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Vol.23165 第95回薬のおカネを議論しよう 診療GLとCOI、中国コラボが教えてくれること

医療ガバナンス学会 (2023年9月19日 06:00)


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この原稿は、2023年8月15日に医薬経済に掲載された記事を転載したものです。

医療ガバナンス研究所医師
尾崎章彦

2023年9月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

7月28日と29日、長崎市で開催された第55回日本医学教育学会大会で、診療ガイドライン(GL)における利益相反(COI)をテーマに、シンポジウムを主宰した。きっかけは、蘭州大学EBMセンターのチェン・ヨーロン教授とのコラボレーションだ。中国北西部甘粛省に位置する蘭州大は、中国の重点教育機関に当たる「双一流」の一角を成す。チェン教授は40歳代前半だが、EBMを主要なテーマとして強力なチームを率いており、生産性は極めて高い。

チェン教授が14年に立ち上げ、主宰してきたのが、国際的なネットワーク「RIGHTワーキンググループ」。診療GL標準化のためのチェックリストやアルゴリズムの発行などが、主な取り組みだ。

筆者は今回、チェン教授のオファーを受け、診療GLにおけるCOIと資金提供申告に関するチェックリスト「RIGHT COI&F」作成に関わった。また、日中韓の診療GL専門家を対象に、COIや資金提供に関する意識や知識の程度を評価するオンラインアンケートを共同で実施した。

シンポジウムの趣旨は、RIGHT COI&Fの紹介とオンラインアンケート結果の報告、それを受けて、日本でのRIGHT COI&Fの普及可能性を議論することだ。日本の診療GL作成に長年関わってきた京都大学の中山健夫教授をお招きし、日本の状況についてもご説明いただいた。

RIGHT COI&Fの要点は、診療GLのCOIや資金提供の基準はできる限り具体的かつ明瞭にすべきというものであり、そのコンセプトのもとに21の項目が定められている。また、診療GLの作成のみならず、作成指針の策定や診療GLそのものの評価にも役立てることができる。実際、筆者らが実施したアンケート調査では、74%の参加者が診療GLにおけるCOIや資金提供に関する指示が不明瞭であると答えていた。その点、RIGHT COI&Fは現場の懸念を正確に捉えている。

興味深かったのは、日本の国内ルールも同じ方向で改善をめざしていることだ。中山教授も関わって23年6月に日本医学会が発行した新基準では、深刻なCOIを背景に、「推奨決定の際に棄権した参加者を公開すること」「診療GLを発行した学会の利益相反を公開すること」「GL著者のCOIを閲覧可能とするQRコードやURLを準備すること」などが推奨されている。日本医学会や日本医療機能評価機構Mindsによる取り組みとの共通点を踏まえ、中山教授がRIGHT COI&Fの国内普及を応援すると明言してくださったのは心強かった。

これを受けチェン教授のチームと筆者は、RIGHT COI&Fの日本への普及に動き出している。RIGHT COI&Fが日本の診療GL作成にどう貢献できるか、議論していく予定である。

例えば、RIGHT COI&Fの普及によって解決を図れる可能性のある課題が、COIや資金提供申告に対する診療GLごとの取り組みのバラツキを減らすことだ。解決に向け、日本医学会の指針の徹底に加えて、現場レベルでのRIGHT COI&Fの利用を啓発したい。

一方で、RIGHT COI&Fが貢献できない課題も存在する。とくに診療GL作成への参加を許容するような金銭的COIの基準は、日本では寛容である。例えば、特定の企業から受け取る講演講師謝金が100万円未満であれば、GL委員長を務めることができる。米国の予防医学専門委員会などは製薬企業との間にCOIがあるような委員は一人もいなかった。ただ、COIの許容範囲について、RIGHT COI&Fが貢献できることはない。医師が診療GL作成の大部分を担う日本の特殊性はあるが、海外の潮流も踏まえ、より厳格な対応を求めていきたい。

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