医療ガバナンス学会 (2023年7月11日 06:00)
鹿児島県 志布志市 井手小児科
井手節雄
2023年7月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
事の始まりは、イーライ・リリー社の排尿障害治療薬ザルティア(タダラフィル、選択的ホスホジエステラーゼ5阻害剤)の副作用による低血圧の発症でした。低血圧により脳貧血発作を発症し、2週間ほど寝込みました。
添付文書には、タダラフィルは選択的ホスホジエステラーゼ5阻害剤と記載されていますが、実はホスホジエステラーゼ11も阻害する薬でした。
タダラフィルは選択的ホスホジエステラーゼ5阻害剤として1995年に物質特許を取得していますが、その5年後の2000年にホスホジエステラーゼ11(PDE11)が発見されて、選択的ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害剤として開発されたタダラフィルは実はホスホジエステラーゼ11(PDE11)も阻害する薬であることが判明しました。創薬における通常ありえないイーライ・リリー社の不運でした。
ここから、イーライ・リリー社の騙しのテクニックが始まりました。誤誘導という手法は、心理学の専門家によって仕組まれる騙しのテクニックです。一般の人が誤誘導を見破ることはできません。
イーライ・リリー社はタダラフィルがホスホジエステラーゼ11(PDE11)を阻害することの危険性に気付かれないために、誤誘導という手法で添付文書にからくりを仕組んで製造販売承認審査もすり抜けました。
そして、専門家と言われる医師たちも、タダラフィルがホスホジエステラーゼ11(PDE11)を阻害することの危険性に気付くことはできませんでした。
それよりも驚くべきことに「狂気の創薬」と言えることがなされていました。イーライ・リリー社が販売している肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療薬アドシルカは、PAHの患者にとっては絶対禁忌の薬でした。
ザルティアの1日の用量は5㎎です。アドシルカの用量はその8倍の40mgです。私は、ザルティア錠5㎎を1年ぐらい服用したところで、94/56mmHgという低血圧が起こりました。
PAHの患者の死因は25%が突然死で、50%が右心不全による死亡ですが、アドシルカによりPAHの患者に低血圧が起こった場合、右心不全による突然死を意味します。
1日5㎎の使用で低血圧を起こす薬が、低血圧が突然死に繋がるPAHの患者に、その8倍の40mg使用されていることに、愕然とするような恐怖感を覚えました。
イーライ・リリー社はタダラフィルがホスホジエステラーゼ11(PDE11)を阻害することの危険性を承知の上で、PAHの患者に絶対禁忌の薬を治療薬として販売していました。(現在、アドシルカとザルティアの製造販売は日本新薬が引き受けています)
タダラフィルがホスホジエステラーゼ11(PDE11)を阻害することでcAMPの分解が阻害され➡リン酸化酵素であるプロテインキナーゼAの活性化が起こり➡ミオシン軽鎖キナーゼがリン酸化されます➡その結果ミオシン軽鎖のリン酸化が起こらず➡「アクチンとミオシンの滑走阻止」が起こり血管平滑筋は廃用性萎縮に陥り➡細動脈の血管トーヌスの低下が起り➡低血圧が発症します。
私は、裁判において分子生物学的な説明でタダラフィルの危険性を主張しました。しかし、イーライ・リリー社によって誤誘導された裁判官に「原告独自の理論である」と退けられました。最高裁も不受理の決定でした。
タダラフィル事件は、誤誘導という手法で添付文書にからくりを仕組んで専門家も騙し、絶対禁忌の薬を難病患者の治療薬として販売するという医薬品の歴史において例を見ない事件です。
難病患者の命の軽視は決して許されることではありません。皆さまにアドシルカの危険性を取り上げていただけないものかと思っています。
タダラフィル事件は、添付文書のからくりにしても、アドシルカの狂気の創薬にしても「薬品メーカーがそんなことをするはずがない」、という心理的な正常性バイアスの裏をかいた事件でした。
添付文書にからくりを仕組み、絶対禁忌の薬を販売するなど、このような犯罪行為が見逃されるべきではありません。世界の正しい医療のためにタダラフィル事件が公にされることを願います。
PAHという病気の死因は突然死です。アドシルカの副作用によるPAHの患者の死亡も突然死です。イーライ・リリー社はここまで計算に入れてアドシルカの創薬に踏み切ったのでしょうか。
アドシルカは2009年12月に希少疾患治療薬として特例承認されています。希少疾患治療薬としての恩恵も多く1錠1800円という高価なもので1日の薬代は3600円になります。特例承認の在り方なども問題になる薬のようです。
タダラフィル裁判の結審に当たり、メルマガ配信を勧めていただいた上昌広先生に心から感謝します。