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Vol.23115 5類移行後もコロナ報道が続くことに疑問 日米の違いで女医が気づいたこと

医療ガバナンス学会 (2023年7月4日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(2023年5月17日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2023051600003.html?page=1

内科医
山本佳奈

2023年7月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

世界保健機関(WHO)は5月5日、新型コロナウイルスに関する「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」の宣言を終了することを発表しました。テドロス事務局長は同日の会見で、新型コロナについて「新型コロナウイルスがもう世界的な脅威ではない、という意味ではない。新型コロナ感染症は、緊急事態から他の感染症と同様に流行を制御し管理する時期がきた」と述べたといいます。

「コロナパンデミック」は、3年3カ月で終了を迎えたことになりますが、パンデミックの起源に関する最終的な結論は依然として出ていません。しかしながら、今年の3月中旬、2020年の中国武漢の動物売り場や排水溝、屋台、市場の地面などで採取された検体からの遺伝子データが中国の科学者によってデータベースに一時的にアップロードされたようです。束の間ではありましたが、情報へのアクセスが可能となった結果、多くの研究者がそれらの情報を入手することができたといいます。

これまでの調査報告によると、新型コロナウイルスの起源はおそらくコウモリから発生したのであろうことが言われていました。しかし、今回一時的にアクセス可能となったことで判明したウイルス配列やゲノム情報を解析した研究によると、新型コロナウイルスのパンデミック初期のデータは、人間に到達する新型コロナウイルスにおけるタヌキの役割を示唆することを含む、その起源に関する新たな情報を提供するものであったといいます。

さて、日本でもGW明けの5月8日に、新型コロナウイルス感染症における感染症法上の分類が「2類相当」から「5類」に移行されました。分類の移行に伴い、新型コロナウイルス感染症は「感染した時の重篤化など危険性が高い感染症」から「一般的な感染症の一つ」として認識されることになり、感染対策などは個人や事業者の判断に委ねられることになりました。

都内に住む友人からは、「やっとマスクを外せるようになって嬉しい」という連絡が舞い込んできました。その友人は、GWには両親の住む中国にも一時帰国できたようで、「やっとこれまでのように行き来ができるようになった」と、とても喜んでいました。「いつ両親に会えるか分からない、もう会えないかもしれない……」という不安に押しつぶされそうになり、一時は食事も通らなくなってしまったほど落ち込み苦しんでいた彼女でしたが、すっかり元気になっている様子に私も嬉しくなった出来事でした。

私が昨年末から長期滞在している米国でも5月11日、2020年1月に出された新型コロナウイルス感染症に対する公衆衛生上の緊急事態宣言が終了しました。それに伴い新型コロナウイルス対策チームも解散されています。空路で入国する外国人に求められていた入国制限であるワクチン接種証明書の提示義務も撤廃され、5月12日からワクチン接種証明書の提示も不要となりました。

「日本のように、きっとアメリカでもコロナの緊急事態宣言の終了がトップニュースになるのだろう」そう思っていた私の予想は大幅に外れ、コロナの公衆衛生上の緊急事態宣言が終了したことは私が見ていたニュース番組では触れられることはありませんでした。その日のニュース番組で扱われる報道の中心は、5月11日米国東部夏時間午後11時59分で失効した「タイトル42」と呼ばれる不法移民希望者の流入制限措置に関するものだったのです。

「タイトル42」とは、2020年3月、トランプ前大統領が大統領令で公衆衛生法に則って不法越境者を即刻追放する政策として導入したものであり、77年前に制定された公衆衛生法の条項で「伝染病を持つ可能性のある国からの米国入国を阻止することができる」ということから、新型コロナウイルスの感染拡大を理由に、不法越境者を即時にメキシコに追い返す法的根拠となっていたといいます。

恥ずかしながら、私はこの報道をもって、「タイトル42」と呼ばれる不法移民希望者の流入制限措置が導入されていたことを知りました。日本の報道を見る限り、地震や強盗、殺人事件など日々のニュースに加えて、コロナの感染症上の分類が変わって生活はどう変わるか、といったことなど、コロナに関するニュースが依然として多く報道されているように感じますが、アメリカではそういった報道は私が知る限り無く、移民問題や銃、差別問題や債務上限問題、金利引き上げなど、コロナ以外の問題が大半であり、コロナだけが問題ではないことを日々気づかせてくれているような気がしてなりません。

さて、WHOで緊急事態対応を統括しているマイク・ライアン氏は「コロナの緊急事態は終わったかもしれないが、脅威はまだそこにある。新型コロナウイルスは今後も感染し続ける。これがパンデミックの歴史だ。ほとんどの場合、パンデミックは次のパンデミックが始まった時に本当に終息する。」といいます。次のパンデミックは起きてほしくないと、願うばかりです。

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