医療ガバナンス学会 (2023年6月9日 06:00)
今回の上海訪問は、予てよりご縁をいただいている復旦大学の公衆衛生学院への訪問であり、そこで日中共同研究の内容について打ち合わせを行った。とても有意義な議論をすることができ、大変満足した訪問であることは間違いなかった。唯一、復旦大学のトイレを除けば。
なんと、そこのトイレはすべて和式だったのである。私が所属する福島県立医科大学も、同じ「大学機関」であるが、もちろんすべて洋式であり、贅沢ながらウォッシュレットも最新式である。
中国は、たとえ国立の最優秀といえる大学でさえも和式であることに、かなりの衝撃を受けた。もう5年は利用したことが無いであろう和式トイレに、最大限に戸惑いながら、涙をこらえながら、息を毎回止めながら、利用させていただいた。
なぜ和式がこんなにもイヤなのか、もしかしたら疑問に思っている男性諸君に説明したい。
まず、臭いだ。そもそも、文化なのか習慣なのか、中国人のほとんどの人はトイレットペーパーを流さずに、くず入れに捨てる。一説によると、昔は中国に水溶性のトイレットペーパーが普及していなかったので、便器が詰まるため、流さずに捨てる文化になったらしい。それはそれで別に否定はしないが、水溶性が普及し始めているこの令和の時代に、そろそろこの習慣をどうにかして欲しいものだ。
何十人分の蓄積された「拭き終わった」トイレットペーパーが蓋も無いくず入れに捨ててあることを想像してほしい。まさに失神レベルである。更に、汚れもひどい。和式便器周辺の足の踏み場は、ほとんどの場合少し濡れている。ひどい場合は大いに濡れていることもある。なぜなら、女性は、男性ほど「照準」できないのだ。言い換えると、この濡れは、単なる「水」浸しではない。恐ろしくて鳥肌が止まらないレベルである。
今回の滞在は、復旦大学でお世話になっている姜先生のおかげで、歴史豊かな町の温州にある病院や、上場が間近で勢いある企業にも訪問させていただいた。とても貴重な体験をさせていただいたのは言うまでも無いが、どんなに先進的な病院でも、きれいなオフィスビルでも、トイレは決まって和式であり、くず入れが置いてあった。
そもそも、私ですらしゃがむ時の大腿筋がおぼつかないのに、病気のおじいちゃんおばあちゃんにどう使わせる気なのかと疑問に思った。聞いてみたところ、ご老人の場合、専用の椅子を買って和式を洋式のように使うらしい。そこまでするならいっそのこと洋式を設置してみては…?と本気で理解に苦しむことばかりであった。
そもそも、日本はなぜこんなにも洋式が普及しているのか、いつのタイミングで和式から洋式に変遷していったのか、それは経済の発展と関係があるのでは無いか、気になって調べてみた。
どうやら、日本に最初の洋式の便器が入ってきたのは明治時代であり、外国人によって持ち込まれたと言われている。しかし、明治時代や大正時代は、外国人の家や、外国人が多く利用するホテルなどの施設で使われていただけで、一般の人にはまったく縁が無かった。戦後になって、下水道の普及により、トイレが汲み取り式から水洗式になるとともに、洋式化が始まった。そして、1959年に全国の公団住宅で洋式トイレが採用されたきっかけに、洋式トイレは日本の住宅に本格的に普及し始めたとのことだ。
数字で見てみると、TOTOの出荷資料では、1963年、和式トイレの出荷は83%を占めていたのに対し、30年後の1990年には18%、さらに2018年には0.4%まで減少していた。現在日本ではほぼすべてが洋式トイレになっていることがわかる。
最後に、私はあくまでも重度のトイレ潔癖症であることを再度強調したい。すべての人が、私と同じ感覚では無く、むしろ和式に抵抗ない人も一定数存在する。中国の友達に洋式トイレを中国に普及する会社作るのはどうかと相談したところ、「その会社絶対潰れるよ」といわれた。中国人にとってトイレは、あくまでも用を足す場であって、「憩いの場」では無いからとのことだ。しかし、中国でもすべての公衆トイレが和式である訳でもなかった。空港や、高級百貨店、大手銀行などは比較的きれいで清潔感のある洋式トイレになっている。やはり高級感のある場所は、洋式トイレになっているから、今後の中国の発展とともに洋式に変わっていくのを期待したい。私のトイレとの戦いはもうしばらく続きそうだ。