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Vol.24007 能登半島地震 孤立避難所を訪問して

医療ガバナンス学会 (2024年1月12日 09:00)


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三豊総合病院 卒後臨床研修センター
遠藤通意

2024年1月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は日頃は香川県の病院で研修医をしてます。能登半島の輪島市に7日の朝から現地入りしています。

そのきっかけは「現場からの医療改革推進協議会」で登壇されていたオレンジホームケアクリニックの紅谷浩之先生とお話して、「後日オレンジを見学させていただけないか」とメッセージを送ったことでした。
元々、1月12日に伺う予定でしたが、震災が起こり、オレンジチームも現地入りするという情報を得たので、紅谷先生に連絡を取り、オレンジの方と一緒に現地入りさせていただくことになりました。

今回は、昨日の1月10日(4日目)のことについて報告させていただきます。

昨日は朝から輪島市の南西に位置する門前町の孤立避難所に行きました。
門前町で開業している大和太郎先生からの依頼です。震災数日後は徒歩でもアクセスできたのですが、余震や雨、雪により道路が寸断し、自衛隊でもアクセス困難になったためです。

トレイルランが趣味の一般社団法人「Think Locally Act Globally」事務局長の小島路生さんと宮崎大学医学部看護学科 生活・基盤看護学講座教授の板谷智也先生の お2人に先導していただき、他、かがやき在宅診療所院長の野口晃先生や北陸学院大学の田中純一先生と僕の5人で向かいました。
道路は10mくらいの巨大な岩、土砂で塞がれていたため、当初は通信がないと伺っていたのでスペースX者が開発した「Starlink」を持って行くつもりでした。しかし、Starlinkのアンテナの大きさが594×383×39.7mm(縦×横×厚さ)。重さは2.9kgと大きく足元が悪い場所で両手が塞がった状態での運搬困難でした。そのため、聴診器や血圧計、カロナールなど最低限だけ持って、地殻変動して隆起した死んだ海藻が付着した岩だらけの海底を歩き、1km程度の道を1時間程度で行きました。(ref)

途中、土砂や小さめの岩が落ちてくるのを見ましたが、距離を取って歩いて、無事到着し、避難所の方と会い、体調や状況を確認しました。

昨日、それまで自分達で歩いて取りに行っていた物資を自衛隊が海上から持ってきていたり、地域の団結力や、湧水、発電機、漁の町のためガソリンを貯蓄していたり、現在や過去の地区長さんや他中心人物が避難所の環境を気にかけ、非常に安定した避難所でした。そこに避難していた人は最初の58人から減って42人になっていました。また、裏の山のところにも2人いらっしゃると伺いました。

医療面では、腰痛で寝れない方にカロナールを渡すとか、肉眼的血尿のある方はすぐこの場で治療ため、避難した落ち着いた環境で泌尿器科、軽度外傷程度で、特にすぐに医療の介入が必要な感じもしませんでした。他の避難所でも直面している常用薬の不足もありましたが、自衛隊にお薬手帳や処方内容が分かるものを渡ししているのでそのうち届くそうです。

しかし、よく土砂崩れや岩が落ちてくる音が聞こえること、以前の2007年に起こった地震では港から船で出れましたが、今回は海面隆起で船が出せません。また、若い人でも50歳代、元地区長さんが70歳くらいで若い方というような高齢化も相まって、状況は深刻でした。

避難所には電波がやっと昨日届いたような地域のため、情報が入っておらず、「輪島市内の方で火災があったらしいよ」とか、以前の地震の経験から1年程度で回復すると考え、当時は楽観的に考えてしまっていたようでした。正確な情報を知り、事態の深刻さを再認識されたようです。

ただ、10年ほど前に避難した環境が寒かったり、悪かったこともあり、今回の避難所環境を考えると避難を躊躇するのに影響していると思います。

現地の方は「高齢なので1週間は持つけど、1ヶ月はむり」「近くの土砂災害の状況も遠くて見てないから分からない」など避難者は話されていました。能登北部は壊滅状態なので、金沢や県外への避難は必須ですが、現状を知らないため、「避難の必要性や電波が入ってくる情報を踏まえて、要相談していただくように」お伝えしました。

夜のDMATの本会議の終わりに自衛隊の方に伺ったら、まだまだ地震や雨、雪の影響で滝又(たきまた)、鵜入(うにゅう)、空熊(そらくま)などアクセス困難な地域が数多くあり、DMATとしても把握できてないところもかなりあるということも判明し、門前と同じような避難所があることを考えるとかなり時間を要すると思いました。

輪島市の他の状況として、ニュースでも報道されている感染症が、ある避難所では8割程度嘔吐しており、スタッフまでも症状が現れている状況で、そこから出る避難者もいるとのことでした。

また、薬はモバイルファーマシーが1月11日から始動しますが、薬剤が少なく、使いそうな薬がそれぞれ200錠だけ、県からの薬剤師が宿泊場所がないため開いている時間も10:00-15:30と短く、十分機能せず、地域の薬局も4つ開けているため、保健処方箋と災害処方箋のそれぞれの対応が混乱しやすい状況になってしまっています。

また引き続き報告させていただきます。
また、今回私が現地入りすることに対して、研修先である三豊総合病院の病院長、研修担当責任者先生、放射線部長の先生の承諾や、紅谷先生をはじめとするオレンジホームケアクリニックの方々や現地に支援に入られている方、輪島市で開業されている先生方にこのような貴重な現場で得難い経験をさせてもらっていることに感謝申し上げます。
地震現場の写真

http://expres.umin.jp/mric/mric_24007.pdf

ref:海岸線隆起のニュース

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240105/amp/k10014311411000.html

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