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Vol.23109 宇宙医学、未開拓分野に挑む困難とやりがい

医療ガバナンス学会 (2023年6月26日 06:00)


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この原稿はWeb医療タイムスからの転載です。

京都大学医学部6年
斉藤良佳

2023年6月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●「宇宙医学」という学問

私は京都で学ぶ医学生である。今回は私が取り組んでいる「宇宙医学」という分野について話をしたい。

皆さんは宇宙に行ってみたいと思うだろうか? 宇宙は放射線、微小重力、真空といった非常に特殊で危険な環境であり、体液分布の変化・視力低下など、思いもしない変化が起こる。一般の人が気軽に行けるようになるためには、医学的に安全を担保しなければならない。

そこで登場するのが「宇宙医学」である。宇宙にかかわる人の健康を守り、宇宙環境に関する医学研究を行う学問である。健康管理に関しては、宇宙飛行士専任の医師が存在し、宇宙飛行前から帰還後までサポートする。

研究は、無重力での変化が劇的なのが面白い。実際に実験をしたことがあるが、たった3日で細胞の遺伝子発現がはっきりと変化したときの驚きは今も覚えている。

課題は「宇宙飛行する人が少ない」こと

私は宇宙医学の現状についてより詳しく知りたい思いと、さまざまな人に話を伺った。研究者、NASAと仕事をしている企業関係者、自衛隊、人工衛星の関係者…。皆さんに口をそろえていわれたのは、「宇宙飛行する人が少ない」ことである。

2021年でさえ、職業飛行士19人、旅行者29人である。研究開発が進まず、葛藤することもあるそうだ。しかも、自衛隊の後瀉桂太郎さんによれば、宇宙探査ではこれから自動化・無人化が進み、職業飛行士の役割は減っていくだろうとのこと。

では、宇宙旅行者の増加に期待するしかないが、時間はかかりそうだ。それまでどうすればよいか。

学問の進歩には、学問の行われる場所・学問をおさめる書物・人という3つの要素が必要だという。宇宙医学にはどれも不足している。研究室は数えるほどしかない。また、日本語の書籍は2、3冊しかなく、それも初心者向けの解説本がほとんどである。

●宇宙医学のための2つの取り組み

そのため、現在取り組んでいることは大きく2つある。(1)宇宙医学と学生をつなげること、 (2)教科書を作ることである。 (1)については、参加者350人を超える学生団体「Space Medicine Japan Youth Community」を主宰し、講演会などを運営している。特に企画の中でもJAXAや自衛隊の航空医学実験隊といった施設を訪問するスタディーツアーは好評で、毎回満席である。

実際の実験装置や講師の話、普段お目にかかれない特別ゲストの登場に大盛り上がりし、自分も講師やゲストたちのようになりたい、と刺激を受けて帰っていく。

入会時には「宇宙医学ってなんとなく面白そう」といっていた学生が、団体で学び「〇〇先生のところに通って、△△を勉強しようと思います。将来は〇〇大学院に進んで〜」と自分の興味や夢を具体化していくのを見るのが、私のやりがいとなる。

また、(2)については、日本語の教科書を作れないかと考え、手始めにバイブルともいえる英語の教科書の翻訳に取り組んでいる。学生団体の50人ほどが英文と格闘してくれ、監修として先生方も巻き込む大きなプロジェクトになった。

ただ、出版社に出版を打診するも、「面白いですが、どれだけ売れるか…」と断られ続けている。需要を高めるには学問の進展が必要で、だがそのために本が必要…とのジレンマを抱えているが、何とかして打破しなければ進まない。日々資金集めや交渉に奔走している。

●学生の力でも貢献できるやりがい

宇宙医学は発展途上な分野であるため、学生の小さな力でも、貢献できるのがやりがいである。また、「学生だから、これくらいで」と限界を決められないのがありがたい。

そのためか、学生の数は非常に多く、昨年の学会でも300人ほどの会場に30人以上の学生が参加し、最初のセッションを担った。頼もしい仲間に囲まれていることに感謝をしつつ、これからは、自分の専門性を磨いて貢献したい。

現在は放射線科に進んで、放射線被ばくについて学びつつ、宇宙放射線の健康影響について研究したいと考えている。研修医から数年はどうしても割ける時間が少なくなってしまうが、同年代の仲間とともに学会に参加するなどして継続的にかかわっていけたらと思う。

 

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