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Vol.23169 日本の経済発展への課題「心理的安全性の回復」

医療ガバナンス学会 (2023年9月26日 06:00)


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公認心理師:オフィスイーストLLC代表
八木澤まり子

2023年9月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

近年、世界的に労働者のイノベーション志向が重視されています。例えば、世界経済フォーラムでは2025年の労働者に最も必要とされるスキルを”analytical thinking and innovation”と予測しています。その為、労働者がイノベーション能力を発揮しやすい環境整備、特に心理的安全性の充実が教育現場や企業では急務の課題です。何故なら、心理的安全性が高い環境では、個々が自分のアイデアを自由に表現し、リスクを取ることができるため、新しいアイデアやイノベーションが生まれやすくなるからです。一方で、心理的安全性が低い環境では、人々は意見を言いにくく、自己表現を抑えがちなため、生産的なインスピレーションを感じる機会が制限されてしまいます。

こうした世界的なトレンドに反して、残念な事に日本の企業・学校のメンタルヘルスは依然低いまま推移しており、日本の経済成長の足枷となっています。例えばこれまでに厚生労働省が推奨してきた労働者のメンタルヘルス政策は著しい成果が上がっていません。理由はいくつかありますが主には心の専門家への過度の依存が、個々のピアサポートの自主性にネガティブな影響を与えている可能性があります。詳しくはSpringer Nature ”Current Psychology”へ掲載されたコメンタリー(https://doi.org/10.1007/s12144-023-04881-x)にてご紹介しています。

また、学校現場では国策により心理カウンセラーの配置は進んでいますが、不登校と子供の自死率は上昇し続けています。既に2022年時点で不登校者数は20万人を越え、小学校から高校生徒の年間自死者数は500名を超えており過去最多となりました。日本の若者のメンタルヘルスは悪化の一途を辿っており、日本は先進国中で若者の死因のトップが「自死」である唯一の国です。これは警戒すべき事態です。

その背景として参考になるデータがあります。2022年のNHKによる中高生の保護者アンケートでは、日本の将来に「希望が持てない」と回答した親は父親・母親共にそれぞれ8割を超えました。中高生の親世代は会社組織では働き盛りの年代のため、このデータは日本の経済を牽引する層の不安感が総じて高い事も示しています。こうした情緒的環境下で子供達が過ごしているのは不登校や自死の背景環境として重視すべき点です。

日本では、教育と産業の分野の問題はしばしば別々の課題として議論されるのですが、社会システムの帰結としてのメンタル不調・若年層の自死・不登校として捉える視点は重要です。そして、これらのメンタルヘルスの課題の改善に取り組むために、まずは、現在の日本社会における心理的安全性の不足が日本人の間で広く認識される必要があります。これからは薬物療法やカウンセリングなどの対症療法に頼るのではなく、私たち一人ひとりが積極的に自己と他者のウェルビーイングについて考え、行動し、社会の構造自体を改善することが喫緊の課題です。こうして現状を分析的に考え(Analytical thinking)、「心理的安全性」をイノベーティブに回復し(Innovation)、誰もがイノベーションマインドを発揮できる環境を整えた先に、日本の経済発展があるのではないでしょうか。

 

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