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Vol.23153 乳腺外科医として製薬企業と付き合うアンビバレンス

医療ガバナンス学会 (2023年8月25日 06:00)


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この記事は、2023年7月15日に医薬経済に出版された記事を改変したものです

医療ガバナンス研究所
医師 尾崎章彦

2023年8月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

節操がない。製薬企業に対しての筆者の実感だ。筆者は18年に、福島県いわき市で乳腺外科を立ち上げ、現在では、県内でも指折りの規模となった。その結果、〝喜ばしいことに〟彼らからのアプローチが増えている。ついに、筆者も、彼らのお眼鏡に適ったわけだ。

驚いたのが、6月下旬に実施された第31回日本乳癌学会の学術集会だ。筆者のポスター前に見慣れた顔があると思ったら、第一三共の担当者だった。事前に発表時間を調べて、わざわざポスター発表を聞きに来てくれたのだ。

「楽しみにしていました」と笑顔を浮かべる彼は、まさにMRの鑑。そんなあからさまなおべんちゃらを冷静に受け流すことは、日頃製薬マネー問題を批判している人間として、最低限の嗜みである。

ところがだ。自身の取り組みに関心を寄せてもらえば、素直に嬉しく思ってしまうのも人情である。この辺り、MRは世間知らずな医者の手懐け方をよく理解している。

その点、「是々非々」と自身に言い訳しながらMRと付き合う筆者は、製薬企業以上に、節操がないのだろう。製薬企業との「守らなくてはならない一線」を厳しく意識している筆者のような人間でさえ、この体たらくだ。救い難い医療界の病痾と言えるだろう。

そこで牽制するように(たぶん本当はアンビバレントな自らに言い聞かせるように)、自分が製薬マネーデータベースの作成を率いており、今後この問題につき情報提供したい旨、MRの彼に快諾させた。

ただ、「あの有名なデータベースは先生がやっていたのですね!」と言って、最後まで営業スマイルを崩さなかった彼が、筆者より一枚も二枚も上手だったのは言うまでもない。筆者のような心の拠り所がなければ、いよいよ良いように操られてしまっていただろう。

ただ難しいのは、〝踊らされる〟のを一切拒否するのが正解とも言えないことだ。実際、この領域で名前を売りたいなら、彼らが用意した舞台で踊ってなんぼである。

すなわち、製薬企業が主催する全国講演会で座長や演者を務めたり、彼らが主催する国際臨床試験で恩を売って「名誉白人」としてニューイングラント医学誌やランセットに掲載される論文に名前を連ねることで、初めて「一流研究者」として認めてもらえるのだ。

筆者のように製薬マネー云々と斜に構えた態度を彼らに向けても「百害あって一利なし」、業界で村八分に遭ってしまう。では、乳腺領域でどれほどの医者が製薬企業に〝踊らされている〟か。

今回、21年時点で乳腺専門医だった1733人について、16年から19年にかけて製薬企業から支払われた謝金を分析したところ、総額は約14億5296万円、中央値は約22万円だった。また、1000万円以上の謝金を受け取っていたのは、28人だった。

謝金の支払いが最も多かったのは中外製薬(約3億2391万円)で、それを、エーザイ(約2億1119万円)、アストラゼネカ(約1億6704万円)、ファイザー(約1億5207万円)が追う。

業界では、中外製薬が抗HER2療法でプレゼンスを発揮してきたが、第一三共のほか、ファイザーなども新薬を発売、営業活動を激化させている。その結果、〝踊り手〟のマンネリ化が顕著となっており、新しい〝スター〟が求められているのが実態だ。

ただ、心配は無用である。魑魅魍魎とした乳腺業界で、筆者のようなアンビバレンスを抱えている医者は皆無だからだ。今日も業界では、踊り手の座をめぐるオーディションが繰り広げられ、医者は企業の期待に応えようと汗をかいている。そんな乳腺業界の節操のなさに呆れつつも、どこか人間の恥部を覗き見るような楽しみを覚えている筆者は、やはり一番節操がないのだろう。

 

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