医療ガバナンス学会 (2023年6月22日 06:00)
この原稿はAERA dot.(2023年5月3日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2023050200005.html?page=1
内科医
山本佳奈
2023年6月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
その日の午前中から月経が始まり、次第に月経に伴う下腹部痛、つまり月経痛がひどくなっていきました。薬局で購入した痛み止めを内服するも効かず、座っているのが辛くて寝込んでしまう程でした。
そもそも、月経痛はどうして起きるのでしょうか。月経中に増殖する子宮内膜には、子宮の収縮を促すプロスタグランジンという物質が含まれています。このプロスタグランジンの分泌過剰によって子宮収縮の増強がもたらされる結果、痛みを引き起こしてしまうと言われています。
月経痛をはじめとした月経にまつわる不都合についての調査報告があります。ヨーロッパ 6カ国 (オーストリア、ベルギー、フランス、イタリア、ポーランド、スペイン) の 18 歳から 45 歳までの女性 2883 人を対象に行ったオンライン調査によると、対象者のうち45.8%がホルモン配合避妊薬を使用しており、54.2%がホルモン配合避妊薬を使用していませんでした。そして、ホルモン配合避妊薬を使用している女性群に比べて、使用していない女性群では、月経期間がより長く(5日vs 4.5日)、月経量がより多い(16% vs 8%)ことがわかりました。
また、ホルモン配合避妊薬を使用している女性群も、使用していない女性群も、どちらも骨盤痛、腹部の膨満感やむくみ、気分の落ち込みやイライラを訴えていましたが、その割合はホルモン配合避妊薬を使用していない女性群で有意に高かったといいます。そして、選択できるのであれば、両群の57%の女性が、月経間隔を長くすることを選ぶと回答しました。そう希望する理由として性生活、社会生活、仕事、スポーツ活動などが挙げられたといいます。
実は、14年前(20歳を過ぎた頃)にも、同じようなひどい月経痛に襲われたことがあります。その時も、起き上がることができなくなるほどの痛みに襲われました。藁にもすがる思いで婦人科を受診し、その時に初め低用量ピルの存在を知りました。教えてくださった婦人科の先生の勧めもあり、内服を始めました。
低用量ピルを内服して数カ月には生理痛は消え、月経に伴う倦怠感や胸の張りなどもほとんど感じなくなりました。低用量ピルは、21日間毎日飲み続け、7日間休薬しなければなりません。毎日内服するということは、想像以上に難しいもので、特に、社会人になってからは、飲み忘れてしまう頻度が次第に増えていきました。
4年ほど前のある日のこと。毎日飲まないといけないという大変さに加え、2500円ほどの低用量ピルを購入するための毎月の出費と生理用品代が、あと10年以上も続くと思うと、なんだか嫌気がさしてしまい、10年ほど続けていた低用量ピルの内服をやめてしまったのでした。
生理用品も数百円から手に入るものではありますが、初潮から閉経までに必要な生理用品代を考えると、結構な出費になることは間違いありません。2022年3月23日に発表された厚生労働省の調査によると、8.1%の女性が、経済的理由などで生理用品の購入・入手に苦労した経験があると回答し、20代以下では12.9%が苦労したことがあると回答したことがわかりました。理由としては、自分の収入が少ない(37.7%)、自分のために使えるお金が少ない(28.7%)といった回答が多く、生理用品を入手できなかった際の対処として、交換頻度や回数を減らす(50.0%)、トイレットペーパーなどで代用する(43.0%)という回答だったといいます。
生理に関する貧困問題は、最近始まったものではありません。しかしながら、コロナパンデミックが生理的な貧困を悪化させた可能性があることが、近年の調査により明らかとなっています。
2022年11月に掲載された米国のセントルイス大学のHunter氏らが、18 ~ 49 歳の女性1,037 人を対象に行ったオンライン調査によると、対象者の30%が新型コロナウイルス感染症の流行によって生理用品を入手するのが難しくなったと回答し、29%が過去1年間に生理用品の購入に苦労し、18%が生理用品がないために仕事を休んだと回答していたといます。
「月経なんて来なかったらいいのに……」と久しぶりに思ったものの、まだ10年以上、私は月経痛と付き合っていかないといけません。低用量ピルの内服を再開するか否か、考え直さないといけなくなった今日この頃です。