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Vol.23201 長崎の塾経営者から共同通信への訴え(シリーズ「保身の代償 ~長崎高2いじめ自殺と大人たち~」共同通信編 第16回)

医療ガバナンス学会 (2023年11月10日 06:00)


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Tansa リポーター
中川七海

2023年11月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

共同通信の記者・石川陽一は、社内で孤立していた。

文藝春秋から出版した著書『いじめの聖域』で、長崎新聞を批判したことで審査委員会にかけられても、上司や同僚、労働組合は石川を助けようとはしなかった。

だが、一人の人物が共同通信の審査委員会に意見書を送った。

長崎市内で塾を経営する佐々木大である。

●「事なかれ主義」の教育行政

2023年1月10日、佐々木大は、長崎市内にある自身が営む学習塾の片隅で、「『いじめの聖域』に関する意見書」を書き上げた。正月返上で取り組み、ようやく完成した。

宛名には「共同通信社 御中」。冒頭でまず意見書の主旨を述べた。

「標題の書籍についてご意見申し上げます。本書の発行は長崎において二つの価値を有します。一つは、第三者委員会報告書を海星が拒否を続けている前代未聞の実態の詳細が書籍の形で残されたこと。そしてもう一つは、このような事態を生む温床となった行政やメディアのなれ合い体質を客観的に知ることができたこと。特に健全な批判力を失った地元メディアの責任は大きく、敢えてそのことを発信してくれた本書に対する評価の声を交えながらご報告します。」

佐々木は、長崎で生まれ育った。高校を出たあと上京し、東京にある大学に進学。卒業後は東京の出版社で29年間働いた。2017年、地元・長崎にUターンして学習塾を開いた。小中高生30人を預かり、長崎大学に通う学生が勉強を教えている。海星学園の生徒もいる。

佐々木が長崎の子どもたちを預かるようになって驚いたのは、長崎の教育界が子どもたちを第一に考えておらず、しかも閉鎖的だということだ。

「子ども達の人権を蔑ろにし、校則と内申点の配分で生徒達を締め付ける、時代錯誤の教員たちから長崎の子ども達を救いたいと小中高を頻繁に訪問し、県教委や市教委にも何度も問い合わせを重ねましたが、本書に度々記載されているような「事なかれ主義」となれ合いの蔓延でなかなか改善が進まない5年間を送っていました。」

佐々木と石川の出会いは、2020年11月だ。石川が、福浦勇斗(はやと)の自殺事件で放ったスクープ記事「海星高が自殺を『突然死』に偽装/長崎県も追認、国指針違反の疑い」を読んだのがきっかけだ。

佐々木は石川の記事を読み、「よくぞ、明らかにしてくれた! 」と思った。

大学の同級生が共同通信で働いていた。佐々木はその友人に連絡をとって、石川を紹介してくれないかと頼んだ。友人は「共同通信ではめずらしく、ガッツのあるジャーナリストだから、面倒見てやってくれ」と佐々木に言い、石川を紹介した。

●私立校の管理職からも好反応

勇斗の自殺をめぐる一連の事件について、石川から話を聞いた佐々木は驚いた。著書を読んだが共感する内容だったし、周囲の反応もよかった。県内にある私立中高の管理職2人から、著書についてのコメントが寄せられたことも意見書に書いた。

「お二人とも単に海星の問題とは捉えておらず、長崎の教育者全体が向き合うべき重要事項だと当事者意識を持って受け止めています。『購入します。そして戒めとします。いじめ防止と先生の言動注意を毎日戒めています。』『書籍アマゾンで購入し、早速読了しました。土曜日から横浜などに来ていましたが、販売していました。非常に良く書かれていましたね』」

一方で、共同通信の石川への追及が、長崎新聞からの抗議を受けてのことだと知って納得した。佐々木自身、長崎新聞には苦々しい思いをした経験があるからだ。

2021年2月10日、佐々木は、いじめを隠蔽しようとする海星学園に説明を求めるための署名活動を立ち上げた。長崎県庁にある県政記者クラブで記者会見を開いたのだが、その直後、佐々木は県の職員から信じられないことを聞いた。

佐々木はその時のことを意見書の中で説明し、長崎新聞の抗議を聞き入れる共同通信の矛盾を突いていく。

=つづく
(敬称略)

※この記事の内容は、2023年6月8日時点のものです。

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●シリーズ「保身の代償 ~長崎高2いじめ自殺と大人たち~」https://tansajp.org/investigativejournal_category/hoshin/

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