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Vol.24006 遺族「いじめで苦しんだ子どもの尊厳が、学校・県・長崎新聞によって、抹殺されるような恐怖を抱いた」(シリーズ「保身の代償 ~長崎高2いじめ自殺と大人たち~」共同通信編 第20回)

医療ガバナンス学会 (2024年1月11日 09:00)


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Tansaリポーター
中川七海

2024年1月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

共同通信の審査委員会に対して、意見書を提出した福浦勇斗(はやと)の母・さおりと、父・大助。共同通信の記者・石川陽一が著書『いじめの聖域』で、長崎新聞を批判したのは当然だと根拠を挙げながら9ページにわたって綴った。執筆を担ったのはさおりだ。

さおりは意見書の中で、長崎新聞のある報道について「恐怖を抱いた」と表現する。

●「我がまちの新聞社」だけが県を擁護

2020年11月17日、石川は「海星高が自殺を『突然死』に偽装/長崎県も追認、国指針違反の疑い」というスクープを共同通信から報じた。Yahoo!ニュースではトップページに載り、その日のテレビニュースで何度も取り上げられ、長崎県庁には抗議の電話が殺到した。

翌18日、県総務部が緊急の記者会見を開く。県は「追認」が不適切だったと認め、遺族に対して謝罪した。

翌日の19日朝刊では、長崎新聞を含む各社が記事を掲載した。

ところが、長崎新聞と他のメディアで、報じ方に大きな違いがあった。

西日本新聞や読売新聞などは、紙面の何段分ものスペースを見出しに割き、県の落ち度を指摘。遺族の声も載せた。

一方で、長崎新聞の記事は県の釈明を前面に出した。県の「学校の立場を積極的に正しいと追認したとは思わない」や、「『転校はおかしい』と強調するあまり、『突然死』という表現を少し軽んじてしまったのではないか」という発言を取り上げた。見出しも、紙面の1段分のスペースに小さく掲載されただけだった。

さおりは、長崎新聞のこの記事を読んだ時の驚きを意見書に書いた。記事のコピーは千葉支局長の正村一朗に手紙を送った際に同封したが、また今回も審査委員会に提供した。正村は手紙を受け取った事実すら石川に隠した。審査委員会が当該記事を正村と共有しているか分からないからだ。

“県が記者会見をおこない、その様子がニュースで放映されたことも影響したのか、翌日の18日の県内の各紙が一斉に、紙面に掲載しました。その内容につきましては、既に千葉支局長にお送りしたのですが、改めて今回も同一の記事をお渡しいたします。
各社の記事を読んでいただければお分かりかと存じますが、県が不適切な発言を認めたことが掲載されています。
しかし、長崎新聞だけが違う観点で記事を掲載していました。県が記者会見で「学校の立場を積極的に正しいとは追認したとは思わない」との見解を示した、との内容でした。
長崎新聞は、約16万部が発行されており、県内では多くの読者がいると思われます。私たちも結婚してから約25年間、長崎新聞を購読しています。
その紙面で、「県は追認していない」と断言されたとき、私たちは衝撃を受けました。
ニュースや新聞、インターネット、様々な媒体で県の対応が適切でなかったことが記事になったにも関わらず、私たちが住む町の新聞社だけは県を擁護したのです。”

●「堂下記者の理解できない発言」

長崎新聞が県の肩を持っていたことは、記事を執筆した記者・堂下康一自身が認めている。さおりは、記事を出した数日後に堂下からかかってきた電話について記した。

“悶々とした中で、当時の長崎新聞の担当記者(堂下康一記者)から電話がありました。
堂下記者は、この日の長崎新聞の記事に対する所感を次のように話されました。
「いじめ防止対策推進法を守らなくてはいけないのは学校であり、県ではない。県は悪くありません。よって、長崎新聞としてはこのような記事にしました」
この日を境に、堂下記者は、私たちの事案の担当から外れました。”

さおりも大助も、堂下の発言が理解できなかった。県自身が非を認め、遺族に謝罪している。なぜ、長崎新聞が「県は悪くない」と言えるのか。

“私たちは、長崎新聞の記事も堂下記者の発言も理解できませんでした。いじめ防止対策推進法は、子どもを守るための法律です。全ての人がこの法律を守る義務があると思います。県は私立学校を指導するべき立場にあります。その県がこの法律を守らなくても良いというのは、あり得ないことです。
実際、長崎新聞の記事を読んだ友人等の複数名から、「長崎新聞は県の味方なのか? 」と質問されました。私たち遺族の感覚だけがおかしいのではなく、同じように長崎新聞の姿勢に疑問を覚えた人が大勢いた証拠だと思います。
私たちは上記の質問に対して「そうなんじゃないの」としか答えることしかできませんでした。
私たちはこれまでの経験上、報道のもつ影響力を知っていただけに、長崎新聞の記事は大変落胆いたしました。さらに追い打ちをかけるように、堂下記者の後任の記者を紹介されることもなく、長崎新聞とのやり取りはなくなったのです。
なぜ長崎新聞だけが、県側を擁護する記事を敢えて掲載したのか、県と歩調を合わせる必要性があったのか、今でも疑問に思います。”

長崎新聞の報道姿勢にみる問題が根深いのは、長崎新聞単独ではなく、県と海星学園と共に、力の強い三者が自分たちを苦しめる構図があるということだ。さおりはこの構図の中に身を置く心境を、次のように記した。

“子どもの命に関わる問題、そしていじめで苦しんだ子どもの尊厳は、突然死を提案した学校だけではなく、それを追認する発言をした県、そして県は追認していないと公の新聞で報道した長崎新聞によって、抹殺されるような恐怖を抱きました。”

=つづく
(敬称略)

※この記事の内容は、2023年6月14日時点のものです。

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