医療ガバナンス学会 (2023年12月7日 06:00)
三豊総合病院 卒後臨床研修センター
遠藤通意
2023年12月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
今年の8月上旬、Lancet誌に提出した2つのレターが、ほぼ同時に受理され、10月28日の同誌に1つ目が掲載された。
これまで20回以上もの「拒絶(reject)」通知を受けており、いつものようなメールかと思って確認した。しかし、この日は通常と異なるメールが届いていた。そのメールには、「受理(accept)」という言葉があったのだ。
最初は目を疑った。疑念が拭えず、英訳アプリを何度も利用し、メールの送信元アドレスを確認するなどを念入りにしたが、やがてそれが現実であることが分かり、喜びが湧き上がってきた。
私は、香川県西部に位置する三豊総合病院で初期研修医。今年で2年目だ。
出身は東日本だが、縁があってこの病院で研修している。初期研修と並行して、約3週間に1度のペースでレター執筆に取り組んでおり、現在(11月27日現在)、30本のレターに取り組んでいる。
●知識不足が大きな課題に
レターが受理されるまでの道のりは容易ではなかった。中でも、最も大きな課題は知識不足だった。大学での医学の学習を通じて得た知識だけでは、レターの執筆に必要な高度な専門知識には及ばなかった。
特定の疾患についての知識不足だけでなく、診察したことのない患者像を具体的に描写する難しさにも直面した。しかし、これらの課題以上に、調査ツールの適切な使用方法、論文の読み方、思考力、歴史的背景などの基本的な知識、スキルが不足していた。
最初はPubmed(世界の医学系雑誌の掲載論文の書誌情報を調べることができるデータベース)を大学の授業で触れただけで、トップジャーナルも数回しか読んだことがなく、これらのリソースを効果的に活用する方法を習得するのは容易ではなかった。
自己学習のプロセスを繰り返し、レターを指導してくださる医療ガバナンス研究所理事長の上昌広先生から助言を受けながら、試行錯誤の日々を過ごした。
また、論文を読んでも、その内容の重要性や新規性が理解できないことが多かった。読んでも、「そうなのか」という感想にとどまり、十分な議論の基盤を築くことができなかった。これらの課題に立ち向かうためには、とにかく論文を中心にさまざまなものを読みあさって、継続的な試行錯誤と時間の投資が不可欠だった。
●孤独の中で苦労した仕事との両立
2つ目の大きな課題は、仕事との両立だった。初めての医師としての仕事は、知識やスキルが不足し、日々学ばなければならないことが山積みだった。
できないこと、やらなければならないことばかりの中で、患者さんを前にして無力感を感じたり、仕事の人間関係で苦労したり、自分の未熟さを痛感したりした。そして、これに加えてレターの作成過程や結果が芳しくないことが重なり、自信を喪失することもあった。
また、周囲に同じような活動を行っている仲間がいなかったことも、私に影響を与えた。レターの執筆を継続したい気持ちがあっても、疲労やストレスがたまったとき、それが重荷に感じられることもあった。
そうした瞬間に、それを共有できる人がいなかったため、孤独を感じることもあった。他の人からは、医局で休日でもコンピューターとにらめっこしている奇妙な研修医として見られていただろう。
時折、「何をしてるの?」と尋ねられ、答えると「それは意味があるの」や「アカデミックなことは興味ないからな」「すごいね」という反応が返ってくるだけだった。このような環境の中で、ハレーションに負けずに着実に進むよう努めた。
●自身の成果を得ることが大きな励みに
そういった中でも、私が至らないことが多いにもかかわらず、上先生がお忙しい中遠隔で継続的に指導してくださったことは、とても大きな支えとなった。
レターが受理されるまで、できないことからくる無力感や、周りと比較して何も成し遂げていない焦燥感を感じていた。しかし、自身の成果を得ることができたことは、大きなきな励みとなった。
これからも周囲の支えてくださる皆さんに感謝を忘れず、淡々と努力を続け、さらなる成長を遂げていきたい。