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Vol.23114 加藤厚労大臣、全国一のPFOA汚染地もバイデン大統領の政策も知らず/立憲議員「第二の水俣になるのでは」(シリーズ「公害PFOA」第34回)

医療ガバナンス学会 (2023年7月3日 06:00)


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Tansaリポーター
中川七海

2023年7月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2023年5月10日、衆議院厚生労働委員会で国内のPFAS汚染について議論された。

立憲民主の阿部知子議員は、ダイキン工業による大阪・摂津での汚染を「ダイキンの周辺は世界的にも記録的な値」と指摘し、人体への影響を懸念した。阿部議員は小児科医でもある。

ところが加藤勝信厚労大臣は、全国一のPFOA汚染が大阪・摂津で起きていることすら認識していなかった。さらに、米国政府が本腰を入れて進めるPFAS汚染対策についても「そのものについては承知しておりません」と回答した。

厚労省は人々の健康を預かっている。トップの悠長な受け答えに、阿部議員は「疎い、遅い、危機感がない」と述べ、「第二の水俣になるのではないか」と危惧した。

●加藤大臣の無知(1)「バイデン大統領の政策を知らない」

この日の国会では、約35分にわたってPFAS汚染について議論された。最初に議題に上がったのはダイキン淀川製作所を中心とした大阪・摂津でのPFOA汚染だ。議論にあたって配られた資料には、Tansaの報道が引用された。

阿部議員はまず、PFAS汚染をめぐる世界と日本のこれまでの動きを遡った。その上で、ダイキンと並ぶ大手PFOAメーカー・デュポンが、米国でPFOA汚染による健康被害をもたらしたことに言及。米国では現在、バイデン政府が「PFAS戦略ロードマップ」を策定し、国をあげたPFAS汚染対策を進めていることを指摘した。

ところが加藤大臣は、米国政府が進める「PFAS戦略ロードマップ」を知らなかった。「そのものについては承知しておりません」と答弁し、ロードマップの概要すら答えられなかった。

日本では一昨年、デュポンによるPFOA公害を描いた映画『ダーク・ウォーターズ』が公開されている。先月には、NHK番組「クローズアップ現代」でPFAS汚染特集が放送され、日本だけでなく米国をはじめとする国外のPFAS規制についても紹介されていた。政府自身も、今年1月にPFAS汚染に対応するための審議会を2つ立ち上げている。

にもかかわらず、厚労省のトップが、米国が大々的に進めるPFAS対策を知らないという。だが、加藤大臣の無知はそれだけではなかった。

●加藤大臣の無知(2)「日本一のPFOA汚染地を知らない」

阿部議員は、大阪・摂津でのPFOA汚染に話を移した。

1960年代以降、ダイキンは大阪・摂津にある工場でPFOAを製造・使用してきた。以来、大量のPFOAを敷地外に排出。2021年に法律でPFOAの製造・輸入が禁止された今でも、高い残留性をもつPFOAは工場周辺に蓄積し、環境中や周辺住民の血中から高濃度で検出されている。

阿部議員は、大阪府による昨年の調査で、工場すぐそばで採水した地下水から1リットルあたり2万1千ナノグラムのPFOAが検出されたことを指摘した。政府が定める暫定指針値は1リットルあたり50ナノグラムなので、その420倍もの値だ。阿部議員は「世界的にみても記録的に高い」と述べ、「大臣は摂津の状況をこれまでお聞き及びか」と加藤大臣に尋ねた。

加藤大臣の回答。

「新聞の報道等で読んだが、摂津市だったかどうかは明確ではありません」

●「疎い、遅い、危機感ない」

摂津での汚染を知らない加藤大臣。阿部議員はその後も、東京・多摩地区や沖縄でのPFAS汚染について把握しているかを加藤大臣に逐一確認した。だが、「どこの地域だったかは認識しておりません」、「泡消火剤の漏出と結びついた報道だったことは記憶している」といった具合だ。

質疑は加藤大臣ではなく環境省や内閣府・食品安全委員会の幹部たちにも行われた。しかしいずれも、PFAS汚染にまともに取り組む答弁は得られなかった。

政府の一連の対応を見かねた阿部議員が言った。

「はるかに疎いというか、遅いというか、危機感がないっていうか。そんなことをやっていて、第二の水俣になるのではないかと懸念を強くしています」

=つづく

※この記事の内容は、2023年5月10日時点のものです。

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