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Vol. 380 厚労省依存から患者中心の医療へ

医療ガバナンス学会 (2010年12月15日 06:00)


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東京大学医科学研究所 村重直子
2010年12月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


10月15日、朝日新聞一面トップに「東大医科研でワクチン被験者出血、他の試験病院に伝えず」と題する、出河雅彦編集委員と野呂雅之論説委員の記名記 事が掲載されたことは記憶に新しい。この記事に対し、「事実と異なる点が多数」「読者を誤った理解へと誘導する」などとして、現場の患者・医療関係者たち から矢継ぎ早に抗議活動が起きた。例えばこの記事には「医科研ヒトゲノム解析センター長の中村祐輔教授がペプチドを開発し、臨床試験は08年4月に医科研 病院の治験審査委員会の承認を受け始まった」とあるが、清木元治・東京大学医科学研究所教授のコメントには「本件のペプチド開発者は実は別人であり、特許 にも中村教授は関与していません」とある。

「医師の自律」という観点から特に注目したいのは、秋山耿太郎・朝日新聞社社長と「報道と人権委員会」に対して抗議文を送ったCaptivationネッ トワークの行動である。10月29日の抗議文には臨床研究責任者76名、11月12日の再抗議文には170名もの医療者が賛同し、自律的に実名を連ねたこ とは、歴史に残る画期的な出来事であった。

これこそ、中村祐輔氏が、約3年かけ延べ150回以上にわたって全国各地へ足を運び、現場の医療者たちとの信頼関係を築いてきた証であろう。最後まで患 者に寄り添う熱い思いを持つ、全国の医療者たちが、患者の希望を実現できるかもしれないと、中村祐輔氏の研究に賛同して発足したのが Captivationネットワークである。北は北海道から南は沖縄まで、各地の医療者たちの、患者のためにより良い治療を開発したいと願う真摯な思いが 伝わってくる。医療費抑制の中で人件費も抑制され、極度の人手不足にある医療現場で、通常診療に加えて臨床研究を遂行するのはたやすいことではないから だ。

一方、厚労省によって作られた臨床研究グループが、このような自律的な行動をとることは期待できない。これまで数えきれないほどたくさんの研究グループ が、厚労省の研究費、補助金、拠点病院、治験活性化計画など様々な形で作られてきたが、専門家として自律した言動はあまり見たことがない。「お上」の指示 がなければ動けない、あるいは「お上」の顔色をうかがって、科学者として言うべきことも言えないような研究グループでは、患者のための治療開発を成し遂げ るのは難しい。

むしろ、厚労省の「お墨付き」をある特定のグループに与えることによって、全国のグループの研究や発言を封じ込めることになる。言論統制をかけて医学の進歩を阻害する、極めて危険な影響があることを忘れてはならない。

今後も、厚労省のためではなく患者のために、現場の医療者たちから自律した言動が巻き起こることを期待している。

(本稿は「医療タイムス」2010年11月29日号掲載 を転載したものです)

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