医療ガバナンス学会 (2023年10月27日 06:00)
この原稿はAERA dot.(2023年9月6日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/articles/-/200612
内科医
山本佳奈
2023年10月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
案の定、1時間ほどの渋滞につかまりながらも、ロサンゼルスから自宅のあるサンディエゴに帰宅したのが16時ごろです。帰宅した頃からでしょうか。少しずつ咳が出始め、喉がいがらっぽく感じるようになりました。
2023年9月3日時点で、サンディエゴの日の入り時刻は19時11分です。そのため、16時という夕方の時間帯とはいえ、まだ日中のような明るさでした。そんなとき、ふと気がついたのが、サンディエゴの方がロサンゼルスよりも、空気がクリアなことでした。両都市とも、青空が広がる晴天の日であったにもかかわらず、ロサンゼルスの方が、ガスがうっすらかかっていたような気がしたのです。
●ロサンゼルス市の大気汚染は深刻
気になって調べたところ、近年のロサンゼルス市の大気汚染は深刻であり、その周辺の群も同様に、深刻な健康問題を引き起こす可能性のオゾンまたは粒子汚染が存在する地域であることが指摘されていることがわかりました。
22年初め、アメリカ肺協会は18年から20年のデータを分析した、アメリカの都市における大気汚染に関する年次報告書「State of the Air 」を発表しています。この調査報告によると、アメリカでは10人に4人(約1億3500万人)が現在、オゾンまたは粒子に汚染された空気の場所に住んでいるといいます。さらに、米国人口の約 6.4% に相当する 2,000 万人以上が、年間を通じた粒子状物質(PM 2.5)の汚染レベルがアメリカの大気質基準よりも悪い 15 の都市のいずれかに住んでおり、その15の都市のうち、5位にランクインしたのがロサンゼルス(年間 のPM2.5 :14.2 μg/m 3 )だったと言います。
ちなみに、この大気汚染の深刻な15都市のうち、8都市はカリフォルニアの都市です。カリフォルニアにおける大気汚染に影響を与える4つの主な要因 として、車の排気ガスや化石燃料の生産、気候変動による山火事の長期化、熱波によるオゾンの生成などが考えられています。
●大気汚染はからだにどんな影響?
では、大気汚染は私たちのからだにどんな影響を及ぼすのでしょうか?肺協会のウィル・バレット氏 は、大気汚染の健康への影響について「ちょっとした炎症や咳、喘鳴から喘息発作、心臓発作や脳卒中まで、健康への影響は多岐にわたる。粒子状物質を吸い込むと肺がんになる可能性もあり、オゾンも粒子状物質(PM 2.5)も早期死亡の原因になる可能性がある」と指摘しています。
また、21年3月に発表された復旦大学のXia氏ら が世界398都市を調べた研究報告によると、大気汚染物質・二酸化窒素(NO2)が多いほど死亡全般、心血管原因の死亡、呼吸器原因の死亡が増えることがわかり、それら398都市の死亡の1.23%が大気中のNO2に起因すると推定されたと言います。
さらに、ハーバード大学のElissa氏らは、51試験のメタ解析の行なった結果、大気汚染物質であるPM2.5の濃度が高いことと、認知症をより生じ易くなることが関連するかもしれないことが示唆されたということを報告しています。
幸い、私の咳は数日で次第に治りました。念のために自宅で実施したコロナ検査でも陰性だったことから。風邪だったのだろうと推測していますが、今回の咳をきっかけに、天気予報のアプリに表示されている空気汚染の程度もチェックするようになりました。紫外線疲労予防とともに、空気汚染をチェックし、空気汚染がひどい時は外出を控えるよう気をつけたいと思うようになりました。