不安やマタニティブルー等で入院が7日以上となる場合は後述の産後ケア入院費(入院費から包括入院医療費を除いたもの)を請求する
2)死産・流産時の保険点数請求について
A:死産(22週0日以降~)となった場合:
分娩当日より上記2)分娩に関する保険点数を適応
分娩料・助産師介助料・新生児看護料は請求可
B:流産(12週0日~21週6日):包括入院医療費に包括分娩医療費を加算
分娩料・助産師介助料・新生児看護料はその1/3を請求可
C:流産(~11週6日):流産手術等、包括入院医療費を超える費用については差額分を請求可
分娩料・助産師介助料・新生児看護料は請求不可 」
助産所会試案によれば、1)入院基本料650点(1日につき)、2)食事代100点(1食につき)などとなっている。
(4)産後ケア入院料について
中村試案では、
「 ・上記(3)の入院費の内、オ)の包括入院医療費を除いたア)~エ)の点数とし、1か月間に4日を目安とする
・別途投薬などの医療費が発生した場合は従前の保険点数加算とする」
となっている。
(5)助産師産後ケア料について
中村試案では、
「 1)助産師のみの場合: 助産師ケア料620点(1時間以内)
1時間を超える場合 310点加算
2)助産師+医師の場合 助産師ケア料(620点)+医師健診(380点)
3)乳房ケア料: 350点
・助産師による乳房ケアで助産ケア料620点は同時に請求可
・内服薬投薬や切開排膿などの医療処置については従前の点数を追加加算可
・時間外割増請求可」となっている。
助産所会試案では、さらに詳しく、「1)ショートステイ宿泊型 入院1泊2日6500点(入院費・食事代・助産師ケア料・新生児看護料など)、2)デイケア2500点(食事代・助産師ケア料)、3)ショートデイ1250点、4)アウトリーチ800点」などとなっているし、さらに、細かく各種の加算が提案されている。
(6)産後ケア継続支援加算について
中村試案も助産所会試案も、
「産後ケア継続支援加算:680点/月
・褥婦さんへ助産師による産後ケアが1ヶ月に1度でも行われた場合は助産師ケア料とは別に1ヶ月あたり680点を出産翌月より請求可」となっている。
なお、現代的な課題として、「里帰り出産」が多いので、そのフォローが必要であろう。「里帰り出産」の場合であっても、産後ケア継続支援加算を付けられる体制の整備が肝要である。まずは、離れた地域の助産所・診療所の連携、情報の相互提供の体制を築かなければならない。
(7)交通費について
北島試案においては、さらに「交通費」についても、次のとおりに言及されている。
「基本的に交通費は、公共交通機関で間に合う、或いは本人の無理な努力なく可能な場合には私費とする。
交通費の支給は検診も分娩、産褥の検診全てに、以下の場合にはタクシー利用可
この場合には全国において地域のタクシー会社と連携しておくシステム構築する必要あり
分娩機関までのアクセスに通常の公共機関では無理がある場合:
1)低年齢や障がいのある兄弟姉妹を抱えている場合:
近隣のタクシーの保険利用可(施設までの距離は問わない)
2)距離が1km以上ある場合:3kmまではタクシーの保険利用可(分娩施設過疎地は、別に規定)」
4.無痛分娩等について
中村試案では、
「包括無痛分娩費:4800点
・適切な理由や病名がある場合の無痛分娩は保険請求とする
・薬剤使用量、分娩までに要した時間に関係なく包括無痛分娩費として包括する」
とされている。
この点、無痛分娩は、そもそも10万円程度の支給が必要であるとも思われ、それを1万点の保険点数として加算するか、そもそも、保険点数としての加算はせずに、自治体財源からクーポン券の発行などによって賄うべきか、議論の存するところであろう。
なお、その他にも、クーポン券の発行で対処することが妥当なものがあるかも知れない。
たとえば、15万円程度の大都市特例給付金や、マッサージも含めた出産支援給付金(10~15万円程度)も考えられよう。
5.助産所の再興を目指して
「次元の異なる少子化対策」においても、「出産費用等の保険適用」が唱えられている。その保険適用は、何よりも「助産所分娩」を充実させる方向のものでなければならない。それも、1名又は特定の数名の助産師が関わった場合に加算される「継続ケア」を重視したものである必要がある。
「出産費用等の保険適用」を契機に、適切な保険点数を付けると共に、賠償責任保険の整備と嘱託医療機関の配置の諸問題を合わせて解決し、「助産所の再興」を目指していくことが望まれよう。